レンside
街が見えてくる。これで、転移陣に乗って王都に飛べば引渡しか。魔力の精密操作は間に合わなかったか。
「…もう少し、早く魔力吸収出来たらいいんだが…。」
ササメ「いえ、お教えてくれて、ありがとうございます。」
「…明日、王都につく。そこで、依頼人に引き渡して終わりだ。」
まあ、形にはなったし、習得速度は遅くねぇ。元々無理があったしな。
この街は鉱石発掘で栄え、掘られた壁の中に家が連なり、採光のために切り立った壁のあちこちに窓穴があいている。
んでその崖の街の手前に市場が立ち、その周りを防壁がぐるっと覆っている。
「わぁ、すごい、せり上がった壁いっぱいに穴がある。それにすごい壁。ここが王都なの?」
「んな訳あるか!!」
その景色を、雪女はキラキラした目で見ていたので、思いっきり突っ込んだ。
「いいか?ここは、まだ辺境の街だ。転移陣があるから、それで行く。ほら、それで頭から隠せ」
大きな布を雪女に投げつける。
「でも、こんなに大きいし、人もいっぱい並んで…あれ?結界張られてない?」
雪女は、言われたように、頭からすっぽりかぶりながら首を傾げてきく。
「街ともなると、汎用結界装置じゃ覆えないからな。そのために街の外郭に壁を築いている。」
開拓村ぐらいだろ。あんな事してんのは。普通は、結界張るのは、門の所とかの出入り口のみだ。
「何だ?もしかして、街見るの初めてか?まぁ、地中に街があるのは珍しいけど、結界装置で覆ってないのとか普通だろ?」
あの規模だと魔核の消費半端ないからな。開拓村だから、特別手当金で、賄ってるか、専属魔法士がいるってとこだろ。壁ねえからな。ってか、雪女なら、結構知ってるかと思ったが…。
「ふうん。地中の街…かぁ。…じゃあ、魔物でも、壁を越えて遊べるのかな…?」
いや、防壁の意味ないからな!それ!
「そんな訳あるか!!…お前、バカ?普通の魔物は早々壁を超えれないからな?…それと、人型の魔物なら風飛びで、人混みに紛れるのは可能かもしれんが、警邏ですぐに見つかる。魔物ブザーで感知されるからな。すぐ、捕獲か討伐されるぞ。」
まったく!風飛びが出来て、人型の魔物なんて高ランクに限られるし、そんな奴らは、わざわざ危険を犯して遊びにはこんだろが!
「ちなみに、使い魔や奴隷なら可能たが、通るだけで街の中は見て回らんぞ。」
興味津々のようだが、こっちも時間がないからな!!
「…あ、そうですよね…。でも、中通るんですよね?」
雪女はちょっと、シュンとしつつ訊く。
「悪いが、時間がないからな…。」
それに、面倒事も御免だしな。もう、とうに2週間は過ぎ、期限の3週間まで残り少ない。これは依頼人の方ではなく、俺の方の都合だが。
「そう。残念ね。」
と、さっきのが演技だったかのように、雪女は、感情を込めずに言う。視線は目の前の街にくぎづけのまま。
「せめて、景色をしっかり見とこう。フフっ冒険者してたから、こういうの、してみたかったの。知らない所、沢山行って…。でも、きっと、こういう事でも無かったら、きっと、この景色も見ることなかったんだろうなぁ。…だから、ありがとう。」
馬車ごと列に並んで街に入る順番を待つ。
「奴隷として売られるだけだぞ?」
街の景観に感動している雪女に呆れる。これでお礼を言われるとか、意味わからん。
「あら、奴隷として扱うなら、箱の中に閉じ込めるなり、弱ってた時のように、簀巻きのまま転がしとく事だって出来たはずなのに、しなかったでしょ?まあ、売られるんだろうけど。」
と、にっこり笑ってこちらの顔を観察する雪女。
「ハッ、箱を用意するのも、縛るのも面倒だっただけだ。どうせ逃げられんしな。」
雪女の考えを、鼻で笑って、一蹴する。
「でも、普通は縛るくらいはするものでしょ?不意をつかれる可能性もあるんだから。」
「お前に、出し抜かれるほどマヌケでも、弱くも無いがな。まあ、明日は手を縛るがな。」
まぁ、確かに、奴隷印の主が死ねば、奴隷印は消える。
けど、直接手を下せねぇから、馬車ごと転落とか、他の強い魔物に殺らせるとか、そういうのだ。あとは、雪女の自殺か。ないだろな、コイツは。図太いし。ないない。
依頼主に渡す時は、さすがに縛るがな。
順番がきて、街の中に入り、転移陣の列に並び直す。書類審査をして、王都に跳ぶのは明日。受付の控えを受け取り、街の外へ。
「ええっ、どうして街の外へ?宿に泊まったりは?」
びっくりした雪女が聞いてくる。俺は呆れて、
「お前…、魔物調達どうするんだ?食事要らねぇつーんならいいんだが?」
と言うと、
「要ります!!すごく、要ります!ごめんなさい!」
慌てて、答えている。やっぱ、馬鹿だろ!気づけよ!
「つーことで、野宿な。」
「ええっ、せめてベッド!使ってみたかったのに…」
夜間は出入り口が閉じるし、食事は他の奴に見られるのも厄介だからなぁ…。
「あきらめろ。雪女を連れてるのがバレると、色々面倒なんでな。てか、お前、村で一度使ってるからな。気絶中に。」
「そんなの、覚えてないから意味ないもん…。」
雪女はシュンとして、拗ねた。