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討伐

 「冒険者さん、よくぞいらっしゃいました」


 私達を出迎えたのは地面につきそうな程長い髭を拵えたお爺さん。どうやらこの村の村長さんらしく、その風貌も相まって威厳がある。

 ここカンラン村は鉱山の中にあり、村の四方に坑道の入り口がある。世界でも有名な鉱山の一つで、取れた鉱物は世界中に輸出されているんだとか。そのため土が丸出しとなったハゲ山で屈強そうな男達が汗水垂らして働いており、埃臭いのと汗臭いのとで正直居心地は良くない。

 村の役場のような場所で村長さんから詳しい説明と、交通費を頂いた所で外はもう暗くなっていた。そこで村長さんに用意して貰った宿屋に泊まる事になったのだが……どうしてこうなった。


 私が現在いるのは、宿屋の馬屋、デュークの背中の上。村長さんの気遣いで小型使役モンスターは宿泊可能な宿屋にして頂いたらしいのだが、何故か唯一心の支えとなっていた女子会から省かれたのだ。ノエルがぽつりと「やっぱりモリィはここがいいんだね」呟いていたが、そんな訳が無い。確かにデュークの背中は乗り心地が良い、でもノエルの腕の中の方が何倍も暖かくて心地良い。なのに、なのにぃ……。


 「そんな事でずっと落ち込んでいるなんてらしくない。本当に朝からそんなんだとこっちまで調子が狂う。何があった、話してみせろ」


 いきなり聞こえてきたデュークの言葉に驚いた。まるで私の考えている事を全て見透かされているような気がしたからだ。全ていつも通りとはいかないが、調子を保っているつもりだったのに。


 「心が落ち着いてからでいい。溜め込むなよ」


 デュークの優しい言葉に思わず開きそうになった口を固く閉じる。ここで「私は前世持ちで前世がゴブリンだったからクエストに反対だ」と言えればどれだけ楽だっただろうか。


 「デュークは相変わらずお節介ですね。でも、私はいつも通り元気なので大丈夫ですよ!」


 続く沈黙にどこか気まずくなり、耐え切られずに慌てて言葉を返した。少し無理があっただろうか。


 「はぁ、ノエルに心配をかけるなよ」

 「……分かってますよ」


 ……デュークに溜息を吐かれてしまった。

 でも今の関係が崩れるのが怖くて、きっと打ち明ける事はきっと出来ない。今も、これからも。



 「やっとクエストだぁ!」

 「ちょっとミア、案内の方より先に行かないで下さい」

 「まぁまぁ、メレディスさん。元気なのは良いじゃあないですか」


 久しぶりのクエストで色々溜まっているらしいミアが坑道を駆けていく、それをメレディスが叱り、またそれを宥めているのは……小さいおっちゃん。彼の名前はダンテさん。小さい身体とは相反して力持ちで器用なドワーフ族の一人だ。ドワーフ一族がカンラン村の鉱山を管理しているらしく「入り組んだ坑道は迷いますからな」と村長さんが案内役として遣わせてくれたのだ。ちなみに今回はデュークは留守番だ。狭い坑道内でデュークは戦力にならないとメンバーから外されてしまったのだ。それでも「これが俺の仕事なら全うするのみ」と胸を張って言えるデュークは本当に格好良いと思う。


 「いやぁ、毎日身体を動かしたくてしょーがなくてさぁ」


 ミアが楽しげにスキップする度に、私の身体も大きく揺れる。今日は長い坑道を歩くので、体力のあるミアのリュックの上が私の定位置だ。しかし、ノエルとの差がここまであるとは思わなかった。ノエルが大人し過ぎるのか、ミアが活発過ぎるのか……両方か。


 「ここから先は気を付けて下さいね、奴等の巣にかなり近いですから。奴等に見つかる可能性がグッと増します」


 ふと立ち止まったかと思うと、先程まで柔和な雰囲気だったダンテさんが、急に振り返り険しい顔で警告した。坑道に入ってから一時間は経っただろうか、かなり深い所まで来た。ゴブリンが最も恐るべきは人間だ。洞窟のように深い所に危険なモンスターがいない坑道では極力深い所に巣を作るのだろう。


