レンside
ディアスと別れた後で、宿に戻って、わかった事を整理していた。ディアスは、お人好しだが、そこまでお節介じゃない。大人なら、忠告して後はほっておく。どうせ、すぐ調べればバレるような情報だ。かばっても仕方が無い。
わざわざ、ベラベラ話す必要もないが、あの時、ディアスは不自然に警戒し、一切の情報を出さなかった。赤髪であること、Fランクである事を。
その事で、自分が目星をつけた奴が、契約相手で間違いない事を確信した。相手は、あの時すれ違った子供だって。雪女の魔核に触れて魔力を注入していたのをやめ、寝ることにした。雪女の容態は、かなり手を加えているにもかかわらず、かなり悪いままだった。
翌日、あの子供を殺してから、街を出よう。雪女を引き渡すまでは、どうしても、生かしておかなければ。そこまで考えてから眠りに落ちた。
朝、早くに起きると、冒険者ギルドで村を出る手続きをしてから、朝食をとり、必要な準備を整える。宿に戻って、出る準備をしておいておく。顔が分からないようフードのついた外套を深く被ると、朝市の路地横に身を隠してガキが来んのを待ってた。ディアスの奴が出て来さえしなければ、誰にも気づかれずに殺る自信があった。問題は、ディアスがソイツを守るために、動くかもしれねぇって事。
見つけた!
ガキが路地に近づいて来る。ディアスも居ねえ。あそこまできたら突っ切る。動いた時、ディアスが横から凄い勢いで人混みを縫って、ガキの前に飛び出して来た。俺は、まだ、犯罪者として指名手配を受けるわけにはいかなかったので、すぐにその場をひいた。宿に戻って、雪女と荷物を持って村の出入口を使わずに出た。外からの進入は結界が張ってあって出入り口からしか無理だが、出るときは何処からでも出来る。
側の森に、置いてきた馬車と馬の所に行って、馬の状態を調べてから、雪女を馬車の上の馬に結わえて、なるべく負担がかかりにくい速度で、そこから離れた。 状態のあまり良くない雪女の為に、スピードはそんなにだせず、何度か様子を診るために休憩をとった。雪女は、奴隷印が中々馴染まず、意識朦朧としながら、時々うわごとを言っている。いや、うわごとが出るまで、快復はしてきたってとこだろうか。まだ、予断を許さない状態だが。そうこうして、4〜5日たち、意識が戻らなかったので、本格的にまずいかと思った頃、ようやく雪女の意識が戻ってきた。
何とかなった事にホッとしながら、目を覚ました雪女の前に、生きたまま捕らえておいた魔物を置いて、食事が出来る様にした。が、何を思ったのか、その魔物を凍らせようとして、奴隷印の攻撃魔法禁止に引っかかって、すぐにダウンした。すぐに、雪女のケアをして魔物に対する攻撃魔法を許可し、様子を見ることにした。意識が戻った時に食事を摂るように言うと、やはり、凍らせてから、魔力を吸収していた。2、3日そうしていると、意識が戻ってきている時間が増えてきた。わざと、魔物に襲われるように工夫をして、相当数の魔物を生け捕りにして行くので、余り進めなかった。この雪女、魔力吸収の問題もあるが、大食らいだった。意識が戻る度に、「お腹すいた」って言いやがる。朝がた、Bランクの影狼を6匹やったばかりで、昼になるにはまだ、時間もある時にまた、「お腹すいた」って。「おい!さっき、吸収していただろ?」意識無かった分、食べてなかったから、そのせいかとも思ったのだが、「全然、足りない…。」普段どれだけ食べてたのか聞いてみると、AとかBランクの獲物を夏場は30匹前後、1度に食べていたらしい。なんでも、夏場に結界の外を彷徨くのに、それぐらいしないとキツイらしい。
…フッ、それが事実なら、あの村、早々に滅びるな…。大食らいの雪女が居なくなったんだから…。
というか、おかしくないか?もっと、怯えてても可笑しくないのだが、神経が図太いのか…遠慮がないのか…。まだ、本調子ではないので、しんどそうではあるが…。
夜、馬車を停めて、焚き火をして食事をしていると、雪女が馬車の縁に腰掛ける。
ササメ「そういえば、貴方の名前なんていうの?」
「…知ってどうする?」
ササメ「別に…あなた、そこまで悪い人じゃなさそうだから。…わたし、ササメっていうの。」
「…お前、俺が憎くないのか?」
ササメ「…何も知らなければ、憎んでたかも。」
ちゃんちゃら可笑しい。何も知らなければ?
「ハッ、お前が俺の何を知ってるって?」
俺に関する情報なんて何も与えちゃいないし、ハッタリにしたってひどいもんだ。
ササメ「…妹いるでしょ?なんとなくだけど。…ああ、けど、そうゆう事じゃなくて、…あなたの事じゃなくて、…数日前、冒険者のひとりに親切な人がいて、忠告を受けたのよ。…わたしが、お金になるから、狙われるから、逃げろって…。でも、自分は大丈夫だろうって高括って逃げなかった…。」
最初は、少しムっとした声で言った後、首を振り、少し落ち込んだ声でそういった。
「ディアスか…。」
幼馴染みの親友の事、いや、だった奴の事を思い出し、呟いた。
ササメ「っ、知ってるの!?」
「…何度も依頼を一緒にこなしたからな。」
もう、幼馴染みではあっても、親友には戻れないだろうな。
ササメ「そう。…なら、あなたが来ること、わかってたのかな?」
「いや、…村ん中で仲違いした…。」
お互い、びっくりしたよ。あの糞鳥め!ここであったら焼き鳥にしてやる!!まぁ、ディアスが笑って話しかけてくれたのは、アレのお陰だけど。ハァ…。
ササメ「…そう。なら、ごめんなさい?かしら…。」
それ、意味あるのか?ってか、魔物つってもこんだけ感情が人に近い奴に対して悪い事してるっつー自覚はあるんだよ。やめてくれ。
「…別に…アンタに謝られる筋合いもない。…」
ササメ「…そう。」