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序章 第三話 朝の出来事

「……なんとかならない物だろうか……」

葵は朝食の用意をしながら呟いた。

味噌汁やお米の炊き方は多少違うものの、問題はない。

我が家には釜戸があったし、祖母の好みでたまに使ったりもした。

朝が早いのも結構。

祖母に育てられた葵は寧ろ早く起きないと体の調子が狂うくらいだ。

美代にいくつか貸してもらったこの時代の服も実はそんなに抵抗はない。

これまた祖母の指導の元、浴衣や着物は一人で着るくらい文字通り朝飯前である。

だが……これだけは……この……鬱陶しい無数の視線だけは我慢ならなかった。

「貴様らそこで黙って見てるのなら手伝ったらどうだ!! 嫌なら大人しく待っていろ!!」

葵はとうとうブチ切れた。

振り向き、コチラを覗き見ている男達に怒鳴る。

「葵ちゃん、落ち着いて。あの人らも悪気があってやってるんちゃうし」

「う〜……」

隣で漬物を切っている美代に宥められたが、葵の気は治まらない。

「ま、ここはホンマに女性がおらんかったみたいやしなぁ……今まではご飯も当番製やったみたいやし、女性がご飯作る姿おがめんのも久しぶりなんやろ」

「その気持ちも解らんでもないが……」

納得した訳ではないが、美代の言う事は理解出来た葵はクルッと振り向き再び野菜を切るのを再開させた。

その時である。

「で、何をやったらいいんだ?」

不意に後ろから肩を抱かれ、耳元で声がした。

驚いて声のした方を見ると背の高い男が立っている。

「アンタは……」

確か原田左之助といったか。

副長助勤らしいが……他の隊士の話だと面倒見は良いが無類の女好きらしい。

オマケに男に興味などまったくない葵の目から見ても原田は相当の色男に部類されると思うので、女にもてるというのも本当の話だろう。

そしてもう一人、似たような評価をされた男がいた。

「お、お前見た目より胸でかいなぁ!」

「な!」

背中から手が伸びてきて、葵の胸を躊躇いなく揉む。

後ろを振り向かなくても誰がやったのかは解る。

「永倉新八!!」

彼もまた副長助勤であった。

(ついでに言うと沖田総司も副長助勤である)

「貴様! 許せん! 成敗してくれる!!」

葵は手にしていた包丁を永倉目掛けて振り下ろした。

わずか数ミリで避ける永倉。

「あ、危ねーなオイ! 刺さったらどうすんだ!」

「大変結構だ。私は刺すつもりで振り下ろしたんだからな」

葵はシレっと言ってのけた。

「邪魔をするつもりならさっさと去れ。貴様達が邪魔しなければ朝食はすぐに出来る」

「いや〜藤堂はん上手いね〜」

「だっしょ。俺昔はよく家の手伝いとかしてたからさー皮むきには自信があるんだよねぇ」

声に振り向くと、いつの間にやら――彼もまた副長助勤なのだが――藤堂平助が美代の隣でじゃがいもの皮を剥いていた。

「……コッチはまぁいいか」

葵は再び野菜を切り始めた。

「オイ! テメー何差別してんだよ! 平助はよくて俺はダメってのか?!」

後ろで永倉がギャーギャー騒いでいる。

そんな永倉に葵は手を止め答えた。

「当たり前だろ? 私は『邪魔をするつもりなら』と言ったんだ。手伝ってくれる者を追い出す道理はない。これ以上邪魔をするつもりなら……本当に刺すぞ?」

「う……」

葵にギロリと睨まれ永倉は固まってしまった。

「原田さん、一つ頼みがある」

永倉と葵のやり取りをずっと見ていた原田に声をかけた。

「お? なんだ? なんでもいってみろ」

兄貴肌に相応しい実に気持ちの良い返事だ。

「そこで固まっているバカ一匹をこの場から連れ去ってほしい」

葵は前を向いたまま親指で永倉を指した。









「それにしても安心したわ」

食事を運んでいる時、美代が一言呟いた。

「? 何がだ?」

「葵ちゃんの事やん。若い女の子がこんな猛獣どもの住みかでやっていけるんかなってちょっと心配やったんよ」

「猛獣……」

「紹介したんはええけど、万が一襲われでもしたら申し訳ないからなぁ……。でもさっきの永倉はんとのやりとり見てて安心したわ。葵ちゃんカッコ良かったもん。十分此処でもやっていけそうやね」

