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オーラ・コミュニケーション  作者: 友城にい
第一章 黄色と青は紙一重
5/55

1-4

「州……?」


 新樹が心配そうな顔をする。俺は、「なんでもない」と冷静を保とうと自分の弁当に目線を戻そうとした。

 でも、〈腕〉の行き先が気になってしまって、そちらに目をやってしまう。


「――サイアクー。私最下位じゃーん」


 盛り上がる話題は、どうやら毎月の楽しみである占いのページ。どうやら菅野さんは運勢が悪かったらしい。いかにもな会話で、背もたれに寄りかかる。そのメイクばっちりの顔はあまり残念そうにしていない。気分とノリだろう。

 菅野さんのオーラに変化はない。ならあの〈腕〉はなんだ。


「ふふふ、あたしは一位だったよ。ラッキー。いいことあるといいなー」

「マジ宮坂いいなぁ。私と代わってよー」


 菅野さんがおねだりするように、宮坂さんに抱きつく。

 着崩した制服。襟のリボンなどもはずしている。印象的にはボーイッシュな風貌の宮坂さん。彼女は菅野さんと一番仲が深い。


「ダーメー。これあたしの運だもん。いいじゃん、愛も最近ついてるし」「ケチー」


 他愛のないような内容の会話。なんでもない――のなら、どれだけよかったか。


 俺は思わず立ち上がった。「なにする気だ……」


 菅野さんから伸びた〈腕〉が宮坂さんのオーラに食らい繋がり、そして――ストローのように吸い始めたのだ。


「州、どうしたんだい。いきなり立ち上がって」


 コウも声をかけてくる。

 ハッと我に返り、オーラ以外を見渡す。気づけば、教室にいた数人の生徒が俺をじっと見る――いや、嫌気の差すような視線を浴びせる。


「またあれだよ」「ホンット解森ってさぁ」

「こら。また港くんに」「あ、そうだった。でもさぁ――」


〈腕〉は一定の量を吸収すると満足したみたいで、菅野さんのオーラの中に戻っていった。

 それでもオーラに変化は現れない。ほんとになんだったのだろうか。けど、今まで見たものと明らかな違いを感じる。そうあれはまるで――


「州っ! 食事中は用事がないとき以外、立ったらメッ!」

「あ、ごめん……」飛んできた新樹の当然のような叱責に、俺はすばやく座り直した。

「いきなりどうしたの?」

「……え、あ、なんでもないんだ。ホント気にしなくていい」


 俺が強く拒むとそれ以上、新樹は深く訊いてこなかった。なんだか申しわけない気持ちになる。「じゃあ私、そろそろソフトのほうに行くね」


 黙々と食べていると新樹がそう言う。時間を見ると長い針が上り始めている。昼休みもそんなに長くない。


「おう。気をつけろよ」

「うん。またあとでね」


 新樹はそそくさと食べかけの弁当をナプキンに包んで、イスを元あった場所に戻す。弁当をカバンにしまって、廊下に逃げるように飛びだしていった。

 勘づいてはいるはず。俺の異変に。新樹のオーラがそう語っていた。でも、ここに新樹の出番はない。本人がそれを一番わかっている。

 さて……こうしている暇はない。


「では、会議といこうか、州」


「おう」俺とコウも席を立つ。かぎられた時間の中で、もたついている場合じゃない。即座に片づけて、教室を出ていく。


 会議の場所というのは、学校の屋上である。

 この時期の屋上は人の出入りが少ない。理由のひとつが暑い。時間が時間なだけに太陽が南中にある時間帯。見晴らしがいいスポットとして有名で、生徒には残念がられている。

 俺とコウはあえて、この場所を選ぶ。なぜかというと他人に聞かれては困る話だからだ。


「倍ぐらい、あっつい……」わずかな屋根のある影に俺とコウは腰を落とした。

「州。もっとほかにいい場所ない? さすがに外で慣れてる僕でも、ここは暑いと思うよ?」

「でもほかに人目がつかない場所もないし……しょうがないだろ。つべこべ言わずに会議するぞ」


 俺が無理に会議を始めるとコウは観念したように、「わかったよ」と諦める。


「それで、今日の菅野さんはどうだった?」


 コウも俺の能力チカラのことは知っている。そして、菅野さんの異常についても。


「正常になってた。昨日までが嘘なくらいに。あくまでさっきまでは……」

「その様子じゃ想定外の出来事でも起きたみたいだね。州が思わず立ち上がってしまうほどの」

「さすがだな、コウは。思わずは余計だが」

「たいしたことないよ。州の顔にそう書いてある」


 加えて「州はわかりやすいよ」と、買ってきていた紙ジュースをストローですする。


「でもあれは想定外なんてものじゃない」

「なにが起きたんだい? 気づいたら立っていたぐらいの現象って」


 ほっとけ、とツッコミ、話を続ける。


「菅野さんのオーラが――『生きている』かもしれない」


 真剣に、嘘のようでバカみたいな俺の話にコウは疑うことなく、「緊急事態ってことかい」と冷静に返してくれる。


「そうかもしれないな。俺もさすがにあれは――少し怖かった」


 そして、気がかりなことが俺にはあった。

 俺が教室から出るとき、宮坂さんがキツそうにしていたこと。それと――オーラが極端に小さくなり、存在さえ消えかけていた。吸引の影響だろうか。


「州?」

「あ、いや。きっかけかは定かではないが、菅野さんが羨ましそうに宮坂さんに強請った途端に、オーラから『腕』みたいなものが出てきたんだ」

「腕……?」


 疑問を持つコウに、手に持っているジュースを指差して、


「例えるならば、そのストローだ。腕がオーラをストローみたいにじゅーと吸いだしたんだ。一定の量を吸うギリギリまで。これって、なんだと思う?」

「興味深い話だ。そうだね。今までの傾向から推測するに、菅野さんは宮坂さんの運のよさを欲しがった。無意識的に。それがオーラに伝わって、オーラがオーラを食べる。もしくは吸収した。これって昨日までの肥大化と関係あって、一致すると思わないかい?」


「俺は関係あると思ってる。初めからオーラは生きていた。少なくとも先週から――」


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