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何かの跡

 割れるように頭が痛い。重い身体を引きずるようにして、何とか顔を上げた。


 一体、何が起こったの……?


 ▽質問確認。MPが0になった事により、状態異常気絶。

  MPが1回復したため、状態異常回復。経過時間およそ五分間。


 MPって昨日見たステータスに書いてあったな。ゴブリンの時はスキルとか使えなかったし、気にもしてなかった。五分で回復するとはいえ、危険な洞窟で気絶するのは避けたい。


 MP切れの警告、早めてもらってもいいかな?


 ▽要請確認。MP切れの警告を1から3に引き上げます。


 ありがとうね天の声ちゃん。さて、前方に広がるのは、先程までの狭い道とは大きく変わり、広場のような場所。そこには小さな家が一軒。そう、我が家だ!見た目はかなり見窄らしいが、こう見えても暮らし心地は中々良い。

 まず、外から採ってきた木で骨組みをつくり、頑丈なテカラヌというヤシの木みたいな葉を編んで作った床を、ハンモックのように骨組みに括り付ける。あとは藁を、屋根として骨組みに被せ、壁代わりに虫系モンスターが嫌がるサンドールというツタ系植物を編んだネットをぶら下げて作った私の自信作だ。ハンモックなんかは昔、人間に教えて貰った物だ。まだ小さかった時、お手製の白粉つけて、人間のフリして会った事がある……まぁ、すぐに会えなくなったけど。


 軽く苦い思い出を思い出した所で今日は家で休もうかと思い、家に近づく。すぐ近くまでやってくると、前までは余裕で登れた床下の段差が、今では絶壁に見える。虫系モンスターが入ってこないように、床を高くしているのだが、今の背丈じゃ登れない事を忘れていた。我が家はもう目と鼻の先だというのに、入れない虚しさに心を浸していると、また頭に声が響いた。


 ▽自動解答。スキル「サーフィン」で高波を発生させれば可能。


 「サーフィン」って高波も作れるんだね。その要領で、低い波にすれば乗り易いかもしれない。でもMP切れという苦い思い出が……。


 ▽自動解答。現在MP2。三分程、スキル「サーフィン」使用可能。


 MP、また1回復していたのか。もう我が家はすぐそこ、三分使えれば十分だろう。


 スキル「サーフィン」発動!


 ▽要請確認。スキル「サーフィン」を発動します。


 天の声ちゃんの無機質な声がした瞬間、また地面が蠢きはじめ、盛り上がる。しかし、波の高さは前と同じ。床下の段差を越えるには、全然高さが足りないのだ。これ、どうやって高くするんだろうか。


 ▽質問確認。高波の発生の仕方ーー地面に接した部分に魔力を集めるイメージをする。


 魔力を集めるイメージ……どんなイメージよ。心内でツッコミをしながら、とりあえず、破ァ的なイメージでお腹に力を込めてみる。その瞬間、視界が揺らぐ程、大きく地面が揺れた。いきなり動き始めた足場、必死にバランスを取っていると、景色が少しずつ変わっていく。揺れが収まり、前方を見ると家の入り口がすぐそこに見えた。


 (結構すんなりできた! これどれだけ高い位置にいるんだろう)


 そう思い下を覗いた瞬間、後悔した。自分の背丈の何倍もの高さ、先程までいた位置がかなり下に見える。周りに支える物は無く、無駄に開けた視界。これ、落ちたらどうなるの。と考えた瞬間、手足は無いけど足がすくんだ。


 恐る恐る、波を家に近づけて、そっと降りる。

 家の床に着地し、ホッと息をついていると、先程まで私を支えていた砂の波は元の砂達へと戻り、すぐに崩れ地面に戻っていった。パラパラと砂が落ちた音を聞きながら、久しぶりの我が家を見回す。


 ……え?


 飽きる程見てきた我が家。今は違う身体でも、どこか懐かしさを感じる。前世とは言え、日頃暮らしてきた家には愛着が湧くものだ。見間違えるはずのない家、確かにそこは自分の家だが、いつもと違う点があった。

 

 そう、何故か「荒らされていた」

 そう、荒らされていたのだ。保存食を保管する棚、狩りの道具置き場、ご飯を食べる為のスペース、全てが嵐が過ぎた後のように、滅茶苦茶にされている。最初はかなりの年月が経ってしまったのかと疑ったが、ケサランパサランの卵の孵化は三日~一週間と速い。第一、私の死体は腐敗も白骨化もしていなかった。年月が経過したせいという案は消え去った。


 もう一つ考えられたのは、他のモンスターがやったのか。という所。

 しかし、一番に狙いそうな食料達は大半が床に撒かれ駄目になっているが、何一つ取られていない。ゴブリンが重宝している狩り道具や罠も、そのままだ。

 本当に嵐でも来たのか、という家の惨状に頭を抱えていると、ふと視界に何かが入った。慌てて近寄ってみてみると、床に泥がついている。その泥は綺麗に足跡の形になっていた。しかし、その形が問題だった。

 草鞋のような形の足跡ーー人間の足跡だったのだ。人間がどうしてゴブリンの家なんかに入ったのだろう?道具の技術力だって人間の方が上の為、わざわざ盗む必要性は無いし、食料も取られていない。悪戯としては執拗に荒らされすぎだし、第一冒険者ならわざわざモンスターの怒りを買うような事はしない。


 絶対に安全だと思っていた大事な家。そんな拠点が何者かによって荒らされていた事実に、頭が追いつかなかった。またこの荒らしの犯人が戻ってくる可能性だってある。とりあえず私は、家の近くの岩陰で身を休める事にした。

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