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オーラ・コミュニケーション  作者: 友城にい
第四章 真実(うそ)から出た嘘偽(しんじつ)
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4-16

 長所があれば、短所もある。それが人間という生き物だ。その認識は、まだ俺らには薄い。


(お前さんも、いろいろと『大変』だったようだね)


 労りの言葉か? よせ。俺には縁のない言葉だ。


(労わっているつもりはないよ。あくまで、あたいの独り言さ)


 哨然とするリラが終始、なにも首をつっこんでこなかったのが、『大変』という言葉に詰まっている気がした――。



     ☆



 ぼくが女子たちにそう言われた次の日。ぼくは、色海新樹がはなしかけてきたタイミングで、つめたい感じに言った。


「もうぼくにはなしかけないで。目ざわりなんだ」


 ぼくは言ったあとにはんのうを見る。オーラが濃い青色になっていれば、効果あり。こういうときだけ、やくにたつ力だ。

 しかし、オーラに変化はなく、ぼくの目をじっと見つめてくる。


「州くん、どうしたの?」


 色海新樹は丸っこいチワワみたいな目で、よそ見をするぼくの顔をおってくる。今日もポニーテールで結んでいた。たまにぼくの顔に当たる。

 もとよりこれぐらいじゃ、かのじょが身をひいてくれるとは、もうとう思っていない。ぼくはさらについかする。


「ぼくなんかより、ほかの子としゃべったほうがたのしいだろ。だから――」

「なんでぇ? 私は州くんといるのたのしいよ」


 けがれのないむくでつぶらな瞳。なぜ色海新樹という女子が、にんきがあり、あそこまでしてこの子をどくせんしたいのか、わかる気がした。子ども心がゆえのヤキモチをやいて、しっとにまでひやくしてしまうほどの理由が。

 男子とちがって、女子は人一倍つよかったことまではんちゅうに入れておくべきだった。

 それをこのしゅんかん、どんな絵本よりもじじつをしょうめいできた。でも、ぼくはこの子と仲よくすることはできない。それがさだめであって、ぼくの教訓。

 だからぼくは、色海新樹から目線をはずして言う。


「色海さんがたのしくても、ぼくは、たのしくない」


 ぼくは横目で色海新樹をにらみつける。


「州くん……」


 ぼくのきもちが理解できたようだ。顔をくもらせて、回ってじぶんの席にもどった。そのまま、色海新樹は顔を腕にうずめる。

 これでいい。そう思っていた。

 授業のあいまの休みも、昼休みでさえ、はなしかけてくるはなかった。ずっと顔をうずめて、落ちこんでいるのが気がかりではあるけど……。

 あれだけつめたい態度を取ったんだ。にんきもので、きらわれることになれていないだけ。ショックを受けるのは、とうぜんでじゅんすいなはんのうだ。いまだけ。すぐにたちなおることだろう。

 ぼくは黒板だけを見ている。きらわれることになれて、ひとりになれてしまってはいけない。ぼくみたいになっては、いけないんだ。さびしさもかなしみも生まれないぼくになってはいけない。生まれるのが、ふつうなのだから。

