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冒険者と少女  作者: 某某
1/8

EP#1 死にかけ冒険者と、磨けば光る少女

それほど長くは続けないつもりです。

よろしくお願いします。

とある大きな街のすぐ近く。

全身を赤黒く染めた青年が酷く危なっかしい足取りで、歩いていた。


「ひゅぅ・・・・ひゅっ・・・・」


まるで肺に穴が空いて空気が漏れているかのように、うまく呼吸できている気がしない。

苦しい。体が重い、痛い。

ここは今どこだ?街は?もう森は抜けたのか・・・・?

意識は朦朧とし、とうとう足が動かなくなった。

糸が切れた操り人形のように、青年は倒れた。


「ぐ・・・・がっ・・・・」


顔を強く打ち、それとほぼ同時に、全身に神経を削られるような激痛が走る。

そして、それを最後に―――――――、


「し・・・・ぬ・・・・のか・・・・」


――――――彼の意識は途絶えた。









「んぁ・・・・」


間抜けな音が口から洩れる。

その数瞬後、俺は自分が寝ていたことに気付いた。

―――――――!?あの熊野郎はどうなったんだ!?

毛布を剥がし、がばっと重い胴体を持ち上げる。


「・・・・いっつ!?」


瞬間、全身に激痛が走る。

見れば、体が包帯でぐるぐる巻きにされていた。


「あ、起きたんだ。って、駄目だよ!そんな乱暴に動いちゃ!傷開いちゃう」


自分以外の声がして気づいた。ベットの隣に、女。

なんとも地味な格好をした女だ。辺境の村でのんびりと暮らしていそうな、そんな雰囲気の少女。俺も、人のことは言えないのだが。

髪色は綺麗なブロンドで、髪型は後頭部で長い髪を一つにまとめた形。よく見れば顔立ちもある程度整っていて、磨けば光るものを感じる。

少し、心臓が高鳴った。


「・・・・あんたか。俺をここまで治療してくれたのは」


「治療だなんて。そんな大層なことしてないよー、私、包帯巻いた程度だし」


ほわんほわん、という音が似合いそうな笑みを浮かべながら、少女は言う。

いや、俺は相当な怪我を負っていたはず。包帯をただ巻いた程度で済む、生易しいものではないはずだ。

俺が怪訝そうに自分を見ていることに気付いたのか、少女は続けた。


「本当に、私はほとんど何もしてないよ。あなたを『治療』したのは、あなたの体に刻まれてる魔術式だと思う。私が傷を見たときには、もう血がほぼ止まってた」


「そうか、でも、ありがとう。お前は俺の命の恩人だ」


「どういたしまして。で、それはそうと・・・・」


「?」


「なにがあったの?あんなところで、それも血だらけ」


言われて思い出す。

依頼を受けて向かった先、森の中で無謀にも闘ったあの化物。

俺は勝ったのか、負けたのか・・・・。


















俺の名前はディード。辺境の村出身の駆け出し冒険者だ。

つい半年前、冒険者になったばかりで、それまでは故郷で剣術を磨いていた。

生まれて十数年ぽっちの俺だが、その人生のほとんどを剣に捧げたという自信がある。その証拠に、故郷を出る数か月前には、俺は故郷一の剣の使い手になっていた。田舎だから、そもそも剣を扱う者の数が少ないのもあるが。

どうやら、俺には卓越した剣の才があるらしい。

剣技、拳法、魔術といった闘いの才に恵まれたものは、戦闘職に就くことが多い。

その例に漏れず、俺もまた、『戦士』か、『冒険者』になることに。

『戦士』は貴族たちの観戦する闘技場で闘う職業だ。

相手と斬り合い、または殴り合い、あるいはその二つが入り乱れた勝負をし、どちらか再起不能になるまで続ける。

『戦士』の方が、『冒険者』よりもまとまった金額が手に入りやすい。だが、勝たねば給金は手に入らないし、負ければ負けるだけ、次に勝った時の給金も減る。よって、勝ち続けねばならないため、いかんせん収入が安定しない。それに、貴族の見世物になるのもあほらしい。

