ユウリside
ディアス師匠が僕に、Sランクになった時、色々教えてくれた。お祝いの餞別代わりだって。ササメの現在いるであろう場所、それから入るための伝手など、計画を練ってくれていた。一応、3パターンくらい。それ以外で何か不足があれば自分で対処しろって。もう一人前なんだからなって。ササメちゃんとの契約破棄がちゃんと済んでいないおかげで、奴隷印を消す事が出来る事も教えて貰った。…あと、ササメがいつ死んでもおかしくない環境に居るから会ったときに、どんな状態であろうと動揺しないように、とも。
「ユウリも頑張ったし、ササメも3年生きて耐え抜いた。だから、絶対に成功させろよ。あと、死ぬな。それだけだ。じゃあな。」
って言って、ディアス師匠は去っていった。
僕は、ジュリにどう言うか迷っていた。だって一緒に行きたいと言いかねなかったから。正直な所、もう、ジュリでは足手まといになる。まだCランクだった。治癒の腕はかなり上がったけど…戦闘要員としては、ついていけない。ジュリは属性がないために、ほとんど魔法が使えなかった。せめて、風飛びが出来ないと連れて行けないから、黙っている事にした。
結局、いつものように、家をしばらく開けるからって言ってから、出てきた。でも、ジュリは解っていたみたいで、「ちゃんと、2人とも無事じゃなきゃ許さないから。それと、回復魔法のおかげで、ギルドに就職出来そうだから、もう、仕送りしなくていいからね。…でも手紙はちゃんとちょうだい。心配なんだから。」って涙目で言われた。
大きな街まで行って、転移陣で王都に飛んで、紹介状を見ながら、見間違いじゃないかと、何度か見たんだけど、やっぱりここ。ディアス師匠の伝手は盗賊ギルドだった。
「ディアス師匠、そういうの嫌いそうなのに…。」
後ろから誰か来ている。チラリと確認すると、刺激の強い格好をした成熟した大人の女性が、
「変な想像しないでくれないかしら。ダンジョンの宝箱開ける役に、パーティとか組んだり普通にするのよ。」
と言ってから、後ろから、紹介状をすっと取られる。さっきの独り言を聴かれていたようだ。
「ああ、あの人の、ねぇ~。フフ、ギルドには属させずに技術だけ教えろなんて都合のいい話だけど、まぁ、あの人には命救われてるしねぇ。牢屋の鍵だけで良いのね。」
その場で待つように言ってから、女性は盗賊ギルドに入って行く。女性は、ドアを閉める前に、紹介状を返して流し目でこちらを見て、
「一応、ギルドマスターに話通さないといけないからね。鍵の識別だけなら、鑑定持ちでも出来る技術だから、そこまで重要じゃないし、すぐ聞いてくるわ。」
と、ドアを閉めた。
そのあと、目隠しをされて部屋まで通され、その部屋で、目隠しを取って、一晩中、その妖艶な、お姉さん?おばさん?に手取り足取り、教え込まれて、再び、目隠しをされて、放り出された。
なんとか、技術は物にしたのだと思いたい。
ってか、からかってたよ、あの人。なんで選びとる鍵を全て際どい場所に入れ込んでるのか。しかも、「あれぇ、そっちでいいのぉ?」ってチラチラ自分の胸の谷間に挟んでる鍵を見て、誘ってくるし。その手には乗るか!マトモに教えて欲しかった。後で、「あはは、こっちの方が物覚え良くなるでしょう?」って。「なるか!」って突っ込んじゃったよ。
不機嫌に笑いながら「まだまだ坊やね」って言われたけど。お礼を言うと、「ディアスにいいなよ」って言われた。で、ドアを閉められた。
とりあえず、夜に侵入する予定なので、時間まで宿で寝る事にした。
