恵みの街シファル
木漏れ日溢れる森の中。
木の下でのんびり寛いでいると、時間がゆっくりと過ぎていく。
そんな穏やかな私の周りとは違い、少し離れた所では何やらわいのわいの騒ぐ声が聞こえてくる。
どうやら今日でキャンプは終わりらしく、依頼を受けたギルド支部のある街まで戻るのだとか。
そこで朝から荷物をまとめたり、テントを畳んだりしているってわけ。
手も足も無い私は、やる事がないし、踏んづけたら危ないから。と逆に邪魔者扱いなのだ。
……だぁぁ、暇だよーー
数日前までは、洞窟で一人暮らしをしてたっていうのにね。
今では誰かといなきゃ、やる事が無くなる。それだけ、今の生活が充実してるって事だろうけど。
最近、天の声ちゃんも黙り気味だしなぁ……私が頼る機会が少なくなったせいでもあるんだろうけど。
やっぱり、スラッシュベアでの一件、怒ってたりするんかなぁ。
「おぉい、もふもふ! そろそろ出発するぞーー!」
遠くから甲高いミアの声が聞こえてくる。
はいはーい、今行きますよーー。
ガンツのリュックの上、それが今日の私の定位置だ。
初めはノエルが抱っこしてくれていたのだが、腕が限界を迎えたらしく、リュックの上にぽいっと置かれてしまった。
ガンツのリュックには色々と器材が入ってるらしく、安定感はあるが時々、何かが刺さったりして痛い……。
普通こういうモンスターっていうのは肩か頭の上が定位置なんじゃないかね!
「おい、モリィ暴れんなよぉ」
あれ、失礼。
暴れたつもりは無かったんだけどね、リュックの上っていうのは意外と振動が伝わるらしい。
しっかし、もう三十分位歩いてるけど、景色変わらないなぁ。
ずっーと、森、森、森……。
何だか眠くなってくるなぁ、お昼寝しちゃおうかしら。
「もうすぐでシファルだぞーー」
寝ようとしていた所、前方から団長の声が聞こえてくる。
ガンツは最後尾を歩いてるから、先頭の団長の声、聞き取るのギリなんだよね。
でも、やっと、やっと着くのか!はじめての街だーー!
シファルというのは今向かっている街の名前。
森を抜けた先にある街で、街の東側は大きく開けており、そのまま東へ向かうと海に出る。
森の中に洞窟が点在している事から、冒険者が多く集まる街として知られており、ギルド支部も中々立派な物らしい。
かなり活気付いた街で、森の恵みを使った名物も多いらしく、恵みの街シファルとして伝わっている。
そんな話を団長から聞いた私は、朝から楽しみにしている。
森の景色も少しずつ変わり始め、鬱蒼とした雰囲気だった場所が、次第に明るくなっていく。
「うわあぁぁ……」
森を抜け、草原の様な場所に出た。
坂道を少し下った所に見える石造りの街壁。
恵みの町、シファルだ。
街壁にて、いかにも兵士という格好の人に色々検査された。
特にモンスターの私やデュークには目を光らせているらしく、じまじま見てくるので、相手も仕事とはいえちょっと気持ち悪かった。
団長達も、軽い荷物検査などを終えたらしく、これで晴れてシファルに入れるってわけだ。
街に入ると、静かな森とは打って変わって、騒々しい空間が広がっていた。
仲間と談笑する者、仕事に励む者、怒鳴り合い喧嘩する者、様々な人がそこには暮らしていた。
色々と目を惹かれていると、何やらいつの間にか大きな建物の前に来ていた。
いかにも伝統のある建物。という雰囲気だ。
しかし、重厚感のある風貌とは裏腹に、中からは騒がしい声が聞こえてくる。
団長が重そうな扉を開き、私達は中へ入っていった。
真っ直ぐ歩いて前方にはカウンターのような物が見える。沢山のお姉さんが色々と作業をしている。
その手前には沢山の椅子と丸机が置いてあり、いかつい男から女の人まで多くの人がいた。
何やら作業をしている人もいれば、昼間から呑んだくれている奴もいる。どうやら外でも聞こえた騒音はここからだったらしい。
何やらわいわいお祭り騒ぎだった建物内だったが、私達が入った瞬間、空気が変わった。
作業してた人は顔を上げ拝むように見つめてきて、呑んだくれはいきなり目が覚めたように私達を見る。
いや正確には私達では無く、団長をだ。
周りからはちまちまと囁き声も聞こえてくる。
「なぁあいつだろ、禁忌に手を染めたっていう」
「いや、正確にはあいつじゃねぇよ あいつの友人だ」
「深淵を覗いたってやつだろ……おっかねぇわ」
何やら畏怖にも近い眼差しを向けられているのに一切動じず、団長はそのままカウンターに向かっていく。
……んんー何やら私達の団長、やばい方、かも?
作者のちょっとした小話。
今回はガンツのリュック中身です。
基本的に食料や、生活用品は団長、治療関連はメレディスが担当ですが、キャンプの為の器材等はガンツです。
テントだったり、料理道具だったりと、ゴツゴツした物が多いんですね。
作者は前回辺りでメレディスと団長だけ荷物が多いって言ってましたが、ガンツもばっちり多いですね。
ガンツに怒られそうです。
今回もお読みいただきありがとうございましたーー!




