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出会う

その画家は、とにかく非常識で変わり者で。



「観客は俺。今からここが君のステージ。」


…私に夢をみせてくれた、大切な人。





これは、風変わりすぎる彼と凡人な私が送る、なんて事ない日常の記録である。





**********





秋風が心地よい今日この頃。

私は教室で友達の話に耳を傾けていた。


「ねぇ聞いた?!あの『秀麗(しゅうれい)』が個展開くんだって!しかも美術館!」

「え、まじで?!ヤバイ見に行かなきゃ!」

「ねー!」


うん、なんて楽しそう。世間では絶賛画家ブームが到来中。

中でも「秀麗」は爆発的な人気を集めているらしい。

その理由が…


「ぜっったいイケメンだよね!!」

「それな!眼だけでわかる美しさ!!」


…という訳でして。ある雑誌でマスク姿の写真が掲載されたらしく、その美しさに女性ファンが急増しているそうな。

絵を見ろ、絵を。

イケメンに興味のない私はボーッとひとり空を眺める。が。


「それで!舞花(まいか)も行くでしょ?個展!」


なぜか話のタネが飛び火した。


「わたし絵にもイケメンにも興味ないけど」

「行くでしょ??」

「ハイイキマス。」


…まぁ、たまにはいいか。




**********




場所は変わり、私のバイト先である小さなカラオケ店へ。

17時からのシフトに備え、更衣室で一人制服に着替えていた。


ガチャリ


ドアの開く音。


「こんちゃぁ…ってマイマイじゃーん!」

「こんにちは。」


ギャルのバイトさん。私に仕事を教えてくれた、見た目は派手だけど優しい先輩。


「んふふ〜、マイマイと仕事できるとか超ラッキーなんですケド〜!」

「それはこっちのセリフですよ。」


お互いに顔を合わせて笑い合う。彼女とはどこか気が合うのだ。

2人で制服に着替えているあいだ、今日あった出来事をぽつりと話す。


「そういえば最近、クラスの女子が画家に夢中なんですよ。」

「あ、もしかして秀麗?アタシもあの人好き〜!イケメンだし!」

「やっぱり顔なんだ笑」


私の周りは面食いがたくさん。

とはいえ個展が開かれるほどならば、きちんと作品も評価されていそう。


ーカチリ


時計の音。それにつられて目をやると、針がちょうど5時を指していた。


美湖(みこ)さん、時間です。」

「りょー!今日めっちゃ盛れてるからマジがんばる〜!」


さぁ、談笑はそこそこに。お仕事お仕事。




**********




「今日やけに忙しくないですか…?」

「人気アニメとコラボってるからね〜、しょうがないっしょ〜」


学校帰りの学生がひっきりなしに来店したおかげで部屋は満室。

こんなに接客したのはいつぶりだろう。


「じゃあアタシ、掃除とドリンク補充行ってくるから受付の方ヨロシク〜。」

「はーい。」


……。


一人。急に静かになる。

うーむ、正直今日はもう接客したくない。お客さんが来ないことを願いながらバックヤードに戻ろうとした、その瞬間。


ウィーーン


自動ドアが開く音。

知ってた。現実が私に優しくないことなんて前から知ってた。

顔を無理やり営業スマイルに引き戻しながら振り返ると、そこにはいかにもなヤンキー集団がいた。


(金髪に赤髪に長い黒髪…んでもって緑…あとピアスやばし)


別にこういう人達が珍しいわけじゃない。けどまぁ、うん。怯むよね。

しかも今満室よ?てことはお断りしなきゃいけない訳で。


「…申し訳ございません、ただいま満室でして。30分ほどお待ち頂くことになってしまいますが…。」


(うぉぉぉこわい頼むから何事もなく帰ってくれ…!)


「あらら、マジですか!お前らどうするよ?」

「30分くらいすぐでしょう。」

「バッカお前30分だぞ?!カップラーメン×10だぞ?!」

「あーあー例えが馬鹿丸出しだ。そんなんだから単位落とすんですよ。」

「んだとこのインテリ眼鏡!」


(…なんか可愛い人達だな。)


まるで小学生のような討論が続く中、ずっとそれを眺めていた黒髪の男が口を開いた。


たった一言。


「眠い。」


(ーめ、めちゃくちゃ話に関係ない…!)

