セツナside
ササメが今日も出かけて帰ってきた。何か、思い詰めた顔をしている。けれど、私の顔をみて、「セツナおねぇちゃん、ただいま。」と笑って言う。
「お帰り。何かあった?」
「うん、また後で、母とも喧嘩になりそうだし。また、聴いてくれる?」
「わかったわ。」
私との会話の後、ササメは、長に報告に行くようだった。
ササメが使い魔契約をして帰ってきた時、人間の集落が近くにある事を初めて知った長達は、村の様子を探る者が必要だと考えた。
その役目をササメにさせる事にしたのだ。
もちろん、おばさんは反対した。子どもに危険なことをさせるのか、と。
でも、もう、使い魔契約までしているのだから、逃げられないし、ササメは、集落を出る常習だった事や、村に行く事を止めるよう言っても聞かないだろう事を、理由に押し切られたようだった。
帰ってきたおばさんは、かなり消沈していた。私も、もし成人して集まりに行けたなら、反対していただろう。
でも、そこの人間の村の人達は、とても親切で優しい人達だったのだと思う。もしくは、よほど、閉鎖された村なのか。
穏やかに1年近く過ぎた。ササメから話された話は、主にユウリの話が多く、時々、ユウリの妹さん、衛兵さんトリオ、バザーの話をしてくれた。食べ物の話も、人間の冬の食べ物はどれも熱々で、食べれないから、冷まして食べたら、ユウリがすごく微妙な顔をするから、もう食べないっとかね。
変化があったのは、この夏が近づいてきた時だった。冒険者ギルドに雪女の捕獲、討伐依頼が出たって、ササメが慌てて帰ってきて、内容を伝えた。集落の皆は、この場所を捨ててよそに移るか様子見かで揉めた。ササメが「鉱山資源がないなら、内容が誤りだから、取り消ししてくれるよう頼んでみる。」と、再び村に戻って行った。長は、どちらにしろ、候補地が何ヶ所かあるから、何処がいいか検討し始めた。すぐに、何かある訳ではないし、ササメが無事な事を考えれば、まだ、時間はあるだろう、と皆に伝えた。不安だった。けれど、ササメが「ユウリが依頼取消願い出したから、大丈夫だと思う。」と言って笑った。ササメは人を信頼しているのだろう。私には、怖くて出来ないけれど、ササメが信じてる人達だから、信じようと不安を押し込めた。
ササメは、その間は、決して家には帰らず、私の所に泊まった。
おばさんは、不安で仕方なくササメに、この一年ずっと契約破棄と、集落から出ないことを要求し続けていた。だから、ずっと、会うたびにケンカだった。ササメが出かけたあと、私に何度もササメが村でどんな様子なのかを聞いてきた。私が「不安なのはわかりますけど、何事も起こってないようですし、今だけでも認めてあげたらどうでしょう?」と言うと、「何かあったとき、真っ先に被害に遭うのはあの子だから、どうしても…。ケンカばかりは嫌なのだけど。」おばさんは泣きながら話していた。ずっと張り詰めていたのでしょうね。、ギルドの件があったとき、もう、それは凄い勢いで怒り出した。すぐに集落を移動する事を長に迫り、契約破棄をササメに迫った。結果、ササメは、家によりつきもししなくなった。おばさんの気持ちも解るから、家に帰るようにお願いはしたけども…。けど、ムリヤリに、ササメとユウリを別れさせるのも、違うと思う。私は、どっちつかずで優柔不断なまま。今日だって…。
ササメは長に今日、冒険者から聞いた話と、集落の移動を進言したらしかった。
ササメは、ほっぺたが、また赤く腫れていた。でも、ササメちゃんは、今日は怒っていなかった。悲しそうに、また喧嘩しちゃったって。今回は、解ってもらおうとは思ってないみたい。ササメは、今回、知ったことや、考えた事を話してくれた。「ユウリと契約破棄したの。それで、集落の移動に一緒について行くって噂を流したわ。けど、ここに1人で残る。ユウリと別れたくないから。」って。私も、おばさんのように反対したかった。でも、喧嘩して別れるのは嫌だったから。
セツナ「…そう、…ここに残るのね。寂しくなるわ。でも、これだけは約束して。悪い人に捕まらないって。危なくなったら、ちゃんと逃げるって。……私が…一緒に行きましょう?って言っても、ついて来てはくれないのでしょう?」
私、うまく笑えてるかしら。声が震えて、うまく喋れてないけど、表情だけでも、取り繕いたかった。
ササメ「っセツナおねぇちゃん。…ごめんなさい。契約破棄はしたけど、ユウリとは…別れたくないの…。でも、危なくなったら、ちゃんと…ちゃんと逃げるから、…。」
ササメのうつむいた顔を、ほっぺたを触ってあげさせる。こんな顔をさせたいわけじゃないもの。
セツナ「フフッ。ササメに出来たのは友達ではなくて、恋人だったのね。」
ササメは、頬を染めて、ゴニョゴニョ言い出した。
泣きたかったけど、笑うことにした。ササメが危険かもしれない。けど、それを覚悟のうえで残りたいって言うんだもの。なら、もう、応援するしかないでしょう?