 「こーゆー所にいるゴブリンは、やったら深い所に巣を作るからめんどいんだよねぇ。着いたらうちがぶっ壊しちゃうぞー!」


 ……生きる為ですから、許して下さいな。

 脳内でミアに軽くツッコミつつ、後方にいるノエルを見る。やはりまだ七歳の身体には厳しかったらしく、メレディスについて行きつつも、少し足取りが重い。


 「おーい、ノエル大丈夫?休憩した方が良いんじゃないかな」


 心配になり声を掛けてみると、予想よりも元気な声で「ありがとう、でも大丈夫」と返ってきた。この調子ならクエスト終了までは持ち堪えられるだろう。

 私も昨日よりは落ち着いている。昨晩色々と考えたが、赤き龍のメンバーとして生きて行く上で割り切らなければいけないと思い、くよくよ考え続けるのはやめたのだ。……昔の仲間に聞かせたら「逃げただけじゃないか」と嘲笑が返ってきそうだけどね。


 しばらく歩き続けていると、徐々に道が荒くなっていく。ダンテさん曰くこの辺りはもう使っていないらしい。灯りの数も少なく少々不気味だ。


 「…………!」


 ふと、耳を澄ませてみるとポツポツと声が聞こえた。ケサランパサランの身体は耳が良いらしい。内容を聞き取ろうと更に注意を向けてみる。


 「ま、マジで人間来ちゃったよ」

 「あいつらだって背後に俺達がいるとは思ってないさ。あいつらが行ったらここから出て背後から殴りかかればいい。みんなと挟み撃ちすれば四人なら凌げるだろう」


 挟み撃ちか。

 ゴブリンの流れてでは一本道になっている洞窟で良く使われる戦法。運動神経の良い個体が道の途中に潜伏し、突き当たりで待ち構えている群れと前後両方から攻撃する。

 皆は気付いていないのだろうか?ゴブリン特有の言葉は聞き取れずともA級冒険者のミアとメレディスの事だ。挟み撃ち攻撃位は考慮しそうなものだが。

 もし、二人が気付いていないなら……いや、駄目だ。ここで皆を危険に晒して何の得がある。昨日腹を括ると決めたばかりだろう。


 「ノエル、背後の岩の裏にゴブリンがいるって事をミアとメレディスに伝えて」

 「え、モリィ良く気付いたね。分かった、伝える」


 ノエルが隣にいるメレディスに耳打ちで伝えた後、此方にもやってきてミアにも伝える。ミアの鼻息が荒くなる。どんだけ早く戦いたかったんだか……。


 「モリィ、ちゃんと掴まっておいてよぉ!」

 「え、ちょっとミア!?」


 その瞬間、いきなり身体が浮いた。ミアが大きく飛躍したのだ。目まぐるしく変わる視界に目を回していると、いつの間にか背後の岩のすぐ近くまで来ていた。


 「な、何で俺達の居場所が分かってんだよ!」

 「やめろ、殺すな!俺達が何したってんだ!」


 きっとミアにはただの喚き声にしか聞こえないのだろうが、ここまで正確に言葉が分かってしまうとかなり辛い。思わず目を背けた。


 「いっくよぉ!」

 「や、やめ……」


 血生臭い音と共に、私の視界の隅に赤い物が映った。断末魔をあげる暇も無いまま、ゴブリン達は全員倒れていた。まるでゴブリンは狩られる為にあるかのような圧倒的な力の差だ。

 ……自分がこの群れに属していなくて良かった。やっぱりそう思ってしまう。


 「おーいモリィ、行くよー?」

 「あ、うん」


 歩き始めるミアを追いながら、死体を波起こしで土に埋めておいた……来世ではこんな関係にならなければ良いな。


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