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なかま

 「ちぇ、なんなのあいつらーー、団長を悪く言うなっての!」


 そう言いながら私を抱き抱えるミア。

 手には串焼きが三本、器用に挟まっている。

 さっきから屋台で色々買ってどか食いしてるけど大丈夫なのかね、お金とかお腹とか……。


 「もうっ、モリィもそう思わない?」


 いや、同意を求められましても……ぶっちゃけ団長が何故あそこまで忌み嫌われているというか、恐れられているのか分からないのよ。

 まぁなんか過去とかあるんでしょうけど。


 「結局は団長に敵わないくせに! 悪口だけは一人前なんだよねアイツらっ」


 また一本串焼きを口に放り込み、もぐもぐいわせながら喋っている。

 話と食欲が止まらない所を見ると、相当ご立腹なのだろう。


 「ミア、やけ食いするのは良いけど、モリィまで付き合わせないで下さい」


 いきなり身体が浮き、なんだと思ったらメレディスか。

 愚痴相手として捕まっていた私を助けてくれるらしい、ありがたやーー!


 ミアに別れを渋られつつも、メレディスに連れられ、屋台街のような場所を離れると、一つの建物に入っていった。

 静かな空間と香ばしい香りが私を包む。


 「……いらっしゃい」


 カウンターの向こう側にいる、髭を生やしたおっちゃんが白いカップを磨いているとこからすると、多分喫茶店だろう。

 メレディスはカウンター席の一つにどさっと座り、私を膝に置いた。

 普段より座り方も私の置き方も乱雑だな……。


 「はあぁぁ……」


 いつもの笑顔のメレディスとは打って変わって、いきなり大きな溜息をつき、げんなりとした顔をしている。

 おっちゃんに頼んだ珈琲を飲みながら、何やらブツブツ呟いてるけど、何言ってるんだろ。

 そう思い、耳を近づけた途端後悔した。


 「あぁなぁんでココナッツバターが売ってないのよ、おかしいでしょ、商店街も見て回ったし屋台街も見たのに無いってさぁ、確かに海からは離れてるけど、物流だって進化してんのよ?普通置いてあるでしょ、なんなの、物流雑魚なの?品揃え悪過ぎない?」


 …………メレディスの闇が見えた。

 い、いや聞こえなかった事にしておこ。

 わたし、ただーの、もふもふだから、わかーんなーい。


 だけどメレディスは団長の件については気にして無いのね。

 やっぱりミアが過剰反応してるだけなのかなぁ。

 原因を知らない私としては、結構気になっちゃうんだけどね。


 「あぁ、やっぱりモリィも団長の件気になっちゃう?」


 ……!? 今、心読みました?

 私のお仲間には勘の鋭い人が多い気がするなぁ。

 団長にも心読まれたかのように、話しかけられた事あるし。


 「まぁぶっちゃけ私達はあんな目慣れてるのよ……未だに反応()()()()()()のはミア位かしら」


 何やら真面目な話が始まったようだ。

 やっぱり反応してるのはミアだけなのね。


 「これは団長の……あとノエルの過去に関する事だから、まぁうちではこの話題に触れる事はタブーとされてるから、私の口からは言えないのだけどね」


 そんな仲間内でもタブーにされる位かぁ、一体何があったんだろうね。

 あとノエルも関わってるのね。うーん。


 「昔、色々あったらしくてね……モリィはこんな団長嫌だ?」


 うえっ!? まぁ私は何があったか分からないから、何とも言えないけど……とりあえず今の所は団長の事頼りにしてるし、仲間からも慕われてるし、別に嫌じゃないよ。って伝わらないか。


