00-1 プロローグ
暖炉の火がまるで生きているかのように燃えている。
私は暖炉の前にある、ロッキングチェアに腰を掛けた。
ロッキングチェアに揺られていると、眠気が襲ってくる。
ニャーと黒猫のニーナが膝に乗ってくる。
最近、また一段と寒さが増した気がする。
窓の外を見れば、一面白銀の世界。
この辺には私の家以外なにもない。
ただ、雪が永遠に泣いているみたいに、しとしとと降っている。
ここには私とニーナ以外誰もいないのだ。
私はこの生活が嫌いではない。
不便な事は何一つない。
いや、一つ挙げるとしたら、めったに外に出れない事か。
出れないと言うか出たくない。
ただ、外に出ると体が凍りつくような寒さが嫌なだけ。
外出が必要なら時はしかたなく出るけれど。
ニーナがいるから寂しくはないし、時々お客さんが来るのだ。
トントンと玄関の扉を叩く音がした。
久しぶりのお客さんだ。
私はお客さんが来ると必ずこう言うのだ。
「ようこそ、ハナミズキ郵便局へ。私はヘルメース。あなたの思いを届けます」
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ハナミズキの花言葉は《私の想いを受けてください》
ヘルメース、ギリシャ神話に出てくる神様。
死出の旅路の案内者とも言われている。
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