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VS帝王カエル

 「ねぇ……これなんて読むの?」


 珍しく洞窟の外に出た私は、ある女の子と話していた。

 森の切り株をテーブルに、沢山の本が並んでいる。

 これらは全て彼女が持ってきた物だ、人間語を教えてくれるとの事らしい。


 「ねぇあなたみたいに人間語も話せないで山奥に篭ってる人の事を世捨て人って言うらしいわ」


 彼女は小さく笑ってそう言った。

 難しい言葉だが、お父さんに教えて貰ったらしい。

 失敬な、私だってちょっとは話せるぞ。と威張って見せる。

 そんな姿にも彼女はくすくす笑っていた。

 でも、君がこうやって言葉を教えに来なくなっちゃうなら、話せるようになりたくないな……。

 そう思ってしまうのは迷惑なんだろうか。


 暖かい記憶に浸っていると、突然場面が切り替わる。

 血相を変えた彼女が、私を突き飛ばした。

 原因は些細な事だったと思う。

 だけども、異種族の私達にとっては致命的な物だった。


 「やめて!近寄らないで!」


 そう彼女は糾弾した。

 涙を浮かべながら、突き放され、もう私は彼女に近づく力さえ無かった。

 上手くいってると思ってた関係は、あっという間に崩れてしまった。

 元々、彼女にとって私は、ただの知り合い程度だったのだろうか。

 そんな疑問も今になっては確かめる術が無い。


 薄れゆく、彼女の面影に手を伸ばしながら、私の意識は現在に戻り始めていた。



 あぁ……嫌な夢を見た


 家の近くの岩陰、もとい現在の本拠地に戻った私は、昨日は結構走り回ったからか、いつの間にか眠りについていたらしい。

 身体は変わったが、中身は一緒。

 特に疲れた時にこの夢を見るのは変わらないようだった。


 ▽状態異常無し。ですが、大丈夫ですか?


 あぁ、うん、大丈夫だよ天の声ちゃん。

 ちょっと嫌な夢を見ただけだ。

 いい加減、彼女の事、忘れたいんだけどなぁ……。


 どうしても夢が原因で思考が暗くなってしまう。

 いつまでも引きずってはいけないと、慌てて、暗い考えを振り払い、前を向く。


 よし、今日こそ帝王カエルを捕まえるぞ……!


 ▽……。


 今日もまた、狭い道を進んでいると、昨日と同じ茂みの所へとやってきた。

 相変わらずコロコロとゴマコオロギの鳴き声が響いているが、そこにら昨日とは違う影があった。


 帝王カエルの後ろ姿だ。

 ゴマコオロギを捕食しているらしい。

 ゴブリンの時は小さく感じたが、新しい身体で、こう改めて見ると大きく感じるな……。


 やけに強そうに見えてきた、その後ろ姿に身震いしていると、ある事を思い出した。

 L v5になったから「波おこし」が使えるようになったという事。


 ……スピード上げた意味って??

 早くも自分のステータス振りに後悔していると、帝王カエルがお食事を終え、跳び去ろうとしていた。


 慌てて、背後から近づく。

 折角見つけた帝王カエルだ、このチャンスは無下に出来ない。

 逃げられないか不安を抱えながら、慎重に近づいていく。


 いくらゴブリン時代、余裕で狩っていたからと言ったって、新しい身体はサイズもステータスもまだまだ未熟だ。

 油断は出来ない。

 戦術的にもできるだけ、不意打ちを狙った方がいいだろう。


 バレるか、バレないかの間で止まり、狙いを定める。

 狙うのは帝王カエルの足元。それも出来れば後ろ足辺りを狙いたい。


 屈強な後ろ足を封じ込められれば、一気に戦い易くなる。



 ーースキル「波おこし」発動!!



 そう心の中で叫んだ途端、帝王カエルの足元が蠢く。

 轟くような音と揺れに気付いた帝王カエルが、慌ててその場を離れようとする。


 ーーもう遅い。


 帝王カエルはゲル状になった地面に足を奪われ、無様に足掻いている。

 私はそのチャンスを見逃しはしなかった。


 うぉぉぉりゃぁああ!


 慈悲など無い。

 咆哮と共に、帝王カエルの肥えた腹に思い切り噛み付いてやった。


 「ガァッァァァ!」


 鋭い牙がゴムのような皮へと刺さった。

 グネリ……と今まで感じた事のない感触に思わずたじろぐ。


 (落ち着け……!)


 戸惑いをすぐに振り払い、私はそのまま牙を刺し続けた。

 鋭利な先が皮から肉へと達し、激しく紫色の血が噴水のように、辺りに飛び交う。


 「ウガッ……ガガァ……」


 苦しそうに唸る帝王カエル。


 ーーいけたな。


 そう、確信した時だ。



 …………いっだっっ!?


