ユキハside
ササメが此処に来てから、3冬越えようとしていた。いつものように、グッタリして意識のない状態で戻ってきてたササメに、魔力の補充をしている時だった。
誰かが、忍び込んで来た。闇商人の仲間ではない事は確かだ。闇商人を引き連れずに1人で牢屋に来たのだから。頭からすっぽり外套を被り、素早く牢屋を1つずつ確認している。闇商人と一緒に来たのだったら、商品を選別しているのだろうと思うところだったが…。
見張りはどうしたのだろう。見つかれば、ただでは済まないだろう。身のこなしから、その人物が、そこそこ強いんだろう事は想像がついたが…。その人物が、コチラをみてすぐに向かって来た。その人物は素早く鍵をあけて、小声で「ササメちゃん!!」と近寄る。私は、ササメを抱えて少し後ずさった。あまりの勢いで近寄られたので、ビックリしたから。
ユキハ「アンタ、何者?ササメの知り合い?」
こんなとこで、警戒したって仕方ないんだけど。
声からして男だろう。15、6歳くらいだろうか。
ユウリ「ただの冒険者で、今は泥棒ですよ。もっとも、奪われた俺の大切な人を取り返しに来ただけですけどね。…騒がないでいてくれると助かります。」
会話をしながらも、素早くササメをたぐり寄せ、状態を確認してから、紙を取り出して何かを唱えていく。そして、奴隷印が消え、使い魔契約印が強く浮かび上がる。
使い魔契約の詠唱が弾かれずに二重の奴隷印が消えて、仮破棄状態だった使い魔契約が復活した!?
ユキハ「あ、アンタ、ササメの元契約相手!?…でも、弱いって聞いてたんだけどね…。」
その間も、その人物は、魔力補給と、回復魔法をかけている。
ユウリ「あ~…あの頃は、守って貰ってましたからね…。遅くなったけど、約束を守りに来たんですよ。ササメを助けてくれて有難うございます。ですが…すいませんがアナタを助けること事はできません。」
その人物は申し訳なさそうに、けれど、キッパリと顔を私に向けて言った。
ユキハ「ハハッ!ああ、奴隷印が消せないからね。心配しなくても、人間に助けてもらおう何て思ってないさ。」
アタイを何だと思ってんだ、とこっちも、気遣われない様に強気で言い切った。何より、人間など、元から信用していない。こんな目に合わせているのは人間なのだから。
ユウリ「ササメちゃん、ササメちゃん、起きて !」
ササメ「…ぅぅ…ん……ユウリ……。」
ササメはうっすらと目を開けて、ふわりと、とても嬉しそうに笑って、頬に手を伸ばしゆっくりと手を下ろして、そのまま目を閉じた。ササメが目を開けて、動いた時、その人物は、ホッとしているようだった。ササメの手が頬に触れた時に、フードがパサりと後ろに下がり、私は、息を呑んだ。もちろん、ササメの信頼しきったその笑顔に。それから、赤髪の少年?青年?の真っ赤になった顔に。少し涙ぐんでいた、ソイツの顔に。ソイツは、その笑顔は反則だ、と小声で呟いていた。おやまぁ、ノロケんならよそでしとくれよって突っ込んどいたが。アタイがどうして気ィ使わなきゃなんねぇのさ。
ユウリ「ササメちゃん、寝ないで、起きて。今から、ここを出るから。」
ササメは、ゆっくりと身体を起こしながら、
「……ユ…ウリ?っユウリ!どうして!…あっ、ユウリ、ここにいちゃダメ!逃げて…お願い。」
最初は確認するように、次第に不安な声で訴える。
ユウリ「うん、逃げよう。一緒に。」
ユウリって奴は落ち着いて、話している。
ササメ「でも!ユウ…
ソイツ(ユウリ)はササメを抱きしめていた。ササメはビックリしているようだ。耳も赤くなってきた。
ユウリ「大丈夫!約束しただろ!僕はSランクになったし、あの頃とは違う。」
ササメは驚いていた「え、Sランク!?…ユウリずいぶん無茶したんでしょう。」って、困った様に、でも嬉しそうに笑った。
ユウリ「だから、俺に君を守らせてくれる約束、条件は満たしたと……」
ユウリって奴は、そこで言葉を切って、上の方を見て、舌打ちした。
ユキハは上の方が騒がしくなった事に気づいた。
ユキハ「もう、時間がないみたいだね。…さぁ、もう行きな!」
ササメ「っでも、ユキハ…」
私は、とても腹が立った。こんな時まで、と
ユキハ「アタイらが逃げれないのはアンタだってわかってるだろ!アンタだけでも逃げんだよ。おい!そこのアンタ、ササメをさっさと連れていきな!」
同情なんて、まっぴらなんだよ。そんなんで、お互い不幸になるのは間違ってるんだ。
ユウリ「ああ、すまない!」
ユウリという青年がササメを引っ張って行く。
ササメ「ごめん…ごめんなさい…。」
そう言うと、もう、振り返らずに一緒に逃げていった。
ユキハ「ササメ、アンタだけでも幸せになんだよ…。」
消えていった通路に向かって呟いた。