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序章 第二話 出会い

「壬生……浪士組?」

葵が連れてこられたでかいお屋敷には、即席のお粗末な――といってもバカでかいが――表札が掲げられていた。

そこには『壬生浪士組』と書かれている。

葵の頭に一瞬にして頭に『や』の付く三文字の言葉が浮かんで来たのは言うまでもない。

「此処にいったい何のようが……? というよりアンタ……美代さんは此処とどういう関係なんだ?」

『アンタ』と言った所で美代がひどく悲しそうな顔をしたので、葵は言い直した。

「関係なんかまだないよ。だってウチが此処に来んの今日が初めてやもん」

「???」

葵はまたもや困惑顔だ。

「ほんまにここらの事なんも知らんのやね。この壬生浪士組って言うんはな、京都守護職言うてな、公方様はもちろんの事、松平容保様や京の市民の安全を護る為に作られた組織……って事になってるんよ。」

「……って事になってる……??」

「まぁそもそもこの組織をつくった人の目的は他の所にあったんやけど……ま、今はそんな事気にしてても意味ない事やしな」

「???」

「ま、どうしても気になるんやったらおいおい教えるし。ほな、早いとこ入ろか。今ごろ首長くして待ってはるわ」

「あ、すまない……」

私の所為で……という言葉は美代の人差し指によって遮られた。

「謝らんでもよろしいえ。困ったときはお互い様や。それにここの局長は話のわからんお人やあらへん。理由(わけ)言うたら笑顔で許してくれはるで」

美代はニコッと微笑むと葵の手を引き門をくぐった。











中に入って最初に出会ったのは小太りの見るからに酔っ払った男と痩せ細った男だった。

「あ〜……? アンタ、見ない顔だなぁ?」

酔った男が予想通り美代に絡んでくる。

そして予想通り、葵は眼中にないようだ。

「今日から此処で働かせてもらいますよって。宜しゅうお願いします」

嫌な顔などおくびも見せず、ニコッと微笑みかける。

その美代の微笑みに男は気を良くしたようで……

「ああ、そうかそうか。あんたの作った飯は美味そうだな〜。ワシはここの局長、芹沢鴨だ。夜が寂しくなったらわしの部屋に来るがよいぞ」

芹沢はひゃっひゃっひゃっと下品な笑いを浮かべた。

葵は遠慮なく不快な表情を出したのだが、美代は顔を崩さない。

それどころか

「へぇ。その時は宜しゅうお願いします」

と世辞まで言ってのけている。

「はっはっは! お主、気に入ったぞ! 今度酌をせい」

「へぇ。いずれ芹沢はんのお部屋にお邪魔させてもらいます」

「必ずだぞ。ではワシはこれから飲みにいくでな。また会おうぞ」

「へぇ」

「新見! 行くぞ!」

「は、はい!」

今まで黙っていた痩せ細った男、新見が慌てて芹沢についていった。

行動から察するに同僚とかではなく、部下のようだ。

「アレだけ酔っててまだ飲みに行くつもりなのか……」

芹沢の姿が見えなくなってから葵がボソリと呟いた。

「けったクソ悪いわホンマ。あんな男が局長やってるやなんて。誰がお前の酌なんかするかっちゅーねん」

さっきとはうって変わって美代も顔に不快の色を浮かべている。

彼女もこんな暴言吐くのだな……と関心をした葵だが、一つ気になる事があった。

「今の男が局長……? 話の解る……?」

確かに女性には弱そうだが……。

しかし美代によってすぐにその間違いは訂正された。

「ちゃうちゃう。話の解るウチの惚れた局長はあの男なんかやあらへん。なんやややこしいけどな、この壬生浪士組には局長が三人おんねん」

「三人……そもそも局長とは何なのだ? 私はアンタ……すまない、美代さんの話方からてっきり一番偉い人なのかと思っていたのだが……」

つい『アンタ』と言ってしまい、葵はまたもや訂正した。

「それはまぁ確かに間違いではないんやけど……あんな、この組織はまだ出来たばっかりで、局長が決まったんかてついこの間やねん。その時色々揉めはってなぁ……結局意見が分かれてさっきの芹沢鴨が『決められないのなら局長を二人にすればいい』言うてな……」

「?? しかしさっきは三人と……」

「ほいたらさっきの新見錦が調子こいて『近藤に局長が勤まるんなら俺も出来る』とか言い出しよってな。ほんで芹沢のどあほが『だったらお前も局長だ! わっはっは!』って言いよったんや」

そこまで言うと美代ははぁ〜とため息を吐いた。

「近藤……?」

初めて聞く名前だ。

それが美代の惚れた相手なのだろうか?

「そうやそうや! 近藤はん! こないな所でぐずぐずしてる場合やあらへん。ほなさっさと行きましょ」

そして美代は再び葵の手を引き、ずんずん前へ進んで行った。









「お待たせしましてすいまへん。美代です」

美代は襖の向こうへ声を掛けた。

間髪入れずに声が返ってくる。

「遅い! どれだけ待たせりゃ気がすむんだ」

この声の主が『近藤』なのだろうか?

