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「やっぱりいましたか。いまそこで岡せんぱいをおみかけしましたので、もしやと思いましたが、わたしの勘のとおりでした。だめですよ。おさぼりさんは」
最初会ったときのような、淡々とした口調と無表情。変わったと言えば、彼女を纏う凶悪な、『嘘』のオーラぐらいか。
「鈴宮さんもなんで、学校内を徘徊してるんだ。みんな体育館のはずだが」
「徘徊とはしつれいですね。わたしは用事があって、いま体育館に向かう途中だっただけです。解森せんぱいといっしょにしないでください」
「それは、ごめん」
俺は鈴宮さんの言葉を鵜呑みにすることが困難になっていた。なにが嘘で、なにが本当か、判別に欠ける。
「そんなことより、色海せんぱいはあれからどうですか?」
それを言う鈴宮さんの顔は、不敵に微笑んでいるように見えた。俺の考えすぎなのだろうか。彼女に対しての不信感が募るばかりだ。
俺は唾を呑んで、意を決し口にした。
「いったい、どこまでが嘘なんだよ」
直球に核心をつくように問いただす。だが鈴宮さんは、一向に不敵な笑みを崩さない。
「そうですね。解森せんぱいにさいしょ会ったときから、か。中盤までかもしれないですし。解森せんぱいをからかった、あのときだけかも。もしかしたら、ぜんぶほんとうというかのうせいも、なきしにもあらずです、解森せんぱい。なにせおんなは、『嘘つき』な生き物ですから」
「茶化さないでくれ。俺にはわかるんだ。キミが嘘を言っているのが」
饒舌だというのに、まったく思考が読めない。喋っているのに、情報が含まれていない。ただ『嘘』をつき続けている。これはたしかだ。
「! へぇ~。わたしの口車にのらないひとは、解森せんぱいがはじめてです」
俺に揺さぶりが利かないことがわかったのか。鈴宮さんは短くこう述べた。
「つまり、解森せんぱいてきに。わたしはすべてにおいて、うそをおっしゃっていると、そう言いたいのですか」
「言い方が悪いが、そういうことだ」
「…………ふーん。そうですね。すでにヘンジンの解森せんぱいになら、わたしのぜんぶを晒してももんだいなさそうですね。では、まず言っておきしょう。わたしは解森せんぱいにみじんもきょうみはないです」
鈴宮さんが意味有り気な発言をする。俺は、「じゃあ、あれは演技であって、わざと新樹を傷つけるようなことをした。そういうことか。でもなぜ」
「なぜ、ですか。そんなのとうぜん、わたしが色海せんぱいをあいしているからですよ」
「そ、それってつまり……」
「はい。レズです。同性愛者です。ヤロウをすきになったことなど、いちどもありません。わるいですか?」
鈴宮さんは、ためらうことなくサラッと口にする。
「べつに悪くはないが……。それなら、尚更新樹を傷つける意味がわからん。好きな人を傷つけてどうするん――」
そこまで言ってやっと理解した。鈴宮さんの意図が。
「そういうことです。わたしは、入学式で色海せんぱいに恋してしまいました。ですが、うわさによると、色海せんぱいにはすでに、想いびとがいるということだったので、ちょうさするために、ソフト部に入部したわけです」
鈴宮さんは妖艶に浮かぶ魔女のごとく、中央に移動し、長い黒髪を手で梳く。さらに、俺に経緯を明かしてくる。
「想いびとはすぐにわかりました。それが解森せんぱい。あなたです。だから、あなたを蹴落としにきました。あの日、屋上にいたのはぐうぜんなんかじゃありません。ひつぜんであり、けいかくせいのたまもの。よく、うわさでもなんでも尾鰭がつくと言いますけど、あなたはうわさどおりのヘンジンでした。あなたはかわったひとのところには、かならずと言ってもいいほど、すがたをあらわすと聞いていましたので、それを利用させてもらいました」
俺は、まんまと乗せられたってわけか。鈴宮さんの策略ってやつに。
俺がなにも言わず、黙っていると急に、鈴宮さんのほうから気色悪い鼻息というべきか。激しい息遣いが聞こえ始めた。俺は心配になり、「どうした。熱にでも当てられたか?」と声をかける。
「なんだか……色海せんぱいのことを想像したら、コウフンしてきました。みてていいんで、ここでシテいいですか? あ、もうします。なんなら解森せんぱいもわたしのをみて、シテもいいですよ? 気にしないのでえんりょなく」
その顔はかなり高揚していた。口からでてくる声は甘ったるく、色気を帯びている。そして宣言通り、鈴宮さんはスカートの中に手を入れて、身につけているであろう、布地に手をかけた。
「やめろ。俺に見られるのをどうも思わないかもしれないが、そろそろコウが戻ってくる。いいのか?」
俺は軽く脅すように言った。鈴宮さんはしばらく考える。黙考をした結果、鈴宮さんはとりあえずかけていた手を解除した。
「ムラムラしているこのしゅんかんにシタいですけど、岡せんぱいにみられるのは、少々、リスクがデカいです。なので、やめておきましょう。それにしても、レズっていいですよ。もちろんゲイもステキです。いっそのこと、解森せんぱいが岡せんぱいのことをすきになれば、いいかんじに場に収集がつきますよ。どうですか?」
俺は呆れ顔で一言。「それこそ、遠慮させてもらう」と却下する。
「ですよね。では、わたしは行きますね。またあいましょう、どこかで」
小さくお辞儀をし、鈴宮さんは出て行った。そのタイミングで、俺はリラを呼んだ。
「わかっている。戸の前で待機していたからね。あれだろ。でも――あのおなごのオーラは、今までと比べものにならないくらいの厄介者だよ。いいのかい?」
リラは俺の応答に瞬時に、テレポーテーションで飛んできた。おまけに理解が早い。
「俺も説得できるとは、あまり思っていない。けど、それでも鈴宮さんのオーラと話しておく必要があるんだ、と俺の心がそう言っている気がしてならない」
鈴宮さんの生きたオーラがずっと俺を睨んでいた。鬼の形相と表現しても、優しいほどの顔で。まるで――鈴宮さんを命がけで守っているように。
「お前さんの心意気には勝てんね。それじゃ、いくよ。お前さん」
リラは瞳を閉じて、左手で十字架を天に掲げ、右手を突きだす。そして、呪文を唱えた。
公開なんちゃらはやりすぎでした。
友城にい




