クルスside
あっ、ここは覗いちゃ駄目じゃねぇ?ユウリ。気になるのはわかるけどさ。
ユウリ「いや、だって、俺以外の男と二人っきりにさせるなんて…ましてや、さっきまで敵役だったんだよ?」
まぁ、でも、後で怒られるぞ?
ササメ「怒んないけど、何?嫉妬してくれてるの?」
ユウリ「…いや、そういうわけじゃ…」
ササメ「心配しなくても、わたしはユウリ一筋だよ?」
あっ、ユウリ、顔が真っ赤ですな?
ユウリ「解説。うるさい!」
ササメ「だから、ユウリも信じて大人しくしてるよね?」
ユウリ「…うん。」
ササメ「よしよし。」
ユウリは、うまく丸め込まれたようです。
「クルスさん、できれば2人きりでお話がしたいのですが、いいですか?」
雪女はまっすぐこちらを見て言った。
クルス「ああ?ここじゃ駄目なのか?」
面倒くさい。場所変えろってか?
ササメ「ええ、ここでは…使い魔として、色々確認したい事があるので。」
クルス「別に隠すような事もねえだろう?」
要は人に聴かれたくねぇ話ってか?こっちにそんなもんねぇよ。
ジョエル「そこは、行ってやんなよ!こっちはこっちで話があるしね。ただし、争うのは禁止だからね。」
クルス「へぃへぃ、命令とあらば、従いますよ。」
雪女は、ゆっくり立ち上がる。おいおい、ムチャし過ぎ、俺の腹パンチで内臓無事なハズねぇ。血ィ吐くぞ?連れは心配そうに手を放さない。そりゃ、顔色も、相当悪いしな。
雪女は連れに笑いかけ、
ササメ「ユウリ、大丈夫だから。もう争う気はないんですよね?」
それから、ジョエルに念押していた。
ジョエルは「ああ、ないね。」ってハッキリと返している。
雪女はゆっくり、歩き出すと、視線でついて来るように促してやがる。ったく、しゃーねーな。行かねぇとジョエルも、うるせぇか…。
ジョエルと赤髪男から少し離れると、雪女は視覚遮断と防音の結界を張り出した。
クルス「そんなんに魔力さくより、治療した方がいいんじゃねえの?」
残存魔力は殆どねぇし、回復なんてほとんどしてねぇ。なんでこんな事に力を使うのか。馬鹿じゃねえの。
治療も魔力足りてねえし、魔力を生命力の方から回してんのに何やってんだ?まぁ、治療のほうは何もしねぇよかマシか。
ササメ「心配ありがとう。治療もしてるから。…何から話そうか…。」
そう言って、座り込むと、ササメはポツポツと話し始めた。
ーそう、奴隷印についてなんだけど、私とユウリ、私が奴隷に落ちる前に、使い魔契約していた経緯があって、仮破棄の状態で奴隷になったから、使い魔契約をし直す事で奴隷印を外せたの。…だから、貴方のお姉さんには、この方法は使えないと思う。
それから、涙晶石を捌くツテがあるなら、これ、使って。他の同じように捕まってた者達を置いて、私だけ逃げて来たって罪悪感があって、その罪滅ぼしみたいなもんだから…。足りないだろうけど。
ササメはそう、言った。
クルス「お、おう。そうか…。」
なんだかやけに、親切すぎて気持ち悪い。さっきまで、殺し合いしてたというのに…。
なんだよ、急に押し黙って。もう用がねぇなら、かえるぞ?