 左頬の辺りに強い刺激が走った。

 電撃が走ったような、痺れるその痛みに牙を離し、転がるように後退する。


 どこにそんな力が残っていたのだろう。

 その足で、帝王カエルが私の左頬を蹴り上げたのだ。


 腹から紫色の血を垂らしながらも、帝王カエルは立ち上がる。

 そして……ニヤリ。と笑ってみせた様に見えた。


 まるで「攻守交代だ」と言っているかのように。


 その薄気味悪い笑みに、身体中に悪寒が走った。

 今まで一方的に狩っていた相手だが、これは戦闘だ。

 そう、実感させられた。


 思わず後退る私を見た帝王カエルは、その足で地面を蹴り上げ、宙へと浮く。

 空を飛んでいる訳では無い、跳躍しているだけだ。

 そう、そのはずだが、まるで空を舞っているように見えたソレは

 勢いのまま、此方へと突っ込んで来た。


 隕石のように落ちて来る帝王カエルを、慌てて避ける。


 ドスッ……。


 重い音がし、其方を見ると

 今まで私がいた場所に、クレーターのような穴が出来ている。


 着地の勢いまで、利用し、再び帝王カエルが宙へ浮かぶ。

 そしてキックしながら着地し、地面にクレーターを作っていく。

 次々と降り注ぐ隕石のようなキックに、逃げるので精一杯だった。


 切れた腹から血を振り撒きながらも、勢いが衰える事はなく、逆に増している気がする。


 何とか此方もジャンプの要領で躱していく。

 しかし、息もかなり乱れてきた。


 ーーそろそろ、体力も限界だ、決着をつけなければ負ける!


 そう悟った瞬間だ。

 急に目線がぐるりと歪んだ。

 いや、正確には身体が歪み、バランスを崩した。


 慌てて、周りの状況を確認する。

 滑らせた足元には半球のような穴。

 バランスを崩した原因はコレだろう。


 そして……それが周りには無数に広がっている。


 ーー帝王カエルの作ったクレーターだ。


 ずっと当たらない攻撃を仕掛けていた帝王カエルは、これが目的だったのだ。


 再び、帝王カエルが跳躍し、落ちて来る。

 必死にバランスを取り戻そうとするが、上手くいかない。


 ーーこうなったら腹を括るしか無い


 此方へと降り注いでくる隕石を、私はそのまま直視し、止まった。


 ……っ、ぐあっ……


 全身へと轟くような衝撃が伝わる。

 腹はひっくり返り、頭は割れそうな痛みに、歯を食いしばった。

 口内には鉄の香りが広がる。


 まず、状況確認だ。

 キックをした帝王カエルとの距離は……十分近い。

 私は痛みで震える身体に鞭を打ち、そのまま血が滲んでいる腹へと噛み付いた。


 「ウガッ……ッ!」


 既に重傷を負っている腹に噛み付かれ、唸り声をあげている。

 仰け反った帝王カエルに、そのままのしかかり、体重で潰す。


 私の力技に、帝王カエルが痙攣し、動かなくなったと思った時だ。



 「ガァァァァアアア!」



 その瞬間、帝王カエル轟くような声で鳴いた。

 まだ、生きているのかと身構えした時だ。

 低く、響き渡るような唸り声を最期に、もう帝王カエルは動かなくなった。


 ……か、勝ったぞ……!!


 突然訪れた勝利に驚きつつも、身を喜びで震わせる。


 ▽帝王カエルとの戦闘に勝利。

 ▽勝利特典 スキル「獣の咆哮」を獲得。

 ▽L v6になりました。ステータスポイントの割り振りをお願いします。

 ▽HPが残り3です。休息、薬草等のアイテムで回復をしましょう。

 ▽MPが残り3です。休息を取りましょう。


 HP残り3……かなり、危ない所だった。

 レベル上げの前に戦闘してたら、即死レベルだったかもしれない。


 摩耗した身体で、大人しく本拠地に戻ろうとしている時だ。

 天の声ちゃんがスキルの説明を始めた。


 ▽要請確認。スキル「獣の咆哮」は仲間を呼ぶ事のできるスキルです。帝王カエルが低い声で鳴いた時、このスキルを使用しています。


 ん? 低い声で鳴いた時……仲間を呼ぶ……。


 (凄い、凄い嫌な予感がする)


 そう思った瞬間、後方から、唸るような地響きがする。

 そして、次に聞こえたのが。


 ゲェェエ!ガァァアアア!


 大量の帝王カエルの鳴き声。

 低い声が束になり、まるで波のように振動している。


 嫌な予感が的中してしまった……。

 恐らく、最後にアイツは「獣の咆哮」という置き土産を残していったのだ。


 そう思っている間にも、興奮した様子の帝王カエル達が此方に向かって走ってくる。

 地面はその後ろ足に蹴り上げられ、ぼこぼこと揺れていた。


 死にかけだし、とてもじゃないけど、あの数は相手に出来ない。


 考える前に、勝手に身体が動いていた。


 ーーそう、逃げるが勝ちだ……!!


 暗い洞窟内を必死に走る。


 痛む身体に鞭を打ち、前を見る。

 足場も悪く、幾度か転びそうになったが、ここで転んだら一生の終わりだ。

 何とかバランスを保ちながら走り続ける。


 いくら走っても、後ろからは唸り声と地響き。

 ……執拗に追いかけてき過ぎでしょ!!


 帝王カエルをなるべく巻けるように、洞窟内を流れる小さな湧水の川を渡り、急な斜面を登り、「波おこし」で相手の足場を崩していく。


 そのおかげか、本拠地に着く頃には、唸り声も地響きも聞こえなくなっていた。

 乱れる息を整えながら、汚れた身体を家の近くの水場で洗う。


 あの時捕まっていたら……考えるだけで全身が恐怖で震える。

 やっぱりスピードに振っておいて良かった。と心から思った一日だった。

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