 「うーん、何言ってるか分からないけど、でも近くに居てくれると嬉しいよ」


 そう言ってメレディスは私のもふもふに顔を埋めた。

 吹きかかる息がくすぐったいけれど、仕方ない、今だけは背中(?)を貸してあげよう。


 「……そういえば、また街の近くにゴブリンが出たらしいですよ」


 メレディスの愚痴が一息ついた事を見計って、今までずっと黙っていた喫茶店のおっちゃんが喋り始めた。

 おお、ゴブリンか。こんな街の近くに来るなんて、結構勇敢だなぁ。

 私なんて人間に狩られるのが怖くて、洞窟に篭ってたっていうのに。


 「もしかしたら、それが原因じゃないですかね。ココナッツバター」


 おっちゃん、耳良いな!? よくあの呟きを聞き取れたよ……。

 確かにモンスターって無駄に人間に対して対抗心燃やしてる奴らがいるのよねぇ、ゴブリンなんて負けて殺されるのがオチなのに。


 「ゴブリンは厄介なだけじゃ無く、醜悪な見た目なのが嫌ですよねぇ、女子供を好んで襲うらしいですし、生理的に受け付けません」


 ……醜悪……生理的に受け付けない……。

 酷い言いようじゃないの、おっちゃん!

 醜悪な見た目って言われたって種族的に無理だし!生理的に受け付けないってどこまで嫌いなのよ!

 てか、女子供を好んで襲うとか、嘘だから!脚色加えられ過ぎだから!ゴブリンにも女の子はいますからね!


 「あれ、なんかモリィが騒いでますね、そろそろ外に出たいんでしょうか?」


 ゴブリンは嫌な奴だけじゃないのよーー!!

 メレディスに抱えられながら、おっちゃんの顔が見えなくなるまで、叫んでやった。

 団長も何やら言われてたけど、私も負けないと思うわ……変な所で勝負してもアレだけど。



 私は弱かった。

 同種族の中でも成長が遅く、戦闘を好まないから。と向き合う事を避け続けた。

 確かにその事に関しては、馬鹿にされた事もあった。だから、同種族の奴らとは仲良しこよしって訳では無かった

 でも、顔を知ってる奴らは、どんなに嫌いでも、傷ついた姿は見たくないものだ。


 まぁ、夢の中にまで出てこられると、嫌なんだんだけども。

 今、私の前でニヤニヤ笑ってる奴は洞窟内で何回が顔を合わせてた奴だ。

 生意気な奴で、ちょくちょく私の事をからかってきたっけ。

 頭に一個コブがあって、その事を言うと凄い怒ってくる奴。


 ……って、なに近づいてきてるのさ。

 やめろ!やめろ!痛いっての!チョークスリーパーをかけるなぁ!



 ……ふがっ!?……酷い夢を見た


 起きてみると、朝からこんな夢を見た原因がすぐに分かった。

 隣で寝ていたノエルの手足が私に絡み付いている。

 ……完全に抱き枕状態だ。

 宿を取った私達、二部屋取りいつも通り男女に分かれた。

 そして昨日はノエルと一緒に寝たのだが、予想以上に寝相が悪い……。



 「さて、今日は別行動とする」


 宿屋の一階にある待合室のようなスペースで、私達は今日の行動計画を団長から聞いていた。

 今日は別行動って、昨日も別行動だった気がするんですが、それは。


 「俺とガンツはギルドに素材の売却、メレディスとミアは買い出しを頼む あと、ノエルとモリィは好きに街を見て回れ、迷子になるなよ?」


 おおっ、私達は観光組か! ラッキー!

