朝。最悪の目覚めがくれた最高の予感
ある朝目覚めると、手のひらに蟻がタカっていた。
皮膚に噛みつくわけでもなく、夜中紅茶を入れようとして手に取った角砂糖にタカっていた。
どうやらソファに座ったまま寝落ちしてしまったようだ。
角砂糖は3分1ほど溶けていた。
右の手のひらはベトベトだった。
当たり前だが、寝ている間はなにも感じなかった。しかし、起きてしまうと、黒いツブツブのアリンコたちがうごきまわっている手のひらがくすぐったい。
机上の紅茶には湯気もなく、身を起こした震動で鮮やかなオレンジ色の水面に波紋を作っていた。
もったいないから飲んでみた。
世界最上級と言われるダージリンの香りも、生ぬるくなってしまえばそれも半減。冷たく、そして渋かった。
カップの中身を飲み干して、ポットに残った茶を注いだ。
やはり冷めていた。一晩中蒸らしていた分、色も渋みもひどく深い。
砂糖じゃ溶けないなと思いながら、机上の角砂糖の入れ物に目をやった。
真っ白い容器と砂糖が真っ黒だった。
朝は外食にしよう。
大きく伸びをして、 手を洗って、着替えて。ティーセットを洗って、殺虫剤を巻いて、バルサンを炊いて家を出た。
ファミレスのモーニングセットで食欲を満たした所で、やっと目が冴えてきた。
今日はもう、これ以上嫌なことは起きないだろう。
いいことがあるといいな、と思いながら、ブレンドコーヒーに角砂糖をひとつまみ入れて啜った。