もふもふ、波に乗る
ぴょんぴょん、ぴょんぴょん……。
ひたすら跳ねて移動する私の姿は、そんな擬音が似合いそうだ。小さな身体で前世より歩幅というか跳び幅が小さいからか、スピードのステータスが低いからか分からないが、一向に目的地に着かない。汗をかくモンスターだったら、今頃汗だくのびちょびちょだ。
天の声ちゃん、あとどれくらい?
▽発言把握。残り500メートル程度
だいぶ前に聞いて、600メートルだったのに、結構歩いたつもりだけど、100メートルしか進んで無いのか。前世の私がスピード800とかだったからな、かなり移動スピードに差がある。移動速度って結構大事だね。でもこのままじゃ根が折れるなぁ、もっと速く進める方法って無いのかね。
▽要請確認。スキル「サーフィン」は移動にも使用可能。
おぉ、やっと青龍の石が役に立つのか。嬉々しながら、スキルの発動を試みる。確か心の中で言えばいいんだっけ。
スキル「サーフィン」発動!
▽要請確認。スキル「サーフィン」を発動します。
私が心の中で叫ぶと、ぼこぼこと何やら土が唸りはじめた。辺りの小石が雨粒のように跳ねている……背丈が短いから顔に石が当たるのが少々癪だが。そんな元気な小石と格闘していると、自分の真下がいつの間にか、数センチ盛り上がっていた。
……何これ、結構怖い!そして痛い!
まるで水面のように土がうねる。どんどん動いていく土の山にひたすら押されて、私も動いていく。しかし、案外土というのは痛いらしい、引きづられてるというか、なんか擦り下ろされてる気分だ。
天の声ちゃん、これ使い方合ってるの?
▽スキル「サーフィン」を使用しての移動方法について説明します。
不安になって尋ねると、頭の中に声が響く。今更過ぎないかなぁ。そういうのはもう少し早くお願いしたいです。なんて私の叫びは届くはずもなく、天の声ちゃんは淡々と説明を始める。
▽スキル「サーフィン」は水を操り、波を作るスキル。地中の水分を操る事で、地上でも使用可能。
地中の水分操って、地震とか起きないのかしら。この位の高さの波を作るくらいなら大丈夫なのかな?
って、詳しい説明はいいから! 使い方を早く教えて下さい!
▽移動方法、波にノってください。
い、いきなり雑過ぎないか。さっきとは違い、軽く言い放つように声が響いた。天の声ちゃん拗ねないで、お願い。今頼りになるのは天の声ちゃんだけなのよ。
▽私の実力でお答えできる範囲はここまでです。
……くぅ、己の実力で解決しないとなのか。
私をツッパリのように押し、運んでいく波の上に登れないかと試みる。よく見てみると、同じような間隔で少し波が低くなっていた。歌もダンスも下手でリズム感の無い私だが、頑張ってタイミングを合わせて乗ってみる。
ワン、ツー、ほれっ!
無理矢理だが、土の山に身体をそわせると、少し安定した場所についた。前を見てみると、私はもう押されてはいない。ちゃんと波にノれたのだ。
天の声ちゃん乗れたよーー!
土の山の上、土は先程の私とは比べ物にならないスピードで動いている。風を切って動ける喜びに顔を綻ばせていると、何やらまた頭に声が響いた。
▽MP切れを警告します。MP切れ……
天の声ちゃん、何だって?MPがどうしたの?
何やら聞こえてくる声と警告音に必死で耳を傾けていると、目の前がぐらっと歪み、まるでミラーハウスの中にいるような感覚に襲われた。
必死で状況を確認しようとするが、どんどん意識が遠のいていく。
あれ。また、目の前が真っ暗だ。
私の意識は再び闇へと吸い込まれてしまったのだった。