 色海新樹に話しかけられなくなって、数日がたったころ。ぼくの日常は平和だった。平和ではあった。

 けれども、となりで色海新樹はだれともかかわらず、ぼくと似てような日常を送っていた。授業以外は顔を上げず、ずっと突っ伏している。

 そんな数日が流れて、色海新樹がけっきょくじぶんらにもどってこないことにイラだちをおぼえだした女子たちが、ほうかごもういちど、ぼくを体育館裏に呼びだした。


「解森、あんた新樹ちゃんになにしたのよ!」


 ぼくを悪魔のような形相で、いちゃもんをつけてくる。


「ぼくはただきみたちの指示にしたがって、色海さんに、『はなしかけないで』と言っただけ。それ以外はとくに言ったおぼえはない」

「そんなはずない! 新樹ちゃんをたぶらかした、おまえのことだ。きっともっとひどいことを言ったにちがいないわ。そう思うよね。みんな」


 取りまきの女子も、「そうだ、そうだ」とぼくを責めたててくる。たぶらかすとは、ひどい言われようだった。


「ほんとうになにも言っていない。色海さんが勝手に落ちこんでいるだけ。ぼくはなにも知らない」

「まだとぼける気なの? そんなことで私たちがなっとくすると思ってんじゃないでしょうね!」


 女子はぼくの胸ぐらをつかんできた。ぼくは無抵抗にそれを受け入れるほかない。多勢に無勢だ。あいてがあきらめるのをひたすらまつ。


「ねぇ、なんとか言いなさいよ!」

「だから、ぼくは……」


 女子たちは、かんぜんに色海新樹にげんきがない理由が、ぼくにあると踏んでいるらしい。それを証拠にオーラにまよいはなかった。ほんきでぼくをうたがってかかる。


「もう! こうなったら、ほんとうのことを言うまで。そ、その、なぐるから……」


 その女子は、ぼくに向けて手をあげた。ぼくは反射的に目をつぶる。なぐられることにびびった。


「なぁんだ。こわいんだ。でも、しゃべる気ないんでしょ。それじゃ」


 手を肩のうしろにまでひくのは、見なくてもわかった。ぼくはグッと歯を食いしばる。


「しゃべらないあんたがわるいんだからね――」

「――州くん!」


 ――しゅんかん。ぼくのまわりの時間だけがとまった気がした。その場にいたぼくをふくめた六人がどうじに声のぬしのほうを見やる。


「あ、新樹ちゃん……」


 声をふるわせて、ぼくの胸ぐらをつかんでいた手をはなす。女子五人はいっせいに、色海新樹に言いわけをはじめた。

 しかし、色海新樹は意に介さず、ぼくのところにあるいてくる。

 ふだんのふんいきからは、想像できない真剣なまなざしをしていた。そう、これが――


「なんで、ここに。たしか野球じゃ……」


 チーム名の入ったユニフォームを着た色海新樹に、ぼくはぎもんを投げかける。

 そう、これが。色海新樹がクラスでにんきものである理由だった――


「ともだちがこまっているときに、野球なんてしないよ! だって、ともだちのほうがたいせつだから!」


 かのじょの心にあるしんねんなるものには、いつも――「まもるべきもの」がある。そのためなら、色海新樹なるおんなのこは、どんなむちゃなことだってやる、らしい。

 それをみんなが、色海新樹に惹かれる理由の、たったひとつの理由――。



 女子たちはどこかに行ってしまった。なみだぶくろにつぶを溜めていた気もする。

そんな色海新樹は、えがおを向けてぼくに手をさしだした。


「いこ。そうだ。このまま私のいえであそぼ。いいでしょ?」

「たすけてもらっといて、わるいけど、まだともだちになったおぼえはない」


 ぼくがそう言うと、色海新樹は「え~」とはんのうする。


「じゃ~、どうやったら、州くんとおともだちになれるのぉ? おしえて、おしえて」


 だだをこねる子になる。ぼくは、どうにかしてでもかのじょとこれいじょう、かかわるのをやめたかった。

 ひとこと「いやだから」と言えば済むような気もしたけど、かのじょには効かないような気もした。ならば、最終手段である「あのこと」を。ぼくは、かのじょにほんとうのことを言う。


「ぼくには、色海さんがどんなきもちになっているのか、全部わかるんだ。オーラとして、ぼくはすべてが視える」


 色海新樹は、だまってぼくのはなしをきいていた。


「いやなきもち。くるしいきもち。きらいなきもち。かなしいきもち。おこったきもち。うそをついたって、ぼくには丸わかりなんだ。だから色海さんがどんなことをしようとも、ぼくにはお見通しってことなんだよ。それでもいいのなら……」


 ぼくはこのことを他人にはなすのは、はじめてかもしれない。おおきなリスクかもだけど、やむをえないせんたくだ。どうせどっちにしろ、ぼくはひとりなのだから。さて、これで、かのじょとは――


「すごーい。州くんはきっと、たくさんのひとをたすけられるね」

「――え?」


 かのじょは、なんとひきつることもなく、逆にキラキラな好奇心旺盛にみちた瞳をしていた。


「だって、もし私が落ちこんでいたとしても、州くんならきづいてくれるってことだよね?」

「う、うん、そういうことにもなるけど……けど――」


 ぼくのことばをさえぎって、色海新樹はつづけた。


「それって私、すごくあんしんできるってことだよ! それで――」



     ☆


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