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オーラ・コミュニケーション  作者: 友城にい
第一章 黄色と青は紙一重
6/55

1-5

 ――事の始まりは一週間前の期末テスト初日に遡る。


 テストということもあり、ムンムンとした空気が漂い、ピリピリと刺々しい痛みも含む教室。初日、最初の教科を頭にたたみこんで、みんなが復習するの中、一人だけ雰囲気がまるで違った。

 それが菅野さんだった。

 別段、勉強をしていないわけじゃない。みんなと同じように頭を悩ます姿を憶えている。

 なのに、もやもやとしたオーラが充満する教室で、菅野さんだけがいつもと同じ黄色い楽観的なオーラを煌めかせていた。


 紫にどんより染まる空気中に、輝きを緩めない黄色は、俺にとって癒しにもならなく、むしろ――困りものになるとは。

 菅野さんのオーラに異変――違和感とも繋がらない。言うなれば――おぞましいモノ。そう直感したのは、テストが終わったあとだった。


 俺は身の毛が弥立った。目を疑った。ジッと凝らした。オーラが……デカくなっている……。


 気のせい? そんなレベルじゃなかった。ひと回りも二回りどころでもなく、本来俺の視えるオーラは、身を包む程度のもの。だが、菅野さんのオーラはそれを十二分に覆す尋常じゃない大きさになっていたのだ。


「あんなの、見たことない……」


 黄色く『楽しさ』を表すオーラが、天井を突き破るんじゃないか。秘密の破壊兵器になったのか。そう思わせるぐらいに膨らんでいたのだから。


 俺はすぐにコウに相談した。

 真っ先に返ってきた答えは――「新樹ちゃんには、内緒のほうがいいね。今回は」俺からしたら、予想の通りの答えだった。

 新樹の性格上、仕方のないことなのかもしれない。俺は、「そうしたほうがよさそうだな」とそのまま、コウと二人で事を進めることにした。


 一週間の調査でわかったことはかぎりなく少ない。把握できたことと言えば、異常なほどに菅野さんの運気が上がっていること。

 異常発見から次の日は、くじ引きの一等が当たったこと。続いて、憧れの先輩に告白されたこと。更にはモデル雑誌にスカウトされるなど、確率変動でも起きたかのように、幸運が立て続けに菅野さんの身に降ってきていた。

 一見すると、ただの運のいい少女かもしれない。


 しかし、さっきなにかを吸われた宮坂さんの状態を見るに、推理される真相はひとつ――。


「コウ、仮説なんだが、こうは思わないか」

「なに?」

「『笑う門には福来たる』ってことわざは知ってるだろ?」

「たしか、いつも笑っている人には幸福が訪れやすい、だっけ」


 俺が導きだせた答えのひとつ。ヒントは、いつも菅野さんは笑って楽しそうにしていることにあった。


「そもそも人間には運気という、『幸福度』を表す概念などない」

「たしかにね。もしあったのなら、幸運を象るオーラがあってもおかしくはないからね」

「俺の今まで見てきたオーラの大半……すべてが心境の変化によるものだった。ここにきてオーラが生きているだけで、魔法のようなオーラが存在するとは思えないんだ」


 コウは納得するように「あったら、あったで大変そうだけどね」と呟く。


「それに菅野さんを見るとすごく楽しそうで、『幸運』を求めているようにも見えない」

「だとすると?」

「それを踏まえて、じつはここに来る前、教室を出るときにオーラを吸われた宮坂さんの元気がなかったんだ。あるとすれば、オーラが吸ったものは運気でもなんでもなく、本当は――」



     ☆



 会議が終わり、教室に戻ると席に座っていた新樹が、俺とコウの顔を見るなり、急いだ足取りで詰め寄ってくる。

 足が止まらず、顔にググッと迫ってくる新樹に「どうした?」と訊く。


「しゅ、しゅー、き、きーた?」動揺しているのか、呂律が回っていない。とりあえず「なにを?」と、尋ねると「宮ちゃんのことだよっ!」と返ってくる。


「宮ちゃん? ああ、宮坂さんのことか。どうかしたのか」


 教室内を見渡すと、禍々しく揺れる黄色のオーラが視界に入る。

たしかに宮坂さんの姿はそこになく、逆にいつも誰かと喋っている菅野さんが静かに佇んでいた。それだけじゃない。顔を俯かせて深くため息を吐いている。オーラと対照的にどこか暗い。


「宮ちゃんが階段から落ちて、病院に運ばれたんだよ――」


 俺は思わず目を見開いた。イヤな予感が当たってしまったことへの罪悪感が、こみ上げてくる。勝手な思いなだけなのに。新樹も詳しい事情までは知らないらしく、あくまでも教えてもらった範囲までのことを、俺とコウに話してくれた。


 要点をまとめると、俺とコウが教室を出たあとに、中庭に行こうと階段を下りる途中。宮坂さんが足を詰まらせて、正面から転倒したらしい。幸いにも頭などは打ってはなく、腕や足の打撲らしいが。でも、どうやら内容が少し異なるみたいだ。


「私ね。見ていた人から、本当のことを聞いたんだ。本当は愛ちゃんが足を詰まらせて、それを宮ちゃんが庇ったって」

「それ、先生も知ってるの?」と、コウが尋ねると、新樹は顔を横に振る。

「なんで黙ってるんだ? べつに隠すようなことじゃ……」

「私もそう思って先生に話そうと思ったんだけど、愛ちゃんやほかの子に止められちゃって……」


 なにか不都合なことでもあるのだろうか。


「私、なんとなくだけどわかるんだ。宮ちゃんの気持ち……」


 新樹も長年、野球関連に携わっている人間だ。わからないこともないのだろう。


 しかし、「どうして?」が俺の口から出てくる。答えるように新樹が、「だって」と冒頭を添えて――


「愛ちゃんをモデルに誘ったの、宮ちゃんだから……」

「つまるところ、宮坂さんもモデルやってるってことか?」

「そうだよ……。それでじゃないかな。宮ちゃんが庇ったことを隠す理由」

「なんで、それが隠す理由になるんだよ。べつに悪いことをしたわけじゃないだろ?」


 噛みつくように新樹に問いただす俺の額に、人差し指が押される。


「州。世の中はね。よい行いがすべて報われるとはかぎらないんだよ。州が……一番知ってるでしょ?」


 この言葉が俺を理解させるのに時間はかからなかった。

 モデルの先輩にあたる宮坂さんが、菅野さんのせいで怪我をさせたとなれば、せっかくスカウトを引き受けた菅野さんのチャンスが台無しになる。


「ああ、そういうことか……」


 そうだ。認められないものは認められない。評判や噂が世を決める、この世界で誰かに非を負わせる行為は、最大の汚点となる。


「州とコウも、このことは誰にも秘密だよ。宮ちゃんと、愛ちゃんのために」

「わかった。黙ってる」それを聞いて、新樹は席に戻った。


 それとはまたべつに、俺の中で謎が増えた。記憶を巡らせてもわからない。ひとまず俺も席に着き、またひとつ。不思議に感じるものを見つける。


 なんで、菅野さんのオーラの色が変わらないのだろうか、ってこと――。


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