赤い兄弟
むしゃむしゃ、むしゃむしゃ……。
私はひたすら草を食べていた。
これは決して飢えを凌いでいる訳では無い。
私だって、そこまではひもじくないのだ。
折角仕留めた帝王カエルを回収損ねたのは、結婚ショックなのだが……。
▽HPが回復限界まで回復しました。
おおっやっとか、草を食べ始めて十五分。
確かに、そう言われると身が軽くなった気がする。
蹴られて血に滲んでた毛も、いつも通りのもふもふだ。
今、私が食べてたのはケリール草といって、HPを回復する薬草だ。
基本、どこにでも生えているが、ジメジメした所に多く生えている。
まぁそんな訳で、洞窟内でのHP回復源って訳だ。
前世はお湯に溶かしで摂取してたけど、生でもいけるね。
少し、ほろっと苦いけれど、オトナの味。ってやつ?
身体が変わって、味覚がおかしくなってるだけかもだけど。
ちなみに、アイテムによる回復は限界があって、アイテムを摂取すれば全治、という訳じゃない。
今回は、残りの10Pは時間経過で回復だ。
MPも減っている状態で、レベルアップしても最大値に回復はしないらしい。追加分だけ回復だ。
ちなみに今回はディフェンスに振っておいた。
帝王カエルのキックを喰らい、やっぱり痛いのは嫌だ。と再認識した為である。
+250して、ディフェンス258になった。
多分、小石程度なら当たっても痛くないはず。
あっそうだ、新スキルの「獣の咆哮」を試してみようか。
HPは全開してないし、今はやる事も無い。
MPは現在37。消費MPってどのくらいなのかな。
▽質問確認。スキル「獣の咆哮」は発動範囲によって消費MPが変化します。最小範囲で半径50メートル。消費MPは3です。
よし、全然余裕だね。
……で、一つ聞いておきたいんだけど、これ使ったからって帝王カエルの群れは来ないよね?
▽質問確認。同種のモンスターのみに影響を与える為、帝王カエルには効果は無いです。
良かった良かった。
一匹であの威力だ。あんな数の群れが押し寄せたら死ぬ予感しかしない。
運良く逃げ切れても、今度こそトラウマになりかねん。
ではでは、使ってみよう。
スキル「獣の咆哮」発動ぅ!!
……あれ?
私がちょっと調子に乗り、格好良く叫んでみても何も起きない。
▽発動後、叫んで下さい。
あ、叫ばなきゃいけないのか。
確かに帝王カエルも鳴いてたしね。
「ピィィイイイイ!!」
私が思いっきり口を開き、声を出すと、ホイッスルのような音が響き渡った。
ケサランパサランの中では低音ボイスなんだろうけど、結構耳が痛くなるほど、高い音だ。
洞窟内にどんどん音が反響していく。
地形的にも、結構叫ぶと楽しい。
ボーッと、その場で私が待っていると、何やら道の方から音がした。
影から現れたのは、赤色のもふもふ。
……おおっ、お仲間だ。
しかし、私の前に現れたお仲間は何やら様子が違う。
赤い身体に、炎結晶の欠片みたいな物が二本、頭に突き刺さっており、角のように見える。
見た目から熱そうだなぁ……。
▽進化先「レッド」です。
スキル「火炎放射」が使用可能です。
「レッド」だなんて、進化先もあるんだね。
ゴブリンと違って、結構多種多様な感じだ。
「火炎放射」なんて、カッコイイな。
イメージだが、強そうだし、是非とも習得したい。
▽進化先「レッド」はアイテム「炎結晶」を摂取。
状態異常やけどでHP0にならずに三十分で進化です。
……三十分耐久!?
予想以上の数字に私は驚嘆した。
ケリール草を食べながらなら案外大丈夫なのかもしれないが、明らかに辛そうだ。
手を出すのは、もっとディフェンス上げたりしてからでいいかなぁ。
私がレッド君そっちのけで色々と考えていると、何の用事も無いという事に気付いたのか、すたすたと去って行ってしまった。
わざわざ呼び出してすまないよ。
だけど良い発見が出来たな。
前世では進化する機会なんて無かったし……。
戦闘なんて大嫌いだった私が、心外にも少しずつ強くなる事に、心を踊らせていたのだった。