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序章 第五話 いってなかったか?

「これはいったい、何の騒ぎだ?」

「あ、お帰りなさい。戻られたんですね。お二人共、長旅ご苦労様でした」

沖田がペコリと頭を下げた。

「ああ……。いや、それよりも今は訓練の時間の筈だろう? どうして誰も素振りすらしていないんだ?」

「それはですねーこれから始まる試合をみんな観たいと思ってるからですよ♪」

「試合って……この事を土方君は知っているのかい?」

と言ったのは先程から黙っていた男。

「まっさかー。知ってるわけないじゃないですか。知ってたらこんな試合絶対認めませんって」

沖田は大袈裟に手を振った。

「だろうな……。さっき顔を見せに行った時は様子も普通だったし」

「確かに、土方君が知ったら怒るだろうなこんな試合は。ところで……」

「あの女剣士はいったい誰だ?」

「あの女剣士はいったい誰なんだい?」

最後の台詞は見事にハモッた。









「泣いて土下座するなら許してあげましょう。今ならまだ間に合うますぞ!」

佐伯が葵に向かって怒鳴った。

葵に木刀を向けている。

しかし葵も負けてはいない。

「それはコチラの台詞だ。恥を掻きたくなければ素直に己の浅はかさを認めろ。そして女を侮辱した先程の言葉を訂正しろ」

葵は動きやすくする為胴衣に着替えていた。

どちらも簡単な胸当てだけをし、面当ては着けていない。

その為驚く程の葵の冷静な表情と、佐伯の怒りで真っ赤にした顔は一目瞭然であった。

「誰でもいい。誰か掛け声をくれ」

「私がやりましょう」

即座に沖田が答えた。

彼はどうやらこういうイベントは大好きらしい。

「ではいきますよ。二人共構えて……」





「始め!!」





掛け声と共に葵の姿は佐伯の前から消えていた。

(な……消えた?! い、いや違うもの凄い速さで移動……)

そこで佐伯の思考は途絶えた。

掛け声から0,2秒で道場に響き渡った音。

ソレは葵が佐伯を倒した音であった。

佐伯は床に倒れ、葵は元の位置で構えを解いている。

平隊士の中には葵が今いったい何をしたのか理解出来なかった者もいるだろう。

流石に副長助勤の役職を与えられている程の者には見えていたらしいが……。

「『峰打ち』ですね」

「そんなところだ」

沖田が呟き、葵が答える。

見ると息一つ乱れていなかった。





葵が先程佐伯に行った動作は以下の通りである。

まず、号令と同時にかけだし佐伯の懐に入り込む。

そして相手が葵の存在に気付き反応する隙を与えず、首に一撃与える。

ただし衝撃が強すぎて死なれては困るので木刀を握っている手の甲で。

そして相手が倒れる前に再び素早く元の位置に戻る。

以上である。





「お、お前すっげぇな!!」

永倉が感動の声をあげた。

「どこで覚えたんだよそんな技?!」

原田も興奮している。

他の隊士も口々に「凄い」とか「全然見えなかった」とか言い興奮しているようだ。

技をやってのけた葵本人はいたって冷静に答える。

「言ってなかったか? 私はとある道場の一人娘だ。いずれは道場を継ぐ事になっている」

「いや聞いてねーし!」

「言ってない言ってない」

複数の者からツッコミを入れられてしまった。

「そ、それはすまなかった。別に隠すつもりはなかったのだが……」

「それにしてもマジで凄いなぁ! 佐伯も結構腕は立つ方なんだぜ?!」

原田がダダダと駆け寄ってきたかと思うと葵を抱きしめ頭をわしゃわしゃと掻き回した。

それを合図にしたかのように他の者もワッと駆け寄ってくる。

「ば、バカ。やめろ! 苦しいって……いうか髪が乱れる! って永倉!! どさくさに紛れて胸を触るな!!」

「うを?! よく俺だと判ったな……」

「貴様ぐらいしかおらんだろう!! そんなバカな事するのは!」

「確かに」

藤堂がプッと噴出し皆も一斉に笑い出した。





葵達の様子を上から眺めていた男がいた。

「へぇ……あの女、なかなかやるやないけ。おもろそうや」

呟くと男はスッと姿を消した。





「まったく……あいつら私をなんだと思っているんだ?」

あの後男達はなかなか葵は離そうとしなかった。

すき放題にもみくちゃにする。

それはまるで無邪気に子猫で遊ぶ子供のように。

そのくせ葵が

「そろそろ握り飯を作らないと」

と一言呟いたらアッサリと離した。

「いやー仕事の邪魔をしてすまなかったねぇ」

「君のおいしいご飯を心待ちにしているよ」

「さぁ早く台所に行きたまえ」

原田・永倉・藤堂が気持ち悪いくらい丁寧に送り出してくれる。

(ったく。ゲンキンな奴らめ)

葵は心の中で悪態を吐きながらその場を後にした。

そして今は言葉通り握り飯を全員分――不本意だが芹沢達の分も含め全員分―作り、まずは近藤や土方に……と握り飯を運んでいるところだ。

近藤、土方、山南の三人分を落とさないようにお盆を持って歩く。

ちょうど近藤の部屋に差し掛かった所で、一人の男が近藤の部屋から出てきた。

「ほな、これで失礼します」

「ああ、宜しく頼む」

中から聞こえたのは土方の声だ。

出てきた男に見覚えはなかった。

褐色の肌に、原田に負けないくらいの色男。

この男も壬生浪士組なのだろうか……?

等と考えていたらコチラに向かってきた男と目があってしまった。

「あんたも……壬生浪士組か?」

「…………」

だが男は何も答えず葵の横を通り過ぎた。

「ってオイ! シカトする気か貴様?!」

「向日か? 飯でも持ってきたのか?」

部屋の中から土方の声が聞こえてきた。

「あ、ハイ! そうです!」

振り向くと男は消えていた。





葵の視界からは見えない物陰で男は一人思った。

(なんや……ここが楽しくなりそうな予感やわ。ま、そう仕向けたんは俺やけど)

男はクックックと笑みを浮かべた。

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