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序章 第六話 驚愕

「ひまわりさん、改めて紹介します。本日江戸より戻られた斎藤一さんと井上源三郎さんです。二人も副長助勤なんですよ〜」

夕飯の後に沖田は二人を簡単に説明した。

「さっきの佐伯さんとの試合観たよ。いやー僕は久しぶりに感動したよ」

井上がその大きな体にピッタリの大きな声でワッハッハと笑った。

斎藤は何も言わない。

「江戸へは何をしに……?」

その質問には沖田が答えた。

「新しい隊士募集ですよ。斎藤さんと源さんの二人に江戸で戦力になりそうな人材を捜してきてもらってたんです。どうですか? 強そうな人はいましたか?」

「いや……今回は残念だが良い人材は見つからなかった。脈なしだ」

斎藤が静かに答える。

だがその隣で井上は苦笑していた。

「そもそも斎藤さんの出した条件が無茶なんだよ」

「どんな条件を出したんですか?」

沖田があからさまにワクワクと身を乗り出して聞く。

井上は周りを見回してから沖田の問いに答えた。

「『俺から一本取れた者のみ入隊を認める』」





・・・・・・・・・・・・。





数秒の沈黙。

やがて……

堰を切ったような大爆笑が部屋中に充満した。

「た、確かにそりゃ無茶だ! あっはっはっは!!」

と大声で笑うのは原田。

(はじめ) 、お前新しい隊士入れる気ねーだろ!」

続いて永倉。

「弱い奴など邪魔になるだけだ」

「っても程度があるだろうが。お、お前から一本! あっはっはっは!」

静かに返した斎藤の言葉に原田は更に笑い声を高めた。

葵は一人、状況を掴みきれていない。

なんとなく取り残された感じがする。

そんな葵の様子を察知したのか隣に座っていた美代が説明してくれた。

「斎藤はんは沖田はんと並ぶ程の剣の達人でな、壬生浪士組が正式に結成された時も斎藤はんは隊士募集で来たんやのうて、近藤はん自ら入ってくれいうて頼み込んだそうやで」

「ふーん」

「なんや反応薄いなぁ……」

と言われても、そもそも基準にされた沖田の強さもよく知らない葵にはやはり斎藤の強さなど解りようがなかった。

「それにしても美代さんは、此処の事に随分と詳しいな」

近藤達に会う前にも色々と説明してくれた。

今更だとは思うが、何故彼女はここまで昨日入ったばかりの壬生浪士組に詳しいのだろう……?

「え……そ、それは……」

ギクリと何かを言い難そうにしている。

美代は暫く目を泳がせたのち、葵に耳打ちをした。

周りはみな斎藤を小突いたりまだ笑い転げたりしていて、葵と美代の動きには気付いていないようだ。

「実は全部近藤はんに聞いたんや。お布団の中でな」

「布団の…………な?!」

美代の言葉を自分の口でリピートしてからやっとその意味に気付いた。

それはつまり……二人の関係はそういう事だという意味だろうか?