旅の疲れたところで、侵入の準備と確認を何度もした。ディアス師匠は何処から手に入れたのか、警備の状況や、人数、鍵と牢屋がある場所全て記入してくれていた。ここまでしてもらって、失敗したら、ただの馬鹿だ。
侵入するのに、風魔法だけの風飛びをしないと目立つので、ゆっくりしかできなかったが、上の窓から侵入した。鍵を全て持っていき、途中で警備に出くわしたので、気づく前に気絶させた。すっと近くのドアに放り込み、そのまま牢に向かう。
パターン2だ。パターン1は見つからずにだった。1番有力で楽だったのだが、仕方ない。牢屋についてササメちゃんを探した。此処に居るほとんどの人が雪女だった。酷い状態で寝ている人も多く、気持ちが沈んでいく。この人達は見捨てて行くのだから。なんとなく、こっちだろうと通路を曲がり進むと、ササメちゃんがいた。着物もボロボロに焼け焦げ、身体自体に怪我はないものの、すごく弱っていた。鍵を確認してすぐに開けると、心配で、すぐに状態の確認に入った。もう一人雪女がいた。が構っていられなかった。すぐに、奴隷印を消して、魔力を補充して、その間に、もう一人の雪女が話しかけてきた。さっきまで治療してくれていた雪女。この人には、僕の事を色々、話していたみたいだった。当たり障りなく会話して、ササメちゃんを起こす。
ササメちゃんは、僕の事、すぐに判るだろうか。不安になっていた。でも、ふにぁってとても嬉しそうに笑いかけて、頬に触れて、「ユウリ」って!もう、理性が吹っ飛びそうだったんだ。ササメちゃんは前より痩せていたぶん、可愛さの中に綺麗さが加味されていて、しかも無意識に信頼しきったあの笑顔。この後、しないといけない事が沢山あるので手を止めてしまったのは少しの間だけど。他に雪女の女がいて良かった。ノロけんなって突っ込みのおかげで、少し冷静になれたから。
パターン2はバレるの前提で逃げないといけないから、ササメちゃんも頑張って走ってもらう必要があった。両手塞がってると、対処出来ないから。ホントは、お姫様抱っこして運び出したかったけど…。
ってか、パターン3に至っては、自分の使い魔って事主張して通すように要求の上、力のゴリ押しって、それ作戦?って感じだったけど。パターン1でかなり詳細に詰めてあったから、多分他は考えるなって事だったんだろね…。無事に脱出できて良かった。ってか、パターン3はピンチの時以外開くなって、これ、ピンチの時に開いてたら、アウトじゃねぇ…?ディアス師匠それなら、パターン2まででいいですって。
でも、感謝してます。俺だけじゃ、絶対に出来ませんでしたから。力も、情報も、技術も、人脈も、袖の下も、何もかも足りないものだらけ。いつか、恩返しをしたい。要らねぇとか、俺がしたかったからしただけだって言われそうだけど。
っていうか、ディアスさんって太っ腹ですね。全て手配しておくなんて。
ディアス「そんなんじゃねぇよ。ほっとくと、ユウリ、突っ走っちまいそうだろ。死んじまったら、俺のした事全部水の泡になっちまうだろ。」
あ〜、確かにね。
ディアス「それに、レンの野郎のせいだしな…。」
あれぇ、負い目に感じてたんだ…。
ユウリ「ディアス師匠!そんな事気にしなくていいです!どうせ、他の奴が来てましたから。僕の為に色々教えてくれて有難うございます。」
ディアス「そんなんじゃ、ってお前、冒険者続けんなら、僕、は辞めとけっつたろ!舐められるから。俺って言っとけ。あと、もう少し柄悪い口調でな。」
ユウリはまだまだ半人前のようです。
ユウリ「どうせ俺はまだまだ半人前デスヨーだ。わかってるもん。」
あっ、ユウリが拗ねた。てか、男がもんってやめれ!気持ち悪い!
ユウリ「…結構酷くねぇ、解説さん」