それに比べ、『冒険者』なら、依頼を受け、こなす。それだけだ。

もちろん、そんなにシンプルでもないのだが、小さな依頼でもコツコツ積み重ねれば確実に収入を得られる。大きな依頼を安定して受けられるようになったり、運よく希少な魔獣の素材が手に入ったら、たくさんの金を得ることだってできる。そうすれば、故郷の仲間たちにも仕送りできて、皆幸せ。

よって、『冒険者』になることにした。


それから、故郷から遠く離れた街での試験を経て、俺は冒険者ギルドの一員になった。

先も言った通り、俺は最初、小さな依頼をコツコツこなしていこうと考えていた。

そんなある日だった。

「そんなちまちまやってて情けねえな」「臆病者は田舎に帰りな」

俺よりいくらか年上の冒険者にそうバカにされた。

カチンときた。

「わかりましたよ。――――――やってやろうじゃねえか」

当時の俺は、自惚れていた。


それ以来、俺はある程度の基準を自分の中に設け、それより下の依頼は受けない、極力魔獣狩りの依頼を受けて戦果を挙げる、といった決まりをつくった。

最初は恐怖心もあった。しかし、いざ魔獣との戦闘を経験すると・・・・、

「なんだ、全然たいしたことない」

まるで手ごたえを感じなかった。

今までの鍛錬、それによって冴えた剣の才が開花したのだ。

それからは、毎日魔獣狩りに出かけて、金稼ぎ。

ある程度金がたまって、装備を強化。それを繰り返し続けた。

「冒険者なんてヌルイ仕事だった」

そう調子に乗り始めていた。

そして、街の依頼の中で一番の大物、『魔熊』の討伐依頼。それに挑戦することにした。

その結果が今の状態だ。おそらく、いや確実に負けた。

記憶がないのはそれだけ無我夢中だったか、忘れたいほど怖い思いをしたのか。

後者ではないことを願いたい。もしそうだったらあの先輩方に本当に臆病者認定されてしまう。

とにかく、命からがら血を流し、逃げおおせたというわけらしい。







「と、言うわけだ」


「大変だったね・・・・」


少女は心配するような表情で言う。血だらけの住所不定、身元不明の男を助けるくらいだ、とても優しい性格なのだろう。

もちろん、今の自分から見て、恥ずかしいと思う箇所は伏せて説明した。だって、あまりにもアホなのだ。

――――辺境出身の駆け出しが調子に乗って死にかけたとか、いい笑いもんだ。

よって、気遣ってくれる彼女には申し訳ないが、これは完全に自分が悪い。訂正するところは訂正する。


「でも、これは完全に自業自得だ。確かに死にかけたけど、そのおかげで頭が冷えた。これからは、自分の力量を過信しないで、初心にもどって依頼に励む。・・・・まあ、お前がいなきゃ、俺は今頃死んでたわけだけど。だからさ、本当にありがとう」


「はい、どういたしましてっ」




一通りお礼の言葉を述べて、ディードは少女の家を出ることにした。

聞けば、自分は3日間寝たきりだったとか。このままでは、腕が鈍ってしまう。

その程度の期間で鈍るような腕ならば、最初から無いようなものなのだろうが、ディードはそれに気づかない。それだけの期間、依頼に没頭していたのだ。休みどころというものを、彼は知らない。