「あんた、いつの間に……もしかして、ここに入る前から?」

「せやから最初から言うてるやん。『ウチの惚れたお人』やってv」

美代は今度は両手で自分の頬を押さえ、キャッと顔を赤らめた。

葵は一瞬、近藤に抱かれる美代の姿を想像してプルプルと頭を振った。

「と、ところで美代さんなら知ってるかもな……。今日近藤さんの部屋を訪ねてきていた色黒の男の正体を知らないか?」

「今日近藤はんの部屋を……? ソレってウチが出かけてる間の事ちゃうん?」

「まあ……そうなのだが」

「ほな悪いけど判らへんなぁ……。ウチが帰ってきた時にはそんな男見当たらんかったし。色黒の男なんかこの京にも石投げたら当たるくらいいっぱいおるで?」

「それもそうだな……。変な事聞いてすまなかった。今度会ったら今度こそ正体を確かめてやる」

「今度こそって?」

「あの男、私をシカトしたんだ。失礼な奴だ」

「ふーん……」

美代はクスッと微笑んだ。

「やぁ、楽しそうですね。私も混ぜてくれませんか?」

その時襖を開けて山南が入ってきた。

「あ、山南さん! 聞いてくれよ、一の奴がさぁ……」

永倉が山南に説明しようとする。

だが山南は永倉の言葉を遮った。

「ちょっと待って下さい。その前に伝言があります。向日さん、土方君が君を呼んでいます」

「土方さんが……私を?」

「おいおいひまわり、お前いったい何したんだよ?」

永倉が葵を茶化した。

「ははは。お咎めではないのでご安心を。内容までは知りませんが土方君はなんだか楽しそうでしたよ」

「? ……それじゃあ……ちょっと言ってきます」

葵は土方の部屋へと向かった。









「……今、なんと言いました……?」

土方の言葉は、にわかには信じ難く……葵は思わず聞き返してしまった。

「何度も言わせんじゃねぇ。お前をこの壬生浪士組の正式な平隊士として入隊を許可すると言ったんだ。お前に拒否権はねぇ」

ならば許可ではなくて命令ではないか。

何故(なにゆえ)私を?」

「不服なのか?」

「私はあんたら男に比べたらひ弱に見えるらしい女だ。他の者が黙っていないのでは?」

葵は昼間の事もあり、多少皮肉を込めて言ったのだが……

「お前の実力を見せりゃー文句言う奴もいねぇだろ。あの佐伯を倒した程の腕前だ。それでも何か言う奴がいたら、倒してやりゃーいいさ。自分の手に負えなくなったら……俺に言やーいい」

「………………」

葵は目を見開いた。

第一印象では気の短い乱暴な者かと思っていたが、どうしてなかなか男前ではないか。

「で、返事はどうなんだ?」

葵はニッと不敵とも取れる笑みを浮かべて答えた。

「その話、喜んでお受け致します」

「よし」

見ると土方も同じような笑みを浮かべていた。

「しかし昼間の決闘、誰から聞いたのです?」

隠したがっていた沖田達が話すとは思えない。

黙認した以上斎藤や井上も話さないだろう。

「それについてはお前が知る必要はねぇ。機会がアレばその内知る事となるだろう」

「……りょーかい」

しつこく食い下がった所でこの男は教えてはくれないだろう。

(しつこく聞く気もないが)

葵は悟って立ち上がろうとした。

「もう一つ、さっき山南さんに言い忘れた事があってな、皆に伝言を頼みたい」

「なんでしょう?」

「引越しは明日。以上だ」

「………………は?」

「以上だ」

「…………………………御意」


先程『結構いい人なのかもしれない』と思った事を撤回しようかなと思った葵であった。









「あ、ひまわりさん、どうでした?」

皆が集まっている大部屋に戻ると真っ先に沖田が声をかけてきた。

呼ばれた理由が知りたくて知りたくてしょうがないという顔だ。

「……惚れそうだ」

葵はまずは溜め息交じりにそう答えた。

もちろん皮肉の意味で。

しかし沖田の答えは意外な物で……

「ダメですよ〜。土方さんは近藤さんの奥さんなんですから」

「……そうなのか?」

「あ、でも正妻ではないですけどね。近藤さんの奥さんはちゃんと江戸にいますから。だから側室ですね」

「……そうなのか」

「コラコラ総司! ひまわりも素直に信じんな」

原田が二人を嗜めた。

「……違うのか?」

その質問に答えたのは藤堂。

「まぁ似たようなもんと言えばそうなんだけどねぇ……。近藤さんがある意味奥さんよりも絶大の信頼を寄せてるのは土方さんだと思うよ」

「ふーん……」

まぁぶっちゃけそんな事どうでもいいのだが……そんな意味も含めた返事。

「それよりも土方さんの用事っていったい何だったの?」

なんだかんだ言って藤堂も気になっているようだ。

「聞いて驚くのは構わんが、不満がある者は私と勝負しろ。影でコソコソ言われるのは好きではないのでな」

「「「「???」」」」





「私を壬生浪士組の平隊士として正式に迎え入れてくれるそうだ」





「な?! マジかよ?!」

一番に声を出したのは永倉だった。

他の者も同様を隠せない。

だが皆昼間の一件を知っていたので異論を唱える者は誰一人としていなかった。

「それともう一つ」

葵は続けて土方の伝言を伝えた。

「引越しは明日。以上だ」

土方の言葉そのままに。

「うげ! マジかよ?!」

と原田。

「まだ荷物片付いてねぇって!!」

と永倉。

「こうしちゃいられない!! 明日までに部屋の物手分けして纏めないと!!」

その藤堂の言葉を合図にしたかのように皆一斉に立ち上がり、それぞれの部屋へと引き上げていった。

どうやらみんなにとっては葵の入隊よりも明日の引越しの方が重要らしい。

「……明日引越しするのか?」

一人部屋に残った美代に聞いてみる。

何故か彼女なら何か知ってる気がして。

「此処ははっきり言うて40人近くの男達が暮らすには狭いからなぁ……通を隔てた向かいのもっと大きいお邸に移るんよ。芹沢一派意外」

「そうなのか……」

来たばかりで荷物が少なくてよかった……そう思った葵であった。

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