ササメ「…私、後どれ位もつ?…」
クルス「…聴かれたくなかったのは、それか?」
…予想つけとくべきだったか…。ササメは静かに頷き、
ササメ「生命核の状態も情報も読み取れる魔法だったでしょ?」
龍の特殊魔法、魂縛、魂への直接攻撃を可能とするため、防御不能の技。魂に直接アクセスするから情報が色々わかる。詠唱が長いけどな。
その質問に答える前に、俺は納得できない点を問い質す。
クルス「…そりゃ、連れの奴にも知る権利あるんじゃねーの?」
ササメ「種族的に長生きだから、気にするほどでもないかもしれないでしょ?それに、その時が来るなら、その前に契約解除して貰って、ユウリと離れて暮らすわ。」
まぁ、それぞれ考え方あるわな。知らせずに、去るのか?あの調子だったから、最後まで一緒に過ごしたいタイプかと思ったけど。
まぁ、…俺には関係ないことか。
クルス「残念ながら、読み取んのはあんまり得意じゃなくてな。…ただ、核がもうズタボロで、いつ壊れてもおかしかねぇ。ムチャしなくて3年、長くて5年持ちゃいい方だろ。たぶん。…まぁ、もしかしたら、もうちょい持つかもしれねえが…。」
ササメは静かに聴いていた。たぶん、長くねえのはわかってたぽい。
奴隷にされると、魔物核が酷使される。言う事効かすため、甚振るために。俺の姉も…。手に力が入る。
クルス「わ、悪かったな。その、金のためとはいえ、あんな魔法かけて…。」
気がつくと、謝る気なかったってぇのにな。ポロリと言葉にでちまった。
雪女は驚いたあと、
ササメ「ううん、元々ズタボロだったし、たいして変わらないわ。それに私も、貴方の生命力削ったし。お互い様よ。」
ササメはそう、笑いかけてくる。その言葉でさっきかけられた生命力吸収を思い出した。
クルス「おう、アレはびびったぜ。雪女ん中でも使える奴少ねーって長老龍から聴いてたのに、まさか、たった50巡りのひよっこが使えるとは思ってなかったからな!龍を殺せる技の1つだぜ。アレ!」
本気で、スゲェって思ったからな。話に聴いてた技。こんな使い手が居て、戦えるって事に、ついてるってな。
クルス「今度は万全の状態で戦いてえよ!」
本気でワクワクしてたんだからよ。
ササメは困ったように笑いながら
ササメ「私は、もう勘弁よ!…それに、情報を読み取るの得意じゃないってのは嘘ね。…戦闘狂なのに、優しいって変な人ね。クスクス」
クルス「あ、いや、…チッ!まぁ、人じゃねぇしな。」
情報をぼかして伝えた事がバレた。あ~、なんだよ!恥ずいじゃねえか…。
ササメ「それに、、ひよっこって、貴方もそうじゃないの?龍にしたらだけど。クスクス」
クルス「ほざけ!これでも300巡りしとるわ!」
ひよっこって、コイツに言われたくねぇよ。くそっ笑いやがって。
ササメ「ほら、やっぱり。クスクス。…話に聴いてた龍って長生きな分、感情の揺れが少ないって事だったのに、クルスさん、感情豊かだもん。」
あっ、やっぱり、笑ったために、血ィ吐きやがった。手で拭ってやがる。ったく。
横向いて見えてなかったフリをする。
ササメ「使い魔契約で魂の制約、ジョエルさんから使われた事ある?」
クルス「ある。あいつ、ちょっとしたことでも、つかいやがる。ペットかなんかと勘違いしてやがんだよ。まぁ、基本は、雷と締め技を使うけどな。」
マジであの電撃はマズイだろ!寿命縮んでんじゃねえの?ったく。鱗で魔法効きにくいのに、この俺にダメージ与えるとか、どんだけっつー話だよな。取引中は、口出すと後でヒス起こすわ、広範囲魔法で言われた敵倒すと、荷物は?とか一緒に行った連中は?と、細けえ事抜かすし。生きてんだから問題ねぇだろうってんだ。怪我くらいでまったくガタガタ抜かしやがって。ったく。
ササメ「普通はあるのね。ユウリ、そういうので縛ったことがなくて…。」
ササメは、少し寂しそうに微笑む。
クルス「ああ、あの調子じゃ、絶対に使わねぇだろな…。まるで壊れもん扱うみたいにしてたからな。」
まぁ、事実、ほぼ壊れてるし、その扱い間違ってねぇだろよ。
それに、何を気にする必要がある?縛らねぇなら、それに越したことはーねぇだろ。
ササメ「…今回の襲撃だって、ユウリ、熱なかったら、絶対に一人で黙って対処してた。」
なんでか、ササメは少し怒っていた。
クルス「そんだけ大事にされてんだからいいじゃねぇか。」
大体、そんな無茶ばっかする奴だったら心配するだろしな。
ササメ「普通、自分の身が危なくなったら使い魔呼ぶよねぇ?なのに、ユウリ…呼ばなかったの。あの状況で…。」
やっぱ、怒ってるだろ?これ…。
クルス「いや、だって、狙いお前だから。」
呆れながら言う。
だって、狙われてる奴を、自分が危険な時に、尚更呼ばねぇだろ。ましてや、大事な奴なら。
ササメ「クルスなら、自分の契約者が、危機に陥った時に、契約者に呼ばれなきゃ、どう思う?!!」
傷に響くんじゃねぇ?そんな怒ったら…。
クルス「…いや、そりゃあ、どうして呼ばねェんだ、このクソババア!くらいは思うだろうな。」
…結局、そのあと、ユウリに対する愚痴が延々と続き、俺は精神的にかなりのダメージを受けた…。やっぱ女って怖ーよ!!
ササメ「スッキリした~。」
クルスさん、なんか、グッタリしとりますけど?
ササメ「いやぁ、すごく助かりました。だって、心配してくれての事だって、判ってるから、ユウリに文句言えないもん。」
誰かにぶつけたかったんですね…。
ササメ「そう!クルスさん、聞いてくれてありがとー!!」
クルス「………。」
クルスは屍のようだ。
クルス「誰が屍だ!誰が~!!」