「・・・・俺の荷物はどこだ?もう行くよ」


「え!?駄目だよ、危ないよ!」


少女は、完治していないディードの体を案じる。

だが、もうほぼ傷は塞がった。魔術式さまさまだ。早急にここを出たい。戦いたい。

彼はやはり、自分でも気づかないくらいに戦闘狂なのだった。


「いや、これ以上迷惑は・・・・」


「そんな体でまた街の外に出られて、今度こそ死んじゃったら、それこそ迷惑だし、悲しい。だから、まだここにいて」


「でも・・・・」


「ここにいて」


顔を近づけて、迫ってくる少女。圧倒されてしまう。


「くっ・・・・」


「ここに、いて!」


さらに顔を近づけてきて、そろそろ鼻先が当たる(いい匂いがする)、というところで俺は音を上げた。


「ああもう・・・・わかったよ!もう少し迷惑になります」


「それでよしっ」


にっこり笑う少女。

不覚にも可愛いと思ってしまった。


「・・・・ディード」


「へ?」


「名前。お前の教えてくれ」


「ああ、そういうことね」


いきなり名前言われてもわからないよー、なんて言いながら、やっぱりほわんほわん笑う彼女。


「私はね、フィール。フィーって呼んでくれるとうれしいですっ」


演技がかった言い回しで、自分の名を名乗る少女。

やっぱり、磨けば光る原石だ。

俺はそんな原石を見て、心臓の鼓動を加速させた。












フィーの家にやっかいになって、数日が経った。

冒険者は、ギルド入団時に、体に独自の、回復促進の魔術式を埋め込まれる。

すると独特の文様が、手の平に薄く浮かび上がるようになっているので、自分の治癒能力を高めてくれるのと同時に、ギルド団員だということを証明する身分証明書代わりにもなる。(フルアーマーの冒険者はいろいろ面倒そうだ。何か別の証明方法があった気がする)

そのおかげで俺の『魔熊』に負わされた傷はほぼ完治していた。

そろそろ本当に出ていかないとな・・・・などとベッドの上で考えていると、フィーが部屋に入ってきた。

この数日間、さんざん甘やかしてくれやがったので、ディードはすでに、彼女に依存しかかっていた。

早くここを出たい理由の内の、最も大きいところである。


「ねぇねぇ」


「ん、どうした?」


「あの・・・・その、ね?聞きたいことがあるんだけど」


「俺にわかることなら、答えるぞ」


彼女とその家族にはこの数日世話になった。看病もしてくれたし、料理も出してくれた。至れり尽くせりだ。家族の顔は見たことがないが、見ず知らずの冒険者を自宅においてくるあたり、きっと彼女のように優しい人たちなのだろう。