と思ったのだが、どういう訳か彼らには効果抜群だったようで。


「「「よし帰ろう。」」」


あんなに揉めてた人達が口を揃えた。そんなおかしな光景に思わず吹き出してしまう。


「じゃあ今日はやめときますわ、また別の機会に。」

「はい、またのご来店お待ちしております。」


踵を返して歩き出す不良集団。よかった、何事もなく無事に終えられた。

…なんて、ホッとしたのも束の間。突如振り返った黒髪の男がズンズンとこちらに引き返してきた。


「な、なんでしょう。」

「…。」


じっと私の顔を覗き込む。


「…うん。あのね。」

「はい。」

「俺、キミの顔嫌い。」

「は??」


突然の暴言に一瞬思考停止する。後ろで焦りだすお仲間たち。


「…申し訳ありません、生まれ持ったものでして。」


頑張れ、頑張って笑顔を保つんだ、私の表情筋…!

しかし、そんな私の頑張りも儚く崩れ落ちてしまう。そう、彼の言葉によって。


「笑顔ヘタクソだよね。」


スン…。

はいもう真顔です。無です。こりゃ仏になるしかない。なんだこの無礼男。


「あと目が死んでる。まるでブラックホー…いや、そんな綺麗なものじゃないや。あれだ、なんだっけ。あ、そうそうイカ墨。」

「イカ墨かよっ!」


あまりの独特すぎる表現に思わずツッコんでしまう。「しまった」と慌てて口を手で覆うも時すでに遅し。

目を軽く見開き、顔を覗き込んで凝視される。

よくよく見返すとこの男、かなりの美形だ。


…いやそんなこと思ってる場合じゃないんだけど。


「なんだ、そんな顔もできるんだね。」

「はい?」

「引きつった作り笑顔より、そっちの方が人間らしくて好き。さっきみたいな間抜けに吹き出した顔もすごくいいよ。」

「褒めてるんですか?貶してるんですか?」

「褒めてる。」


フッとやわらかく微笑みながら言ってくる。なにそれ、ずっと真顔だったくせに。なんだか特別な表情を見れた気がして心が浮ついてしまう。

すると、彼が急に上着のポケットを漁りだした。


「あげる。」


そう言って差し出されたのは真っ黄色の棒付き飴。


「いや結構です。」

「あげる。」


有無を言わさず制服のポケットに突っ込まれる。うーん、さっきから行動が読めない。

とりあえずお礼を言おうと口を開いたその時。


「おいテメェいつまでナンパ売ってんだゴラ!」


しびれを切らしたお仲間から怒号が飛んできた。


「眠いと言ったのはあなたですよ。」

「ほら、しゅーれい行くぞ〜」


立て続けにお呼びがかかる。

「そうだね」と返事しながら彼らの元へ戻ると、ど突かれたり擽られたりと洗礼を浴びていた。

…絡み方がクラスの男子そのものだ。


「じゃあ今度こそ帰りますんで!コイツがご迷惑おかけしましたー!」


そう言いながら騒がしく店を出ていく。

黒髪の男はそっと顔だけ振り返り、「バイバイ」と小さく手を振ってくれた。


「…変な人。」


なんだか不思議な体験だった。

1人余韻に浸っていると、美湖さんが「お疲れ〜」と清掃から戻ってくる。


「マイマイまじヤバイんですケド〜!めちゃイケメンにナンパされてたね!」

「ナンパじゃないです嫌がらせです。てか見てたんなら助けてください。」

「アタシ空気読める女だから。」


フフンと自慢げに鼻を鳴らす。

とは言うものの「名前と連絡先だけでも知りたかった〜!」と今更ゴネ出す美湖さん。

聞くついでに助けに入ってくれたらwinwinだったのに。


「あ、でも名前は赤髪のリーダーっぽい人が呼んでましたよ。」

「マジで?!」

「はい。えっと確かー…」




『ほら、しゅーれい行くぞ〜』




…あれ?


「マイマイどした〜??」

「いえ、ただの偶然だと思うんですけど…。」




しゅーれい


秀麗




…まさかね?


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