追加EP#3 働く少女と優しい冒険者
「あれ、ディード?また来たんだ」
「おう」
ある日の昼下がり、いつものように店の番をしていれば、彼がやってきた。
「ほい」
「まさか、この包みは・・・・」
「コマイノ」
私に謎の包みを渡してくる彼の名はディード。
駆け出し冒険者で、何故か毎週のように花屋に通う青年だ。
「本当に、持ってこなくていいのに・・・・」
「いやいや、たまたま群れを見つけてな?それでつい・・・・」
「流石に毎週のように『たまたま』『たまたま』言ってたら無理があるよ!?それについ、って・・・・そんな軽い感覚で壊滅させられるものでもないと思うんだよね・・・・」
「だって、お前が喜ぶからさ、それでつい」
「それは・・・・まぁ、ありがと」
微かに胸が温かくなった。なぜだろう。
ディードは何故か私に優しい。毎週のように、私の好物を持ってきてくれるし、店の売り上げに貢献してやる、なんて言ってやや高めの花を買ってくれたり。
命の恩人には報いなきゃな、なんて笑いながら言っているけれど、それだけじゃ無いような気がする。
「最近、コマイノ渡しても抵抗しなくなってきたな。もしかして毎週楽しみにしてる?」
「なっ・・・・!そ、そんなわけないでしょっ。わ、私は、態々持ってきてくれるから、もったいなくて、それでっ・・・・」
「そうかそうか。楽しみにしてくれてるみたいで何よりだ」
「だからっ!違うってっ!・・・・もう」
わざわざ群れを壊滅させてまで、持ってきてくれるものだ、無碍にはできまい。それだけだ。ほんとうにそれだけだ。・・・・それだけの、はず。
そんなことを頭の中で考えていると、不意に何か違和感に気付いた。
ディードの、表情が硬い。
「何か無理してない?」
「・・・・どうした、急に」
あれ?気のせいだったのだろうか。表情が元に戻ってる。
「いや、ディードの顔、なんだか強張ってるように見えてさ。気のせいだったのかな・・・・」
「・・・・気のせいだろ」
そう言ってディードは顔をそらした。何か、隠してる?
聞いてはいけないことのような気がした。
最近、ディードの表情に影が差すことがたまにある。何かあったのかもしれない。
でも、踏み込んではいけない領域、そんな気がして。
「・・・・そうだね。きっと、気のせいだ」
いつか、話してくれると嬉しいな。
「じゃあ、俺はもう行くな」
「あ、うん。わかった・・・・」
「俺の財布事情で、なるたけ高いやつ、一つ買うよ」
彼の言葉が示すのは、この店の商品である、花だ。
ディードはいつも、無理して高いものを買おうとしてくれる。
「無理しなくていいのに」
「いいや、買う」
ここでどれだけ言っても引き下がらないことはもうすでにわかりきっているので、内緒で少し安めの、彼にとってそれほど痛手にならないものを選ぶ。店長が売り上げ減らしてどうするんだという話だが。花は値段じゃない。
安くたって、綺麗で、よさがある。値段で決まるものじゃない。ディードには悪いが、ただ値段が高いから、という理由だけで、他の花に目もくれないような輩は好きじゃない。
「じゃあ、これかな」
植木鉢に植えられた、まだまだ大きくなりそうな、育ち盛りな桃色のガーベラを選ぶ。
直感で、彼に似合いそうなものを選んだ。
「これ?あんまり高くなくないか?」
「いいからいいから。花は値段じゃないんだよっ」
「へぇ・・・・じゃあ、これでいい」
「お買い上げ、ありがとうございます!」
お辞儀して、営業スマイルを貼り付ける。
すると、おぉ・・・・、などと感心した声を上げ、
「なんか本物の店員ぽいな」
「ぽいじゃないよ!?店長だよ!?」
あんまりな感想につい大声を出してしまう。
最近、ディードのせいでよく大声を出してしまう。
けれど、それが嫌だということでもない。彼に出会ってから、自然に感情を表に出せることが多くなった。
両親を失ってからの数か月は、ほとんど笑っていなかったし、なにより、笑顔の作り方を忘れていた。営業スマイルだって、強張っていたのではないかというほどに。
それが自然に笑えるようになったのだから・・・・。
もうすでに、彼を助けたことと釣り合わないくらいに、たくさんのお礼を貰った。
「・・・・本当に、いつもありがとね」
自然に出た笑みと、感謝の言葉。
それを見たディードは、急に顔を真っ赤にして、
「どうした急に」
照れているのだろうか。平静であることを装って、淡々と返そうとした彼を見て、さらに笑みがこぼれる。
「いいのっ言いたくなっただけだから!」
来週も、来てくれるといいな。
なお、この後ディードは壁殴りしに路地裏の片隅へ向かいました。