EP#3 拗らせ冒険者と親友1
今回は短めです。・・・さ、さぼったわけではないですよ////
それからも、俺は一定の期間に一回、と言ったペースでフィーの花屋を訪れた。
そのたびに、コマイノ肉を、命の恩人うんぬん言って押し付けては、内心嬉しそうな彼女に睨まれる、というやりとりを繰り返した。
彼女を見て、頬を綻ばせつつ、お前は何故まだフィーのそばにいる?と自問する日々。
彼女を騙して、隣で笑っている自分を心底嫌悪した。
でも、それでも―――――、
俺は、彼女の元を訪ねずにはいられなかった。
「俺はなにがしたいんだよッ・・・・!」
誰の目もない路地の端。いつも己を嫌悪する場で、俺は行き止まりになっている壁を思い切り殴りつけた。
壁にひびが入る。それを見て、この街に来てだいぶ経ったな・・・・などと考えていた。
俺の体は、すでに常人のそれではなくなっており、より戦闘向きに変化していた。
人外、とまでは行かなくとも、筋力が上がった。そして頑強さも。
よって、今のように壁を思い切り殴りつけたところで、たいして痛くもない。己への、戒めにもならない。
「本当に、何がしたいんだ・・・・」
自分で自分が何をしたいのかがまるで分からない。
何故、まだ彼女に会っているのか?
喜ばせたいから?・・・・それなら俺なんかより適任な奴がいる。
「まさか、まだあきらめてないっていうのか・・・・?」
彼女と結ばれることを諦めていない、という一つの予測に至った。
「ふざけんなッ!ふざけんなッ!!」
さらに壁を殴る。殴った拳を見ても、血がにじんだ様子はない。ほぼ無傷だ。
「・・・・クソが」
駄目だ。駄目だ。そんなこと許される訳がない。
そうして、いつも通りの思考の濁流に呑まれていく。
そして、いくらか時間が経って・・・・。
「・・・・行くか」
何一つ解放されないまま、解放されたように開き直って。
俺はまた、今日を過ごす。
「最近、お前また無茶してねえか?大丈夫なのかよ」
「大丈夫だ、俺のことは俺が一番わかってる」
いつも通りの酒場。いつも通り俺はシルに心配するような言葉を投げかけられ、それにいつも通り平気だと答える。
今日もいつも通り、いつも通り時間が過ぎていく。
ただ今日は、少しだけいつも通りじゃ無いようなものが混じった。
シルの顔が、真剣なものになった。
「本当か?本当に大丈夫なのかよ」
「大丈夫だって。お前は俺の親か?心配しすぎなんだよ。少しはほっておいてくれ」
「・・・・俺が前に言ったこと。覚えてっか?」
「・・・・何の話だ」
「だから!いつか!話したくなったら話せって話だよ!!あれからだいぶ経ったろ!?もう、話せるんじゃねえのか!?それとも何か!?お前はまだうじうじそのこと気にしてんのかよ!!」
「ッ」
駄目だ、落ち着け。何も考えるな・・・・落ち着け・・・・。
「そーかよ!お前はその程度の男か?いつまでも、同じこと考えて、恋する乙女かってんだ!!」
やめろ。
「だまれ・・・・」
「いいや黙らねえ!今日という今日はお前の話聞くまで黙ってやらねえ!!」
やめろやめろやめろやめろやめろ。
「だまれよ・・・・!」
「黙らねえ!!!」
やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめロヤメろやメろやメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ―――――!!!
