ディアスside③
「ギイィィィィィィィィィィィン」
剣とナイフが大きな音をたてる。市場の人達の注目が集まる。
ディアス「もう注目されてる。此処では無理だぞ。レン。」
レン「お前が守りについていては、どうやっても無理だな。」
レンはナイフをしまうと、人混みのなかに潜り込み居なくなる。俺はどっちに怒ってるのかわからなかった。たぶん、レンとユウリ、両方にだろう。落ち着かせるために、ゆっくり剣をしまうと、ユウリを詰所まで引っ張っていく。ユウリは戸惑った声で、「あの、ディアスさん??」と話しかけてくるが「黙って歩け。」と、急がせた。
詰所につくと、俺はしゃがんで、ユウリの胸元の服を掴む。
ディアス「お前、契約破棄したハズだな?」
ユウリ「はい、ここの詰所で破棄しました。」
ユウリは戸惑いながら答えている。俺は睨みつけながら質問を続ける。
ディアス「呪文いじったか?」
ユウリ「いえ!いじるなんて、そんな事出来ません!」
ユウリは、びっくりして慌てて否定している。
エトセ「俺らの前でしてんだし、そんな事させねえよ!」
どこで、不備があった?契約破棄したハズがされてないなんて…。考えながら質問をしていく。
ディアス「なら、契約した時はどこで?その時の呪文は?」
ユウリ「それも、ここのはずで、呪文は知らないです。」
ディアス「知らない?」
奥からドランが出てきた。エトセが、「おい、寝なくて大丈夫か?」「ああ、これが終わったら寝るさ。」と会話した後、
ドラン「ユウリ坊は死にかけて意識無かったから、ササメが全て仕切って契約をした。呪文は何の問題もねぇよ。」
ディアス「一方行だと…。なんで、そんな事…雪女にとっちゃリスクしかねぇのに…。ああ、でも納得だな。だから、契約破棄が成立しなかったのか。」
ドラン「ああ、ユウリ坊を助けるためだけに、契約したのが発端だからな。」
ササメにとって、ユウリはそんだけ大事な存在だって事か。双方行の契約と違って、一方行の契約を完全に破棄するには、心の繋がりを断ち切る必要があるらしい。双方向は契約だが、一方行はただの献身だから、実際には契約と違うので、書類と呪文で破棄できるかどうかは、当人同士の気持ちがどれだけ離れているかにかかっているそうだ。魔物にとっちゃ、リスクしかねぇし、ほとんどされないから、かなり珍しい。ただ、契約破棄が完全に成立しない事が多いので、原因究明のために研究がよくされて、本にもされていたりする。
ユウリ「あの、いったい、どうしたんです?」
少年は、何も知らない。ササメが捕まった事も。さっき自分が殺されかけた事さえ多分、気づいてない。
ディアス「…ああ。ササメが捕まったよ。昨日。んで、今日は、お前が、殺されかけた。」
どちらにしろ、告げなけりゃいけないことだ。ユウリが愕然としてきく。
ユウリ「いつ?」
ディアス「さっき、男が襲ってきてただろ。大きな音をたて…」
俺の言葉を遮って、ユウリが詰め寄る。
ユウリ「僕の方じゃなく、ササメちゃんの方!!」
ディアス「お前が昨日湖に行った、その前にだな。魔力暴走で山全体が冷えてたからな。」
ユウリ「どうして!!教えてくれなかったんですか!あの時、ディアスさん、僕とあってましたし、その時に気づいてたんじゃ…。」
ディアス「ふざけんな!!教えたからってどうなるもんでもないだろ!魔物もまともに対処出来ねぇ奴が何するつーんだ!!」
腕でユウリを詰所の壁に叩きつけた。ちょっと、いや、かなりイラついているみたいだな、俺は。
ユウリ「ッげほっ…ササメちゃん…何処です?」
ユウリが、俺に掴みかかろうとしたがドランに襟首の後ろを掴まれる。
ドラン「やめとけ。お前じゃ実力不足も甚だしい。追いかけたところで、殺されて終わりだ。むしろ、自分が生き残るために、ここで訓練積むんだな。」
ディアス「今すぐ追いかけるなら、此処で俺がお前を、殺す。」
死にかけてるササメの前でユウリが殺されるだけ。しかも、レンが殺すのは耐え難かった。
凄むと、ユウリは力なく項垂れる。
ユウリ「ササメちゃんは、どうなるんです?」
ユウリは、下を向き、か細い声できく。拳を握り締め震えている。
ディアス「どうも。捕まって、一生檻の中ってとこか。」
拷問されて、涙を搾り取られるか、貴族の見世物、慰み物ってところだろうよ。生き残っていたらな。
ユウリ「…なんとか出来ないんですか?僕は…そんなの嫌です。…このまま、何も出来ないなんて…。」
ディアス「…こーなるのが嫌だから、集落ごと逃げろっつっといたはずなんだが…。法律上、魔物の奴隷は合法だし。取り返すにしても、買い戻すにしても坊主にその力も無し。今の状態で、ササメが戻って来たとしても、お前に守るだけの力も無い。」
ユウリ「…強くなれば、ササメちゃんを助けられますか?」
その頃には、死んでる可能性の方が高いがな。
ディアス「…とりあえず、ユウリが殺されないために、最低Aランカーになってもらわんとな。契約破棄が完全に出来てないから、殺し屋が来るかもしれんし…俺がこの村に居るのが3年先ぐらいまでだから、それまでにだな。」
ドラン「雪女が居なくなっちまったから、強い魔物も増えるしな。これからは、BCランクの魔物がメインだろ。この山。」
エトセ、ノルガ「え!!俺ら、そんなん出てきたら対処出来ねぇぞ。」
ドラン「ああ、お前らも修行だな。どうせ、立ってるだけなんだ。空いてる時間に対戦して鍛えるか。寝る時間削れよ?」
エトセ、ノルガ「!!…これからの事考えれば…仕方ねぇか…。ドラン、よろしく頼む。」
泣く泣く頼むBランクのエトセ、Cランクのノルガ。
ユウリ「僕もお願いします!!一刻も早く強くなってササメちゃんを迎えにいきたいんです。」
ディアス「雪女を迎えに行くなら、Sランカー以上じゃねぇと、死ぬだけだ。情報収集をしといてやるけど、Sランカーになるまでは教えねぇ。とりあえず、3年でA、目指して貰う。それ以外の時間は、俺が鍛えるからな。お前1人じゃ依頼も、こなせねえだろうから、俺が受けた依頼について来いよ。」
じゃねぇと、依頼中に魔物に殺されました、じゃ、シャレになんねえからな。いや、マジで!!やめて!