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望まない戦記  作者: 脱兎
戦の前
14/34

14・希望

いつも読んで頂きありがとうございます

「アニキ、とりあえず落ち着け」


正之が何か言っている。

大丈夫、俺は落ち着いているさ。

何を言ってるんだコイツは。


「アニキ・・・コーヒー溢れそうだから座れよ」


言われて気が付く。

お盆にコーヒーを乗せたまま、小刻みに震えている自分が居た。偶然でかたずけるか?可能性は無いか?諦めに似た感情が

高ぶっていく。3年間、必死に手懸かりを探した。

何も無かった。何もだ!

あの日、何故家まで送らなかったのか。

毎日の様に後悔し続けた。

魂の抜けた様なご両親を見て、掛ける声が無かった。

あの子が、華ちゃんが生きて居るかも知れない。

そんな希望を前に、諦めかけていた。

そんな希望を!



「おい、しっかりしろ、アニキ!!」


手を捕まれて、今度こそお盆をテーブルに置き座る。


ミント君達は僕の豹変具合に驚いている

目を見開き、うっすら涙さえ浮かべている僕に。


「あの、マサヒロさん、大丈夫ですか?

僕、お気に障る事、言いましたか?」


戸惑いが痛いほど伝わる。


「いや、すまん。

アニキは3年間、一人の女の子を探し続けてるんだ。

3年前突然消えた女の子を。

なあ、アニキ。この二人に華の事を話しても良いか?それとも、自分で喋れるか?」


正之がそう聞いてくる。

あの日の事、あの後の事を。

冷静に伝えられるか?今の俺に。

感情が溢れ出しそうな俺に。


「頼む、今の俺じゃ上手く伝えられそうにない」

「解った、んじゃ俺から説明するわ

違ってたら訂正してくれ」


正之は華ちゃんの友達だった。

それなりの親交もあったろう。

あの日、取り乱した俺を落ち着かせ様としたのもコイツだ。その時に詳細も伝えている。未だに華ちゃんを探し続ける俺に、家族は呆れを通り越して畏怖の感情まで有るそうだ。あいつは狂った・・・と。

そんな中で、正之だけは初めからずっと同じ態度で居てくれた。

独りぼっちなんて嫌だもんな!と。

たまに公民館で神隠しの文献を漁っているのも知っている。

正之なりの方法なんだろう。


ぼんやりとあの頃を思い出していると

どうやら説明は終わったらしい。


「3年前ですか、確認ですが、こちらの世界は一年間は365度で、一度は24節ですか?話の感じからうちの時間に置き換えてみたんですが。時間という単位は同じだと思います」

「ああ、数字が同じだな、言い方の違い程度なのか?」

「そうですか、3年・・・

あの歪みは、時間軸の狂いが有った。

仮定として、未来に起こるかも知れない事を除くと、多分、ですがその華さん?は

我々の世界に居る可能性が有りますね

二人分の質量交換の代わりに時間軸が大幅にずれたと」


希望。


「そして、何より。

今思い出したのですが、最近の噂話の中にそれらしき物も有ったように思います」



これはなんだろう。奇跡なのか?

遺品どころか、本人が見つかるかも知れないだと。夢なのか?

これが夢なら醒めないでくれ。

もし、夢なら、醒めてしまったら。

心が持たない。きっと壊れてしまうだろう

それほどの希望と歓喜なのだから。








「なあ?凄く言いにくいんだけどよ

華が居た、異世界に居る。

ここまでは良いとして、どうやって戻って来るんだ?

それはミント達も同じ事なんだけどな」


「ん?来れたんなら、帰れるだろ?」


正之の言って居ることが理解出来ない。

周りを見ると、皆深刻な顔をしている。


え?無理なの?


「アニキ、ミント達は、自分の意思でここに来た訳じゃ無いだろ、それに華は頭は悪くないが、天才でも無い、異世界に居る事すら気が付か無いんじゃないか?場合によってはすでにモンスターに」


正之は悲痛な顔になる。


「多分ですが、華さんは生きています。

無事かどうかは言えませんが」


ミント君がそ言う。華ちゃんが生きている!

無事とは言えないって何だ?


「ミント君、どういう・・・・」


喜びと不安ごちゃ混ぜになる。


「アルト、覚えてる?王宮の地下の話。

あの噂」


王宮の地下?何でそんな所の噂なんだ?


「あ、ああ地下牢だったか?」


地下牢だと!あの子が牢屋に入っているだと!


「なにが有った!何で牢屋なんだ!!」


思わず叫んでしまう。中学生だぞ、何で牢屋に入っている!


「すみません、詳しくは解らないんです。

ただ、可能性としての推測なので」


「華の事は一度置いておこう、アニキ。

今はミント君達の事だ」


正之がそう言う。


「置いておくだと!ふざけるな!正之!!」


あの子が苦しんでいる。それを置いておくだと!


「アニキ、落ち着けって。

ミント君達が困ってる、頼む冷静になってくれ」


正之は、悲しそうな、哀れみの目でそう言った。


















次回更新も12時(正午)です。

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