14・希望
いつも読んで頂きありがとうございます
「アニキ、とりあえず落ち着け」
正之が何か言っている。
大丈夫、俺は落ち着いているさ。
何を言ってるんだコイツは。
「アニキ・・・コーヒー溢れそうだから座れよ」
言われて気が付く。
お盆にコーヒーを乗せたまま、小刻みに震えている自分が居た。偶然でかたずけるか?可能性は無いか?諦めに似た感情が
高ぶっていく。3年間、必死に手懸かりを探した。
何も無かった。何もだ!
あの日、何故家まで送らなかったのか。
毎日の様に後悔し続けた。
魂の抜けた様なご両親を見て、掛ける声が無かった。
あの子が、華ちゃんが生きて居るかも知れない。
そんな希望を前に、諦めかけていた。
そんな希望を!
「おい、しっかりしろ、アニキ!!」
手を捕まれて、今度こそお盆をテーブルに置き座る。
ミント君達は僕の豹変具合に驚いている
目を見開き、うっすら涙さえ浮かべている僕に。
「あの、マサヒロさん、大丈夫ですか?
僕、お気に障る事、言いましたか?」
戸惑いが痛いほど伝わる。
「いや、すまん。
アニキは3年間、一人の女の子を探し続けてるんだ。
3年前突然消えた女の子を。
なあ、アニキ。この二人に華の事を話しても良いか?それとも、自分で喋れるか?」
正之がそう聞いてくる。
あの日の事、あの後の事を。
冷静に伝えられるか?今の俺に。
感情が溢れ出しそうな俺に。
「頼む、今の俺じゃ上手く伝えられそうにない」
「解った、んじゃ俺から説明するわ
違ってたら訂正してくれ」
正之は華ちゃんの友達だった。
それなりの親交もあったろう。
あの日、取り乱した俺を落ち着かせ様としたのもコイツだ。その時に詳細も伝えている。未だに華ちゃんを探し続ける俺に、家族は呆れを通り越して畏怖の感情まで有るそうだ。あいつは狂った・・・と。
そんな中で、正之だけは初めからずっと同じ態度で居てくれた。
独りぼっちなんて嫌だもんな!と。
たまに公民館で神隠しの文献を漁っているのも知っている。
正之なりの方法なんだろう。
ぼんやりとあの頃を思い出していると
どうやら説明は終わったらしい。
「3年前ですか、確認ですが、こちらの世界は一年間は365度で、一度は24節ですか?話の感じからうちの時間に置き換えてみたんですが。時間という単位は同じだと思います」
「ああ、数字が同じだな、言い方の違い程度なのか?」
「そうですか、3年・・・
あの歪みは、時間軸の狂いが有った。
仮定として、未来に起こるかも知れない事を除くと、多分、ですがその華さん?は
我々の世界に居る可能性が有りますね
二人分の質量交換の代わりに時間軸が大幅にずれたと」
希望。
「そして、何より。
今思い出したのですが、最近の噂話の中にそれらしき物も有ったように思います」
これはなんだろう。奇跡なのか?
遺品どころか、本人が見つかるかも知れないだと。夢なのか?
これが夢なら醒めないでくれ。
もし、夢なら、醒めてしまったら。
心が持たない。きっと壊れてしまうだろう
それほどの希望と歓喜なのだから。
「なあ?凄く言いにくいんだけどよ
華が居た、異世界に居る。
ここまでは良いとして、どうやって戻って来るんだ?
それはミント達も同じ事なんだけどな」
「ん?来れたんなら、帰れるだろ?」
正之の言って居ることが理解出来ない。
周りを見ると、皆深刻な顔をしている。
え?無理なの?
「アニキ、ミント達は、自分の意思でここに来た訳じゃ無いだろ、それに華は頭は悪くないが、天才でも無い、異世界に居る事すら気が付か無いんじゃないか?場合によってはすでにモンスターに」
正之は悲痛な顔になる。
「多分ですが、華さんは生きています。
無事かどうかは言えませんが」
ミント君がそ言う。華ちゃんが生きている!
無事とは言えないって何だ?
「ミント君、どういう・・・・」
喜びと不安ごちゃ混ぜになる。
「アルト、覚えてる?王宮の地下の話。
あの噂」
王宮の地下?何でそんな所の噂なんだ?
「あ、ああ地下牢だったか?」
地下牢だと!あの子が牢屋に入っているだと!
「なにが有った!何で牢屋なんだ!!」
思わず叫んでしまう。中学生だぞ、何で牢屋に入っている!
「すみません、詳しくは解らないんです。
ただ、可能性としての推測なので」
「華の事は一度置いておこう、アニキ。
今はミント君達の事だ」
正之がそう言う。
「置いておくだと!ふざけるな!正之!!」
あの子が苦しんでいる。それを置いておくだと!
「アニキ、落ち着けって。
ミント君達が困ってる、頼む冷静になってくれ」
正之は、悲しそうな、哀れみの目でそう言った。
次回更新も12時(正午)です。