「黙れっつってんだよ!!!!」
「黙らねえ!!!そして、言え!!」
「――――――――ふざけんじゃねえ!!!!」
思わず殴りかかる。
食卓上に吹っ飛んだシルが、勢いそのままに料理をぶちまける。
周りの客が少しばかりざわつくが、すぐに興味を失ったように自分の酒飲み仲間との談笑を再開した。
酒場では、酔っ払い同士の殴り合いなど日常茶飯事だ。
周りに危害が加わるほど規模が拡大する場合を除き、基本黙認される。
その類いだと、判断されたのだろう。
「がっ・・・・!」
「黙れ!!!」
「やりやがったな・・・・ぐぁっ」
追撃をかける。鈍い音とともに、シルの口からも弱々しい音が漏れる。
「しゃべるなぁ!!!――――――がぁっはぅ」
「しかえしだ、このヤローーーー!!」
さらなる攻撃を加えようと、拳を構え直すと、シルはその一瞬を突いて反撃の拳を加えてきた。
そこで生まれたさらなる決定的な隙、冒険者という名の戦闘職が、それを見逃すはずがなく、
「オラァッ!!」
「がッ」
「おい!!!聞けやコラァ!!」
「ごばっ・・・・!」
「俺たちゃあ、ダチ公だろうがよぉ!!隠し事の一つや二つ、打ち明けてくれたっていいじゃねえかよ!!!」
俺への怒り・・・・いや、俺の為に怒ってくれているのだろうか。
そんな感情の籠った攻撃を一つ、二つと浴びせてくる。
「だからよぉ!?言えよ!いつまでため込んでる気だこら!!」
襟首を掴まれ、頭を前後に揺さぶられる。
「うるせ、え・・・・」
弱々しい声しか出なかった。
「言え!!これ以上うるさくしてほしくないなら、言えばいいんだよ!!」
「言える、かよ・・・・こんな醜悪なもん・・・・」
この感情は醜悪で我儘なものだ。
ゆえに、人に言えたものではない。
そんな、俺の考えを――――――、
「醜悪だぁ!?そんなん戦闘狂だったころのお前が一番そうだろうが!!そういう一面を持ったお前が、醜悪じゃなくてなんだってんだ!!聖人とでも言いたいのかよ!!魔獣倒すのが生きがいなんて生々しいやつが聖人な訳がねえんだよ!!!」
打ち砕こうと、シルは躍起になってくれる。
でも、だけど・・・・。
「そういう、話じゃねえんだよ・・・・」
「じゃあ、どういう話だよ!?お前は醜悪だ!!それでも、それ以上にいいやつだ!!お前を見てりゃあわかる!お前は、人を思いやって生きてる!!俺のことなんか、その気になればいくらでも遠ざけられたはずだ!!でも、そうしなかった。俺を鬱陶しく思ってるくせに、俺のことも思いやってくれてる優しいやつだ!!」
「ち・・・・がう。俺は・・・・」
「俺は故郷でも浮いた存在だった!暑苦しいやつ、鬱陶しいやつ、気持ち悪いやつ・・・・!散々言われたよ!だから、大した才能もねえのに、村を出た!そんな中で、故郷の外でも、一部の奴を除いて、俺はまた同じことを言われた。お前にも言われたな!いいや、今も時々言ってくるよな!でも、そんな風に本音垂れ流しながら、悪態つきながら!!俺を受け入れてくれた奴はお前だけだった!お前、だけだったんだよ!!」
「俺は・・・・俺は・・・・」
「そんなお前の、唯一無二のダチ公の!力に俺はなりたい!!だから聞かせろや!!悩みごと!!」
「・・・・」
「恋煩い!金欠!不治の病!なんでもござれだこのやろー!!だから、言え!言うんだよ!!ダチ公!!」
「お、俺は・・・・。俺は・・・・!」
「相談しろ、親友野郎ーーーー!!!!!」
「ぐぁあっ・・・・」
最後の一撃、彼のすべての想いを込めた一撃に、俺は何か頑なだった殻を―――――、
抜け殻の、奥の奥に存在した殻を、破られたのを感じた。
「て、ありゃ?ディード!?おい、ディードぉ!?しっかりしろ!!」
―――――やりやがったの、お前じゃねえか・・・・。
その心中のつぶやきを言葉にできないままに、俺は意識を手放した。
体のみを使った戦闘技術は、わずかばかりシルさんのがディードの上を行っています。
総合面では・・・・というか、剣でも拳でも、何でもありの戦闘だったらディードの圧勝です。
総合面を(やや剣技に力を入れて)鍛えているディードと、一点特化で、打撃にステータス全振りしてるシルですね。
・・・・恋愛が題材の作品で何語ってんだろ。