そんな恩人たちに、その恩を返したいと思うのは、当然のことだった。


「えっと、ね。『死を呼ぶ新参者(レッドルーキー)』って異名の冒険者さん、知ってる?」


「『死を呼ぶ新参者(レッドルーキー)』・・・・?」


この街に来てからの半年の記憶をできるかぎり呼び起こす。

だが、そんな異名で呼ばれている冒険者は知らない。


「・・・・ごめん、わからない」


「・・・・そっ、か。うん!大丈夫!ごめんね、急にこんなこと聞いて」


一瞬だけ落胆した顔が見えたが、それを瞬時に隠し、いつもの笑み(少し強張ってる)に戻るフィー。

何日も泊めて看病してもらったのだ。理由はわからないが、気になるようならば今度そいつの情報を集めて、この少女に教えるのもいい恩返しの一つかもしれない。


「どういうやつなんだ、そいつ」


彼女も知らないから聞いてきたのだろうが、断片的な情報だけでもいい。あれば、探す手がかりになるかもしれない。

そう思っての問いだった。


「えっとね、その人は、半年前、この街に現れたんだって」


半年前に出現した、冒険者。


「俺と同時期の試験合格者・・・・だな」


「それで、そんな新米さんのはずなのに、とてつもなく強いんだって」


「へえ・・・・」


「依頼の度、全身を魔獣の血だらけにして、帰ってくるの。しかも、ほぼ無傷で!すごいよねー」


「そいつはすごいな・・・・」


思いのほか情報を持っていて少し驚く。

――――――それにしても、全身を魔獣の血だらけにして(だから『レッド』ルーキーなのか)、自分は無傷か・・・・恐ろしい新米だな。

とてもじゃないが、同期の冒険者とは思えない。類稀なる戦闘の才に恵まれているか、とてつもない努力の果てに手にした強さなのだろう。

それにしても、そいつの話をするフィーは興奮しているのか、顔がとても赤い。特に頬が一番赤い。


「で、何でフィーはそいつのことが気になるんだ?」


何気なく理由を聞いただけだったのだが、彼女は少し、見当はずれな反応をした。


「き、気になるだなんて!ち、違うよっ!私はただ・・・・その・・・・」


「・・・・」


「・・・・カッコいいなぁ、って」


一際赤く頬を染め、言い切る。

そんなフィーの顔を見てディードは――――、

―――――悟った。わかってしまった。

フィーは、きっとそいつに恋慕を抱いているのだ。

もしかしたら、そこまで大きく成長しきっていない、淡い感情かもしれない。だが、明らかに彼女の表情は恋する乙女のそれだった。

急に己の胸が痛くなった。なぜだろう、苦しい。下手をすれば、魔熊に受けた傷以上かもしれない。

独白に、何を馬鹿なことを言っているんだと自分で呆れながら、彼女の言葉の続きを聞いた。


「まだ始めたばかりの仕事にそこまで熱心で、すごいなって思ったの。私は、家業の花屋をつい最近継いだばかりで、頑張ってはいるんだけど、あんまりうまくいかなくてね・・・・。花屋よりもちろん大変で、命がけの仕事なのに、それを毎日必死に、完璧にこなしてるのが、ほんとうにすごいなって。どうやったらそんなに頑張れるのか、話を聞いてみたい。それになにより・・・・」


「・・・・なにより?」


「どんな人なのか、会ってみたいなって」


「・・・・」


幸せそうに、そして顔を赤らめながら、自分の思いを口に出していくフィーを見て、殊更胸が苦しくなる。

そこで、また悟ってしまう。

――――――ああ、そうか。


「ディードどうしたの?辛そうだよ・・・・?傷、まだ痛むの?」


「いや、違う。違うんだこれは・・・・」


気づいた途端に終わってしまうとは。

――――俺もまた、彼女に恋慕抱いていたのだ。


「持病なんだ。きっと、すぐ直る」


「持病!?病気!?本当に大丈夫なの!?」


恋の病とは、よく言ったものだ。

確かに、これは病気のそれに匹敵するくらいに、胸が、苦しい。


「ちょっと寝る。ごめん、一人にしてくれないか」


横になり、フィーに背を向け、眠る体制になる。


「・・・・うん、わかった。持病なら、持病持ちの人が一番対処法知ってるはずだもんね。寝た方がいいっていうなら、私は部屋出るよ」


「・・・・ああ、頼む」


「何かあったら、言ってね?」


彼女の立ち上がる気配、そして、足音、扉の閉開音と、フィーが完全に姿を消すまで、待つ。

数十秒経って、ディードはふー、と息を漏らした。

――――対処法?わからねえよ。わかるわけ、ねえだろ。こんな持病、つい数日前まで、無かったんだ。

こんな急にわいてきた感情の対処なんて、すぐできるわけねえだろ。


そう心中で繰り返して、最終的にはやはり、一度寝て落ち着いた方がいいと思い至り、眠った。
















次の日、俺はフィーの家を出ることにした。


「世話になった、ありがとう」


「どういたしまして!さびしくなるなあ。・・・・もうあんまり無茶しちゃだめだよ?」


「おう。ところで、お前の家族は?最後に泊めてくれた礼言いたいんだが。もしかして前言ってた花屋にいるのか?」


「ううん。家業は私がもう全部引き継いだから」


何故か少し悲しそうに言うフィー。

その様子を不思議に思いながら、なお俺は彼女に家族の居場所を問う。


「じゃあ、どこに・・・・」


「死んじゃった。半年くらい前に」


「は・・・・?」


「近くの森あるでしょ?そこで魔獣に襲われて。本来魔獣がいないはずの場所に、希少種がたくさん現れたらしくて、お父さんと、お母さんが最初の発見者で、犠牲者」


「それは・・・・ごめん。無神経だった」


「ううん、いいよ。・・・・もう慣れたから」


そういう彼女の表情を見ても、そうは思えない。

想像することしかできないが、急に大切な存在を2人も喪うのは辛いことだろう。さらに、家業の花屋も継ぐことになった。いや、家業の継ぐ継がないは後継者の自由のはずだから、自分の意志で、彼女は家業を継ぐことに決めたのだろう。