 馬屋には立ち寄らないでおこう。いつも留守番係のデュークに嫉妬されそうだからね。


 今日の定位置はガンツのリュックの上じゃなく、ノエルの腕の中だ。

 んーー、リュックより安定感は無いけど、居心地は何倍も良い。八十点と言った所かな。

 なんと言っても腕の中にいると、ときたま頭を撫でてくれるのが良い。すっかり撫で撫での虜だ。

 特に目的も無く、ブラブラと街を見回っていると、何やら騒がしい声が聞こえてきた。

 何だね、折角穏やかな時を楽しんでいたっていうのに。


 「おいっ、また街壁の近くにアイツらが現れたってよ!」

 「またかよ! ギルドは召集令だしてんのか?」

 「ああ、もう出てるってよ ちゃっちゃと狩っちゃおうぜ」


 どうやら、騒いでいるのは武装している奴ららしい。

 剣やら何やら持ってる所から冒険者だろうか。

 騒いでいた奴らはどんどん街壁の方へ集まっていく。

 私達の近くにいた冒険者らしき人も、何人か駆けて行った。


 「ねぇ、モリィ何があったんだろうね」


 そう言いながら、ノエルも街壁の方へと走り出す。

 六歳の子が、そんな物騒な方へ行って良いのか……と思ったが、ぶっちゃけ私も何が起きているのか気になる。

 街壁の門に差し掛かった所、昨日もいた兵士に止められた。


 「おい、嬢ちゃん この先は危ねぇよ! 野次馬なら街壁の上で見ると良い」


 どうやら流石に女の子は通してくれないらしい。

 兵士のおっちゃんに連れて行かれ、渋々ノエルが街壁上への階段を登っていく、どうやらこの街壁は上にスペースがあるらしく、展望台のようになっているらしい。

 階段を登りきり、踊り場にある扉を開けると、景色がガラッと変わった。

 開けた空間に青い空。下を覗くと地平線まで続く原っぱと、中央にレンガの道が見える。おそらく街道だろう。


 そんな原っぱで人が集まり、何かやっているみたいだ。

 剣を抜いていたりと武装した奴らが、何かを中心に騒いでいる。中には、返り血を浴びている奴もいた。

 ふと、集団の束が開き、騒ぎの中心が見える。

 そこには緑色の物体、周りには赤い物が流れ出ていた。

 緑色の物体、見間違えるはずが無い、今まで鏡を見れば、水面を覗けば見えた物が凄惨な姿で倒れている。

 それが高く積み上げられ、小さな山のようになっていた。


 ゴブリンの死体の山。既に死んでいるというのに、まだ剣を刺し続ける者までいる。確実にトドメを刺す、というより面白半分に。

 死体は今まで見てきたが、前世とは言え、同種族の死体が嬲られている姿は慣れた物じゃなかった。

 さらに私を苦しめたのは、山の中から見えた一つのコブ。

 腹の中から湧き起こる怒りと、吐き気に息が乱れた。


 「モリィ、大丈夫……?」


 異変に気付いたノエルが優しく頭を撫でてくれる。

 果たして、良いのだろうか。仲良くは無かったとはいえ、仲間達がこうも殺されている中で、私だけこんな場所にいて。


 「何でこんな沢山のゴブリンが……街の近くまで?」


 私を抱いたまま、ノエルが尋ねる。

 隣にいた兵士のおっちゃんはそのまま答えてくれる。


 「シファルの森の第三洞窟って爆破されたらしいからなぁ あのゴブリンもそこから逃げてきたんじゃねぇかな」


 洞窟が……爆破された……?

 意味が分からない、誰が、何のために?

 いや、まだ私が住んでいた洞窟とは限らない……。


 「その洞窟ってどこの……?」

 「あぁ、ここだよ この洞窟さ」

 

 兵士のおっちゃんがポケットをまさぐり、地図のような物を出した。

 そこには洞窟の場所と写真が印刷されている。


 洞窟の特徴、地形、すべてが当てはまっていた。

 違う所を探せば探すほど、これはあの洞窟だと肯定しなければいけない材料が集まっていく。


 ……嘘だ


 本来なら、私も爆破の時、洞窟にいただろう。

 爆破にのまれ死ぬか、目の前のゴブリンのように死ぬか。

 普通なら、こうやって良いタイミングで洞窟を抜け出し、助かった事を喜ぶべきなのだろう。

 だけれど、どこか自分だけ独りぼっちのようで、素直にそう思えなかった。

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