話の解る……?

するとすぐにもう一つ声が聞こえてきた。

「まぁまぁ土方君。彼女も何か理由あっての事なのでしょう」

どうやら最初の声は『近藤』ではなかったらしい。

では今『土方』を宥めた声が……?

「だがなぁ山南さん。これからここに入ろうって奴に嘗められたんじゃ……」

「歳、大丈夫だ。彼女はそんな人じゃない。私が保証する」

「……近藤さんがそう言うなら……」

会話を聞きながら葵は頭を整理していた。

最初に声を発したのが『土方』。

『土方』を宥めたのが『山南』。

そして最後に『土方』に声を掛けたのが『近藤』。

「お美代さん。入ってきなさい」

「へぇ」

近藤の声が聞こえ、美代は襖を開けた。

中には三人の男が座っていた。

のほほんとした顔をした男、眼鏡をかけた男、そしてコチラを睨みつけている男。

「ん? お美代さん。その() はいったい……?」

のほほんとした男が美代に問い掛けた。

声から察するに『近藤』だろう。

「この子とはさっき出あったばっかりなんやけどな、ちょっと気の毒でなぁ……近藤はん、彼女もここに住まわしてやってくれへんやろか? 料理は出来るみたいやねん」

「私は別に構わんが……詳しく話を聞かせてくれるかい?」

「へぇ……実は――――」










美代は葵の事を簡単に話した。

ただし、先程の話をそのまま伝えると混乱してしまうだけなので、軽い記憶障害のようらしい……とだけ伝えて。

「お前……生まれは何処だ?」

土方が問い掛けてきた。

「……東京」

どう答えていいか解らず取り合えず正直に答える葵。

だが予想通りの答えが返ってきてしまった。

「とうきょう? どこだそれは? 聞いた事ねぇなー……山南さん、あんた知ってるかい?」

「いや……私も聞いた事がないですね……。彼女の服装も私達とはかなり違っているみたいですし……君はもしかして渡来してきたのですか?」

山南が眼鏡を人差し指と中指で直しながら質問する。

葵はすぐには反応出来なかった。

すぐに意味を理解する事が出来なかったからだ。

「渡来……………………? ああ! 外国から来たかって事か。違う。私は生まれも育ちも日本だ」

「ふん……まぁ言葉も不自然じゃねーし信じるか。大方何処かの田舎から出てきたんだろう」

「……まぁ……そんな所だ」

訂正してもまた説明するのが面倒なので、葵はあえて土方の言葉に曖昧に頷いた。

その時であった。

唐突に……それは本当に突然やってきた。

「近藤さん! その方達が新しい仲間ですか?!」

目をキラキラさせてコチラを見ている。

歳は……同じくらいか、少し上だろうか?

精神年齢は今のところものすごく下に見えるが……。

「総司! てめぇ入る時は一声かけてから襖を開けやがれ」

土方があからさまに不機嫌に言う。

しかしそんな土方の言葉にまったく臆する事なく

「だって声かけたら誰も驚かないじゃないですか〜」

と青年は言ってのけた。

「驚かす必要なんざまったくねぇだろうが! 普通に入ってきやがれ!」

「え〜、だって折角の初対面なのに普通に部屋に入るなんて芸がないですよ〜」

「初対面の挨拶に芸なんざ必要ねぇ。つーかそもそもお前を此処に呼んだ覚えはねぇぞ!」

「私も呼ばれた覚えないですよ〜。まぁだからこそみんなを驚かせる事が出来たんですけどね♪」

「あのなぁ……」

「っぷ……くく……」

二人のやり取りを見ていて葵は堪らず噴出してしまった。

土方に睨まれ慌てて口に手をあてる。

すると残った方の手を青年に掴まれた。

「初めまして。沖田総司といいます。いや〜感激だなぁ。こんな可愛い人が此処に入ってくれるなんて。今まで男ばっかりでむさ苦しかったんですよ。あ、でも心配だな……もし何か身の危険を感じたら遠慮なく私に言って下さいねv そんな不届き者は私がばっさばっさ斬っちゃいますから♪」

「はあ……」

圧倒される葵。

取り合えず今一番危険に見えるのはアンタだ……とは言わないでおいた。

「あの〜……名前教えてもらえませんか?」

「ああ! すまない! (あまりに驚きすぎて名乗るのを忘れていた)私は向日(むかひ) (あおい) だ。宜しく……」

「向日葵さん……。ああ! じゃあひまわりさんですね! 宜しくお願いします! ひまわりさん!」

「よ……宜しく」


別にどう呼ぼうと構わないが、許可を求める事もしないのだな……

葵はそれも口にはしなかった。





こうして……壬生浪士組の一員としての葵の生活が始まった。

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