それから今日まで、彼女は自分一人で店の切り盛り、そして生活してきた。

自分が家業を継ぐとほぼ同時期に冒険者デビューし、異名まで持った彼女の気になる人。

負けてられない、とその噂に幾度となく励まされただろうか。

少し、妬ましい。会ったこともないくせに、彼女を虜にしやがって。

だから、対抗するわけではないが、少しくらいカッコいいことを言って立ち去ろうと思う。


「まあ、その、なんだ。俺はお前に命を救われた」


「?」


「だから、困ったことがあったら言えよ?恩人にはできる限り尽くすからさ」


少し暗かったフィーの表情が晴れたような気がした。


「・・・・ありがとう」


「・・・・それじゃあ、もう行くな」


大通りの方を向いて、言う。


「またな」


「うん、またね。―――――死なないでね」


「・・・・おう」


最後の言葉、その中には彼女の悲しみが詰め込まれているような気がした。











腹が情けない音で鳴く。

最近は、ろくなものも食べずに狩りばかりしていた。

しばらく忘れていたが、食事とは本来、美味い物を味わって食うものだと思っている。

フィーの家で出された料理はとても美味かった。酒場に出せそうなくらいだった。

母親辺りが作っているものだと思っていたが、おそらくフィー自身が作ったものだったのだろう。

あんなものを食べてしまったら、当分は干し肉薬草水の食生活に戻れそうにない。

ちなみに、俺はルーキーの中では金はけっこう持っている方だと自負している。

まあ、例の『死を呼ぶ新参者(レッドルーキー)』には敵わないだろうが。

奴について考えたら、悲しくなってきた。


「たまにはいいもの食おう・・・」


そう思い立って、フィーの家を出た足そのままに、傷心を癒す料理を求め、そして奴の噂について誰かに聞くため、酒場へ向かった。





「うめえ・・・・やっぱりあったかい飯は美味いなぁ・・・・」


ビーフシチューを食らいながら、至福の時間を過ごす。

決めた。これは週に一度は食べに来よう。


「あれ・・・・ディード?・・・・ディードじゃねえかぁ!!」


「ん?」


名前を叫ばれた。

何事かと声の主がいるであろう方向に顔を向ける。するとそこには何やら見覚えのある男が立っていた。


「あ、おまえは・・・・!誰だっけ」


「なんだよ!ダチ公の名前忘れたのかよ!俺だよ、シルだよ!!」


「ああ、そういえばそんな名前だったな・・・・」


名前を聞いて、芋づる式に記憶がよみがえる。

そうだ、こいつの名前はシル。大柄黒髪で、俺と同期の新米冒険者である。

最初に話しかけてきたのはこいつで、てきとうに返事していたら、故郷がそこそこ近いことが判明、それ以来見かけると馴れ馴れしく寄ってくる気のいい(自称)もとい、暑苦しいやつだ。

――――最近、街の中歩いてなかったから、全然顔見なかったな・・・・。


「最近見かけなかったけど大丈夫か?無茶してっと死ぬぞ」


「それは・・・・つい最近痛感した」


「死にかけたか!」


「・・・・まあな」


「でもまあ、よかったよ」


「?」


こいつ、俺が死にかけたのがよかったのか・・・・?


