はじめての狩り
ぎゅるるるるっ……え、何の音だ?
辺りに響いたモンスターの唸り声のような音。いきなり轟く音に寝ていた私は思わず飛び起きた。
▽質問確認。状態異常空腹が原因と推測します。
どうやら、自分の腹の虫が原因だったらしい……女の子として、恥ずかしいね。空腹って言われると、途端にお腹が空いてきた。忘れていた飢餓感が身体に蘇る。そういえば、生まれてから青い石と骨しか口に入れていない。この二つが食べ物として認識していいのか、微妙なラインではあるが。
そうなると、食料調達に行かなきゃいけないのか。
家にあった保存食は滅茶苦茶にされており、殆どが駄目になっている。前世では愛用していた罠は手が無いから使えないし。折角家に戻ってきたのに、良い事が何一つも無い事実に項垂れた。
狩り、狩りかぁ……。
ゴブリンの時は苦手だった戦闘。主に罠で獲物を引っ捕らえていた訳だが、今はただのもふもふ。罠とか設置出来ません。この牙と、サーフィンで何とか仕留められるかな?
……前世の肉、食べとくんだった。
何とか倒せないかと脳内シュミレーションをしながら、作戦を練っていると、一つ名案が浮かんだ。サーフィンで相手の足場に波をつくって、バランス崩した所に奇襲という案だ。自分だって、あの波に乗るのは苦労した。突然、足元が揺らげば、かなり此方が有利になる。
▽質問確認。自分の接点以外に波を作るスキル「波おこし」は、スキル「サーフィン」の派生スキルです。L v5で開放。
……使えないんかい。
転生してから何度目かの、脳内ツッコミを入れる。
再び頭を捻り、何とか仕留められる方法を模索する。
あっそうだ。
サーフィンで波を作って、飛び降り、生き埋めにするっていうのはどうだろう。昨日も家へと到着した時、砂はすぐに戻って、地面に落ちていった。あの下に獲物がいたら、中々の攻撃力になると思うんだけど。
▽質問確認。可能です。
しかし、高波から飛び降りた場合、着地失敗でダメージの為、高波からの飛び降りは推奨しません。
落下ダメージとかあるんか、まぁ当たり前か。家とか着地できる高台があればいいけど、そんな都合良く見つかる事は殆ど無いだろう。とりあえず、飛び降りてもダメージが入らない程度の波で、生き埋めにできる獲物を狙う。という事で脳内作戦会議は終了した。
さて、肝心の獲物を探さなくては。作戦も決まり、私はまた洞窟内を歩き回っていた。今回の作戦は「サーフィン」を使う為、MP浪費防止に歩きである。
そろそろ疲れ始めたという頃に、藪のような場所で丁度良い獲物が見つかった。
ガァァ、ガァァ。
目の前で呑気に鳴いてるのは帝王カエル。可愛らしいとは言い難い声と、マスコット化はできない見た目だが、ゴブリンの時もお世話になりました。ヌルヌルした見た目なのに、干し肉にしても肉が残る程、水分少なめのカエル系モンスター。香辛料を付けて、焼くと美味しい。
さて、いよいよ作戦実行だ。帝王カエルの背後で、波をつくる。いつも通り、ぼこぼこと地面が揺れた。高波の時より、揺れは少ないが、相手だって鈍感では無い。
じゃあ、どうなったかって?
揺れを察知した、帝王カエルは、猛スピードで逃げて行った。
ちょっ、ちょっと待て!
波に乗り、必死に追いかけるがその差はどんどん開いていくばかり。洞窟の複雑な地形も相まって、ついにはその姿を眩ませてしまった。
……スピードが足を引っ張りすぎだよ!
心の叫びも虚しく、帝王カエルとの追いかけっこのせいで、余計に腹の虫は元気になっている。食料をどうするべきかと頭を抱えていると、頭にまたまた声が響いた。
▽質問確認。近くに虫系モンスター「ゴマコオロギ」を発見。
確かに、右手の茂みに小さい虫がコロコロ鳴いている。秋を感じさせる音だが、実は一年中鳴きつづけているという。ゴマコオロギは、小さな身体に不釣あいな大きな足を持ち、すばしっこい見た目してる虫系モンスターだ。しかし、そんな見た目とは裏腹に凄い鈍足な残念モンスターだ。繁殖力とうるささにかけては一人前な彼らは立派な食料になる。……なるんだけど、味が……。
香ばしい香りがした瞬間、泥みたいな味が口にへばりつくのだ。ゴブリンの時も一度口に入れて、後悔した覚えがある。
▽状態異常空腹。あと二十分経過で、一時間毎に1ダメージ。
食べろと言わんばかりに、繰り返す頭の声。
分かった、分かったよ! 食べればいいんでしょ!
自暴自棄に茂みにジャンプして突っ込み、ゴマコオロギに噛み付く。ゴマコオロギはその見た目だけの味をバタつかせ、必死にもがいているが、すぐに動かなくなった。
▽ゴマコオロギとの戦闘に勝利。経験値を獲得。
▽L v2になりました。
▽ステータスポイントの割り振りをお願いします。
能天気なパラッパラー!という音と共に、レベルが上がったらしい。もう、レベルが上がっちゃったらしい、前世より幾分も成長が早い気がする。そういえば戦闘に勝利しないと経験値入らないんだっけ、狩りは頻繁にやってかないといけないのかぁ。
ステータスの割り振りとかあるけど、とりあえず新鮮なうちに食べちゃいたいな。
後回しじゃ駄目かね?
▽質問確認。大丈夫です。
ありがとう。それでは、いざ、実食。手もないので、調理する術が無い私は、そのまま新鮮な生で頂きます。まだ神経が生きてるのか足は地味に動いている……。
勢いで食べちゃえ!と思い切ってかぶりつく。その瞬間、口に香ばしい香りが広がった。その直後、泥臭い味が広がる。でも身体が違うからか、ゴブリンの時よりかなりマシだ。美味い!って訳では無いが、普通にいける。まぁ蠢く足の感触は気持ち悪いけど……。
▽状態異常回復。適度な飲食を心がけましょう。
はい、ご馳走様。
私は転生初の食事を終えたのだった