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信頼

 途切れ途切れの息を繋ぎ留めながら、何とか立つ。

 ケサランパサランとラッピーラットの戦いが始まってから、そこまで時間は経っていない筈だけれど……此方の戦力の消耗が激し過ぎる。

 ケサランパサランの殆どが倒れているのに対し、ラッピーラットは女王含め三分の一は残っている。

 ……個体では勝てようともラッピーラットは群れで生活し、統率も取れているからか、攻撃の質が違うのか。

 正直、このままでは勝機は見えない、きっと押し切られる。


 「キシャァ」


 あっぶなっ……!

 私が頭を巡らせている間にもラッピーラット達は容赦無く飛びかかってくる。HP的にも後軽く二発貰ったら致死域なのも厄介だ。元々「ライフで受ける」だなんてタイプでは無いけれどね。

 しかし、この状況どうするべきだ?

 残っているケサランパサランは十匹程度、しかも全員瀕死状態。ちまちま毒牙と体当たりで数を減らしていたら、全滅するだけだ。

 火炎放射で爆発を引き起こし、敵味方諸共ぶっ飛ばしてしまえば戦況は変わるだろう。波起こしと爆発での下水道の破損についてはギルドに命よりは安いと思って頂くとして……MPの残量からして火炎放射を使用すれば波起こしが解除される。そうなるとノエルまで爆発に巻き込まれてしまうのがマズい。

 ある程度私の行動を模範してくれるケサランパサラン達に発動してもらう手もあるが、残っている十匹にレッドに変化できる個体はいない。

 それでもやるしか無いのか?このまま全滅するより、やってみる価値はあるだろうか?

 ……腹を括ろう。


 「ノエル!」


 レンガの壁越しに話しかける。今の状態でノエルに声が届いているかは分からないが、何も話さずに実行するより良いだろう。


 「今から爆発を起こす!なるべく爆発に巻き込まれないように小さくしゃがんでおいてね」


 なるべくノエルとの距離を取り、火炎放射を発動する準備に取り掛かろうと、大きく息を吸い込んだ時だった。


 撫でるような熱気を感じる。

 慌てて熱気を感じる方向へ向いた時には既に遅かった。


 ……は?は?は!?

 大きな炎が身体を浮かすような風を伴いながら、私の目前まで迫っていた。焼くような光に思わず目を瞑ったが、私の意識は白く光に染められていった。



 ……うがっ!?


 目覚めた先は暖かな陽だまり。ふかふかのベッドの上。

 ……ん、天国?

 しかし、良く見ると私の身体は包帯まみれだ。今度はミイラに転生したのかと思った程。

 どうやら天国に行ったら怪我が全治するという訳では無いらしい。身体は重くて動かせないし、節々……は無いが、全身が痛い。


 「あ、お目覚めですか?」


 部屋のドアが空き、いかにもナースさんという人が入ってきた。背中に羽根は付いていないらしい。

 ナースさんが近付いてきたと思ったら、どうやら包帯交換の時間だったらしい。手慣れた手付きで包帯を解いていく。

 ……うわ、グロデスク。

 ふと見えた切り傷と火傷が混じり、爛れた傷口に思わず顔をしかめた。

 清潔な包帯が巻かれ、ナースさんが出ていく時「あ、お家族の方を呼んできますね」と言われたが、家族だなんていただろうか。

 家族?家族……と頭の中を探ってみたが、これ以上考えても知恵熱を出すだけだろうと思い、もう一眠りしようとシーツに顔を埋めた時だ。

 バンッと大きな音を立てて、部屋のドアが開いた。


 「モリィ!」

 「ノ、ノエル!?」


 入って来たのはノエルだった。

 しかし、何故ノエルが?……も、もしかしてノエルも爆発で巻き込まれて死んじゃったとか。波起こしで壁はつくってあったけれど、早々に気絶しちゃったし、守れた自信が無い……。


 「……モリィどうしたの?」

 「い、いや、ノエルの事守ってあげられなかったのが悔しくて……」

 「え?私は元気だよ、モリィが守ってくれたおかげでね」

 「…………ん?」


 ち、ちょっと待て。

 もしかしてこのノエルは幻影?私が勝手にノエルの幻影を見ているだけなのか?


 「……もしかしてモリィ、自分が死んだと思ってない?」

 「え?死んでないの?」

 「……勝手に死なれたら困る」


 ▽……HP1で気絶状態でした。


 ……天の声ちゃん、遅くない?

 ちょっとこの勘違い楽しんでたでしょ。

 とりあえず生きていたという事でホッと安堵の息をついた。しかし、一つ疑問がある。

 私が気絶する直前に巻き込まれた爆発の事だ。獣の咆哮で集められたケサランパサラン達は呼び出した個体の行動をある程度模範する。私が火炎放射を発動しようとしたから、呼び出したケサランパサランが火炎放射を発動してしまったとか?

 ……いや、確かレッドに変化できる個体はいなかったはず。

 じゃあ、一体誰が引き起こしたんだ?


 「ほら、デューク謝って」


 一人で頭を唸らせていると、いつの間にかデュークが私の前に立たされていた。しかも何やらノエルが怒っている。


 「……合図無しに爆発を起こし、すまなかった。俺が戸惑っている間にもお前達が傷付いていると思ったら、その、早まった」


 ……お前かよ。

 でもデュークなら納得だ。きっとあの穴以外の出入り口を見つけられず、爆発を起こしてでも助けに行こうと思ったのだろう。

 早まったのも、ノエルをそれだけ思ってくれてたって事でしょ。

 あのままでは私だけでなくノエルも危なかったし、良い判断だったのでは?

 正直、デュークが謝る必要は無いんじゃないかな。

 ……わざわざ言うのは恥ずかしいけど。


 「まぁ合図位は欲しかったけれど……デューク、ありがとうね」

 「……な、何故感謝されているんだ?俺のせいでお前は危なかったのでは……」

 「もうっ、みんな生きて帰ってこれたからいいんですーー!」


 こうして私達が迎えた初仕事は、より信頼を深める出来事となった。

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