「お前の雰囲気が、初めて会ったころに戻っててさ」


「俺の・・・・雰囲気?」


「おいおい、自覚なしかよ!ちょっと前のお前、すげえやばかったんだぞ。なんつうか『戦闘狂』って感じっつうか、生きるために依頼や狩りをしてるっつうか・・・・」


「狩りをするために生きてるってか?」


「そうだ」


確かに、魔熊に敗れるまでの俺はかなりおかしくなっていた。

大した経験もないのに、己の実力を過信し、調子に乗って死にかけた。

この街で今上がっている討伐依頼で、もっとも高いランクの魔獣の一匹が魔熊だ。だが、もしも魔熊より高いランクの魔獣に挑んでいたら・・・・と思うとゾッとする。

もしかしなくても、助かる余地なく、死んでいただろう。


「俺は調子に乗ってた。反省してる。若さ、で片づけられるものでもないけど、あまりにも無謀だった。過信して、死にかけて・・・・。俺は最初、ただ先輩たちにギャフンと言わせてやりたかっただけだったのにな」


「ほー・・・・まあ、俺にやお前が何をしてどうなったかなんてわからないけどよ、本当に死にかけただけか?」


「は?どういうことだよ」


「いやよ?俺みたいなルーキーの目なんか当てになんないだろうけどよ、俺から見てちょっと前のお前は、だいぶ拗らせてた。ちょっと死にかけたくらいじゃあ正気に戻らなそうだなって、思ってたんだよ。他にも何か理由があるんじゃねえのか」


「それは・・・・」


良い目をしている。確かに、他にも理由がある。

それはフィール、彼女だ。

彼女に命を救われて、看病されて、優しくされて、惚れた。

拗らせていた俺は、フィーと出会ってまた別のものを拗らせた。

彼女の笑顔を見ると、庇護欲が掻き立てられた。それほどに、愛らしかった。

彼女のことをそばで見ていたいと、そう思った。

けれども今は、あまり突いてほしくない。

先ほど、実質失恋したばかりなのだ。もうなるべくは心に傷を負いたくない。


「なんでも、ねえよ」


「・・・・?」


俺の表情から、何を読み取ったのか、シルはしばらく何かを疑うような顔をした後、


「そうか。言いたくねえことも、あるよな」


優しく・・・・には程遠いものの、そこそこいい顔をして、笑いかけてきた。

その顔には、気遣いの色を感じる。

――――俺は、気遣われてばかりだな・・・・。


「いいんだよ!言いたくねえことの一つや二つ!またいつか言いたくなったら言ってくれりゃあいい!!俺たち、ダチ公じゃあねえか!!」


「いやそれはないからな」


「今の流れでそれ言うか?」


俺を鼓舞するようなシルの発言の後半部分を即座に否定すれば、彼は悲しそうな目をする。

――――ああ、半年前も、こんなやり取りをした気がする。

当時もこいつは、鬱陶しくて、やたら声が大きくて、それに・・・・思いやりがあった。


「お前、少しは、良いやつなのかもな・・・・」


「だろ?俺は基本、めちゃくちゃいいやつなんだぜ!」


「いやそこまでは言ってねえからな」


「だから即座に否定するのやめてくんねえかな・・・・」


なんだかんだ、たまにはこいつと話すのもいいかもしれない。たまには、たまにはだ。

いくらか、気がまぎれた。


「俺、もう行くわ。そろそろ新しい依頼が貼り出される時間帯だ」


「じゃあなもうこっちくるんじゃねえぞ」


「露骨に嫌そうに言うんじゃねえよダチ公・・・・」


「だからそれはねえから」


その図体に似合わない、捨てられた子犬のような目をしながら、シルは酒場の掲示板の方へと向かった。


なお、すでにディードの頭の中からは、『死を呼ぶ新参者(レッドルーキー)』の件について、誰かに聞く、という目的がすっぽり抜け落ちていたりする。




ディードは調子に乗った状態でも駆け出しの中ではかなり強い部類に入ります。

慢心せず、正しく状況を判断し、己の力量にあった動きをすれば、それ以上の高みを目指せますが、この物語の中ではそれほど重要でもないかな・・・・なんて。

冷静な彼なら、魔熊を倒せるかもしれなかったり。100回くらい戦うことができたとして、99回くらい殺されて、1回くらいなら運よく倒せるかも。

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