レンside②
さて、向かうとしたら、広大な山の連なるこっちの方だろうな。開拓村の周辺地図を広げて見て覚え、しまうと、山の方へ向かって、気配探索しながら進み出す。
幼馴染みのやつが地図見るの苦手だったなぁと思い出した。風飛びが得意で、「地図なんか見なくたって空から見りゃいいじゃねぇか!一発でわかるって。」って言って、魔獣の森で、飛び上がって
「う、ウソっ!ちょっ!…まっ…あぁぁ~」
赤魔鳥の群れに襲われてたっけ。まぁ、今頃どこほっつき歩いてるんだか、な。まぁ、あいつのお陰で、風飛び得意だけど、な。
おっ、誰か探索かけてる。これは、ついてるかもな。ちょうど湖のあたり。同業なら、情報を拝借できるし、目標の可能性もある。すぐに探索を消し、気配を断つと、風飛びで回り込み、探索かけてた奴の後ろ辺りに出る。「ビンゴ!!」思わず、小さな声で言ってしまった。こんなに早く見つかるなんてな。思ったより小さいが雪女だ。運がいい。3日もあれば、もっと遠くへ逃げられただろう。こんなとこに留まっているなんて、な。
さて、これは、誘っているのか、気づいてないのか。 雪女のいる所へ、こちらは場所絞り切れてませんよ?とばかりに広範囲に氷の矢のを何本か一気に放つ。この雪女の少女が、誘っているのならば、かなりの実力だが…。警戒をしていたので、雪女の行動には、拍子抜けした。氷の矢を避けれたのは偶然だろう。相手がどこに居るのか、特定しておらず、場所移動して気配を断っただけ。発見されてから気配を消しても意味が無い。すぐに捕まえられると確信し、一気に行くことにした。
「それで隠れているつもりか?」
相手の後ろから話しかけ、相手に姿をさらして、仕留めるつもりで、氷の魔法を放つ。これで決まるだろうと思っていたので、少し、魔法を相殺されて距離をとられたのには驚いたが、その後の対応がお粗末過ぎた。せっかく距離をとれたのだから、魔法を撃ち込むべきだった。一瞬で、あそこまで魔力を練り上げ俺の氷魔法を相殺できるのだから、魔法が得意なのだろう?
なのに、「いきなり、何の用ですか?」だって。しかも、足を停めて。戦い慣れしてないのが丸分かりだ。大体、自分が攻撃されているのだから、何の用かわかりきっているだろう?
雪女で、魔物。理由なんてそれだけで十分だ。時間稼ぎにもなりはしない。「冒険者なんだから、魔物退治に決まってるだろう。」少女がその答えをきいている間に、一気に距離を縮め、殴りかかる。案の定、少女は顔の前に手を構え強化して丸まり、視界を狭くしている。それを利用して、後ろに回り込み、背中に回し蹴りをくらわして、地面に身体を拘束するとともに、凝縮した焔魔法を雪女の核に撃ち込んだ。その途端、大きな悲鳴があがり、魔力の暴走が起きる。魔物の弱点属性を生命核に直接撃ち込むと、生命核を守ろうと、魔力が開放される。生命維持活動に必要な魔力だけを残して。まあ、撃ち込む魔法は、加減しないと、核が壊れるが、その辺は加減している。この雪女は思ったより、魔力が多かったようだ。山全体が霜に覆われ、湖は完全に凍ってしまっている。体から力が抜け、気を失っている雪女に、逃げられないよう奴隷印を刻もうと、契約の紙を取り出し、言葉を紡ぎながら魔物の核に魔力を込めていくと、別の紋様が浮かび、雪女が痙攣して苦しみ出す。「これはっ!!」自分の迂闊さに思わず舌打ちし、さらに言葉を紡ぎながら、深く深く印を刻み込んでいく。使い魔契約がまだ、完全に切れていなかったのだ。情報を鵜呑みにし、確認することを怠った。言葉を紡ぐ前に、核に触れて確認しておけば、こんな事にはならなかったのに!!
途中で奴隷印を刻むことを止める事は出来ないし、このまま、普通に刻むと、使い魔印と反発して核が割れてしまう。奴隷印の優先順位をあげて、反発力を弱める。その為に、さらに言葉を重ねがけし、核に深く奴隷印を刻んでいった。
取りあえず、二重に奴隷印を刻む事で、核は壊れなかった。だが、いつ死んでもおかしくはない状態だ。奴隷印が定着するまで、命が保つかどうかは、掛けだった。
まさか、一方行の契約だったとはな。普通に双方向なら、問題なく使い魔契約が切れてて、奴隷印がすんなり刻めたのだが…。一方行の契約は、お互い書面だけでなく、心から繋がりが切れる事を望まなければ、契約を破棄できず、仮破棄の状態になる。契約破棄の確認書類が、新たな情報の方に挟まれていたのを見ていたし、まさか、一方行で契約するなんてのは、頭から抜け落ちていた。取りあえず、宿に戻って、安静にさせなければ。男は、そう考えて持ってきていた、布とロープで持ちやすいように縛り、担いで風飛びで、村の入口に戻った。