俺がこの仕事を全うするにあたっての心持ちについて
小さい方は明らかに就学年齢に至っていない幼女。彼女の手を引く少年も小2くらいだろうか。
盆は過ぎたが茄子の牛と、胡瓜の馬をこさえてやった。
少年と幼女はニッコリ笑って、「ありがとー」と喜んだ。
そして幼女が尋ねてきた「お兄ちゃんは八百屋さん?」
「ちがうよ」
「スーパーの人?」
「ちがうよ」
幼女は首をかしげる。代わりに少年が尋ねてきた。
「じゃあ何屋さんなの?」
「働いてはいるけど、これといった屋号はないね」
「やごう?」
二人揃って首を傾げる。少しいぢわるをしてしまった。
「よくお聞き。茄子の牛はゆっくりと歩く。まったりまったりと、来た道を何度も振り返りながら進めるようにね。胡瓜の馬はとても速い。ぱからんぱからんと、行きたい所へひとっとびだ」
二人はうなずく。わかったような、わかってないような。とにかく続けた。
「茄子の牛を選ぶといい」
「どうして?」と尋ねる二人に言った。
「君たちの、パパとママの為にだよ。」
そして足下を指した。二人は俺の指した方角へ視線を移すと。
「ママ! パパ!」
嬉しそうに叫んだ。
血まみれになりながら泣き崩れる男女が空を見上げ、幼女と少年を見つけて目を見開き泣き叫ぶ。
「茄子の牛の手綱はひいてやるから、前は見なくていい。ずっと手を振っておやり。見えなくなるまで」
これが何を意味するのかわかってるのか、わかってないのか。幼女と少年は言われるがままに手を振り続けていた。
命はあっという間に尽きる。
故に儚いのだ。別れを惜しみながら最後を迎えられる者など、どれだけいようか。
生き物の領分にいるうちは、何もしてやることはできないが。 黄泉路に入ったなら気休めくらいはしてやりたいのが人情だろう。
怨みつらみは受けて候。それで気が休まるならば。
代わってやることはできないから、お前じゃないから。
つらさはわかるが、代わってはやれない。お前じゃないから。