喜んでいいのか複雑な所である。

それよりも先程から気になってる事がある。

「……美代さんはどうなんだ?」

「え?」

先程からの言い回し。

どうも何か引っかかる。

まるで自分は絶対に大丈夫だと言わんばかりだ。

だいたい若い女の子が……と言うが……

「あんたも若い女性だろう? 危険なんじゃないのか?」

葵よりは年上なのだろうがせいぜい20代前半くらいだろう。

おまけに美人で大人の魅力もある。

葵よりも襲われる可能性は高いと思うのだが……。

しかし美代はあっけらかんと答えた。

「ウチはだーいじょうぶv」

「だからなんで」

「そらあんた踏んできた場数がちゃいますもん。そう簡単に男に抱かれたりなんかしまへんえ♪」

「…………」

どこか釈然としない答えだが、おそらくこれ以上つっこんでも美代は答えてはくれないだろう……と葵は直感的に思った。









そうこうしてる内に皆が集まっている部屋についてしまった。

襖を開けたとたん大勢の男達の声が聞こえてくる。

「うほー! めし!」

「女が作っためしだ!」

「くぁ〜良い匂いだぜ〜!」

「やっぱ朝は快食快便だよな〜vv」

「「「めしめしめし〜! めーし!」」」

コイツらは猛獣というよりただのバカなんじゃないのか?

そんな風に思えてくる。

まぁどちらにせよ、さっさとエサならぬ朝食を与えて黙らした方がよさそうだ。

葵と美代は分担してご飯とお味噌汁を各人に配った。

「葵君。昨日はよく眠れたかい?」

近藤の所に持ってきた時に、問い掛けられた。

「ええ。とても気持ちよく目覚める事が出来ました。感謝します」

昨日近藤は葵専用に部屋を一つ空けてくれた。

小さくて申し訳ない……と言われたものの、葵一人が使う分には丁度良かった。

寧ろ少し広いくらいだ。

美代の事が気になったが、どうやら彼女にも別室がちゃんと用意されているらしい。

今度場所を聞き、伺ってみる事にしよう。

「オイお美代。あとでヤツを俺の所によこせ。いつでも構わねぇ」

土方が美代に言った。

自然とその言葉は葵の耳にも入って来る。

「へぇ。ほんなら伝えておきます」

ヤツ? ヤツとはいったい誰の事だ?

ここに集まっている者達意外にもまだ誰かいるのだろうか?

もっとも、芹沢一派はまだ寝ているようなのでその内の誰かかもしれないが……

それにしても昨日入ったばかりの美代に伝言を頼むのも妙な話である。

昨日の様子ではそれほど信用しているようにも思えなかったし……

それともそういった伝言が彼女のここでの仕事の内でもあるのだろうか?

少し疑問が生まれた葵だったが、すぐにそんな事は考えていられなくなる。

「おーい! ひまわり! 味噌汁おかわりくれ〜!」

「俺も俺も!」

「俺も!」

原田・永倉・藤堂である。

因みにこの三人、(別に見習わなくても良いのだが)沖田を見習い葵の事を『ひまわり』と呼んでいた。

というより、此処の者達の大部分は既に葵の事を『ひまわり』と呼んでいる。

「ま、別に構わないけどな……」

葵は思わず呟いた。

「おーい! おかわり〜!」

「解った! すぐ行くから少し待っていろ!」

原田の催促に答えながら、葵は味噌汁を注ぎに行った。

気が付くと美代の姿は消えていた。

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