頼まれました。
見切り発車です。
完結目指してがんばります。
「ルーシー嬢。息子の嫁候補を見繕ってほしい。」
隣国の王、ロベルト・レッドグレイヴ陛下はそう言い、私に頭を下げた。
私、ルーシー・ダッドリーは持ち上げかけた紅茶をそのまま下ろして固まっていた。
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私はジェラード帝国の宰相であるお父様と、隣国であるノヴェロ王国出身のお母様との一人娘だ。お父様譲りの銀の髪と高い身長、お母様に似た淡い青の瞳と顔立ちを持つ15歳。
今日はお母様の里帰りに家族一緒で来ていた。初めて来る隣国は街並みも人も服装もジェラード帝国と少し違っていて、早く街を歩いてみたい、そう心踊らせながら馬車に揺られていた。
そしたらなんと、馬車は王宮に入って行き、両親に連れられるまま王宮の奥の部屋まで案内された。
なんで里帰りで王宮に?って思ってたけど、どうやらお母様とロベルト陛下は異母兄妹らしい。(実は初耳。)
そしてお父様はお母様と結婚するために、ロベルト陛下と決闘した仲らしい。これは本題に入る前の雑談で知った。(こっちも初耳。)
あんまり気にしたことはなかったけど、確かにお母様の言動が優雅だったり、温厚な顔のまま天災のようなお説教されたりしたわ。そういえば近所の子に「ルーシーのお母さんって凄く貴族っぽいよね。」とか言われてたわ。それからお母様が「昔オリヴァーとお兄様が私を取り合ったのよ~。」とか言ってた。あと酔ったお父様が「マリーはスゴいんだぞ~。美人で物怖じしなくてでも謙虚で平等でとても高貴な--」とか惚気てたっけ。ちゃんと聞いたことないからうろ覚えだけど。だいたい、そのあとのお父様は面倒なのよね。お母様自慢からの娘自慢してくるから。娘の私に娘自慢してどうするのよ。酔ったら家だろうが公衆の面前だろうが自慢するのよね、恥ずかしいからやめてほしいわ。
……待って、自分でも分かるくらい混乱してるわ。話が違うわね。ちょっと落ち着こう。
「ルーシー、お菓子食べる? 美味しいわよ~。」
お母様がにこやかにお菓子をすすめてくる。細められた淡い青の瞳は、先ほどまでの話がただの世間話であるかのように錯覚させてくれる。
「いきなりの話で混乱させてしまったかな。」
お母様より濃いブラウンの髪を持つロベルト陛下は、紅茶を口元に運んだ後、そう言った。
「ルーシー、断ってもいいんだぞ。アルフォンス殿下は周りに女性を侍らすのが趣味らしいからな。」
「オリヴァー。私としてはそれをどうにかしてほしいからルーシー嬢に頼んでいるのだ。断らせないでくれ。」
若干怒り気味なお父様の言葉に、ロベルト陛下は苦笑いをした。
「それをルーシーに頼むのが分からない!」
「さっきも話したが頼める人材が少なくてね。とくに令嬢周辺はなかなか調査が進まなくて。」
「アルフォンス殿下に直接聞けばいいでしょう!?」
「アルは、私とゆっくり話す時間を作ってくれないんだ……」
「お兄様、家族の時間は作りなさいってあれほど言ったでしょう~?」
「作ったとも! リズと三人でお茶は毎日必ず! ……でも、なぜかアルと二人になると王と皇太子の会話になるんだ。」
悲しそうな顔のロベルト陛下に、お父様は「ちゃんと殿下と向き合ったのか?」と呟いた。お母様も「お兄様はすぐ仕事の顔するからね~。」と追い討ちをかける。
いや、あの、私はお父様にもお母様にも一言言いたい。二人も陛下とあまり変わりませんよ?
今回の旅行だって、出発の前日にお母様から「出かけるから準備してね~。」って言われたし、お父様は前に私が数日出かけるって言ったのにちゃんと聞いてなくて兵士を連れて捜索しに来たでしょ。時間作ってもちゃんと話してるかどうかは別だと思うんだけど。
「あの……引き受けるかどうかは別として、どうやってそのご令嬢たち?と会うのでしょうか?」
「? ……うちの学園に留学しに来てくれたんだろう?」
「留学?」
確か、ノヴェロ王国には貴族向けと平民向けの学園があるんだっけ。貴族向けはお母様が昔通ったって言ってたような。
「マリー、話してなかったのか?」
「あれ? 言わなかったっけ? ルーシー、貴女は来週からノヴェロの学園に留学するのよ。」
聞いてません。