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オーラ・コミュニケーション  作者: 友城にい
第四章 真実(うそ)から出た嘘偽(しんじつ)
40/55

4-5

「新樹――――っ! 俺、やっぱり―――っ! 新樹のこと――――っ! すっげー、尊敬してる――――っ! 逃げずに、かといってずっと、自分を信じてる新樹を――――っ! 俺は――――っ! スキだ――――――――っ!」


 俺は頭に乗せていたタオルを振り落とし、簡易ネットにしがみついて、できるかぎりの大声で応援した。というより、自分の思いの丈をぶちまけただけだった。

 俺からマウンドまでけっこう距離はある。俺が叫んだことは、もちろん気づいているだろう。選手から関係者から観客から、ほぼすべての人の注目を集めていたからだ。でも、マウンドに立つ新樹だけが、俺のほうを振り向いていなかった。


 不思議だったが、オーラを視るとキュウリのような濃い緑、『動揺』を現していた。

 完全に聞こえていなかったわけではないようだ。そりゃいきなり、誰かが叫び始めたら動揺もするよな。それも俺だし。知人として恥ずかしかったのだろう。


 別段、俺も最初からすべてを伝えるつもりで、大声を上げたわけじゃない。あくまで少しでも、一部だけでもと、叫んだ次第だ。

 そんな俺の騒動で、中断されていた試合再開のコールを促される。すぐさま新樹は、モーションに入り、ボールが投じられた――


 ――キーン、


 この試合初の爽快な快音が鳴り響く。新樹の渾身の一球が跳ね返された先を、俺を含む、全員が追った――。


     ☆


「そんなに落ちこむなよ。新樹は誰の目から見ても、大健闘だったはずだ」

「うん……キャプテンにもそう言われたよ。違うんだ。私、こうなるんじゃないかなぁ~、って予感してたんだよねぇ」


 新樹は帰路の途中に黄昏に満ちた空を仰ぎながら、そう呟いた。


「それって、あれか。新樹がたまに言ってる。夢のことか?」

「よくわかったね。うん。昨晩、見たんだ。今日あった、延長戦にホーラムンを打たれる夢。また正夢になったね。もうこれ、私、予知夢って呼んでもいいんじゃない?」


 新樹は、バットなどが入っている重そうなバッグを左右に振り回しながら、俺の前を行く。そして、歩みを止めてそのまま振り返った。影が縦に大きく伸びる。茜色に焼けた雲をバックに、新樹はバッグを後ろ手に持ち、はにかみながら前かがみになった。


「ねぇ、州……」と、甘い声音で俺を上目遣いで見つめだす。それを一秒のズレなく、同時に動く影は、さながらノンフィクション映画のようだった。


「なんだ。改まって」

「さっき、試合中に叫んでた内容に、その……私のことが好きだって……ほ、ほんとう?」

「――っ!? そ、それは、あくまで努力して、自分を高めて、一点をずっと見つめてて、その一点を信じている新樹が好きだ、って意味で。べ、べつに深い意味は……」


 急に雰囲気を出してくるから、なにを言いだすのかと思えば。やっぱり全部聞こえていたみたいだ。当然か。

 俺も俺でテンパって、早口になってしまった。新樹に言われて考えるが、柄にもないことはするものじゃない。普通に恥ずい行為だよな……。


「そのわりにやけに動揺しているみたいだねぇ~」


 いつもみたく、にやにやして顔を近づけてきた。マシュマロにも似た、ふにふにに緩んだ表情なのに、俺を弄んでいるようにも思える。


「それより、本当によかったのか。祝勝会に参加しないで」


 新樹は、きょとんとした顔をして俺から離れる。「いいよ」と素気なく言う。続け様に、新樹はくるんと反転し、後ろ歩きで俺の顔を今度は覗きこんでくる。


「キャプテンも無理に参加しなくていいよ、って言ってくれたし。なにより――州と話をしたかったから」

「なんだよそれ」

「最近、私、練習続きで州と話をする機会が少なかったでしょ。州もさびしがってるかなぁ~って。私の元気を分けてあげないと、州すぐに目が据わるからねぇ」

「俺はいったい新樹のなんなんだよ。俺は、ロボットかなにかか?」


 俺がそうツッコミを入れると、新樹は喜色満面と言った感じか。るんるんと後ろ歩きだというのに、スキップを刻む。器用なやつだ。


 途端、新樹の動きが止まった。「あ、誰かが手を振って走ってくるよ」と新樹が言うので踵を返すと、遠目だが見知った人物が、新樹に負けないぐらいの笑顔で駆けてくる。

 屋上にいた彼女だった。小柄な体型でありながら、滝のように流れ落ちる黒い髪を激しく揺らして、全力でこっちに向かってくる。

 あのあとも度々屋上を見ていたが、けっきょく彼女は、試合終了までいた。でもなんで、彼女が俺と新樹を追いかけてきてるんだ?


「あ。あれ、咲妃乃さきのちゃんだ」

「新樹、あの子のこと知ってるのか?」


 そういえば彼女の名前を訊くのを忘れていた。自分の名を知っていたばっかりに、こっちから訊くタイミングがなかったのもあるが。


「知ってるもなにも、咲妃乃ちゃん――鈴宮すずみや咲妃乃ちゃんは、ソフト部の『元』部員だったから。でも、練習三日目で辞めちゃって。そんなにまだ知らない、かな」


 それでも二日間しか共に練習していない部員の名前を、よく憶えていた新樹は偉い。

 俺は彼女――鈴宮さんにまだ不確かな、疑問のようなシコリを感じていた。胸の奥の奥。底に届きそうなところで静かに埋まり、手探り程度じゃ見つかないように眠る。俺を欺くために、わずかに膨らんだ封印された箱は、シコリだけ目印をつけていた。

 その箱を開ける鍵は、案外身近に――


「解森せんぱーい。まってくださーい」


 手をぶんぶん振っていた、鈴宮さんは息ひとつ上げず、ようやく俺たちのところに追いついた。

 俺は軽く驚いている。だって鈴宮さんが、最初会ったときとはまるで別人のような顔つきと、口調まで変わっていたからだ。


「あ、色海せんぱい。おひさしぶりです。きょうの試合、すっごくよかったですよ」


 礼儀正しく、新樹に頭を下げる。そして、上げるときはなぜか、俺のほうを向いて顔を上げた。その動作のひとつひとつに、俺はただ戸惑った。

俺は鈴宮さんに、違和感しか湧いてこない。リラに訊く。こ、これって……。と。


(やっぱりね。あたいの観察眼に間違いはなかったようだね。でも、なぜこんなに色が濃く……)


「ねぇ、州って、咲妃乃ちゃんと知りあいだったの?」

「ああ、えっと、鈴宮さんとは――」


「あっれぇ~、あれれ~? 解森せんぱい、だめですよー。とっても、とぉぉぉぉぉってもだいじな、ともだちにヒミツにしちゃあ。色海せんぱい、じつはですねぇ。解森せんぱいと、わたしはですねぇ。おつきあいをしてるのですよ」


「――――――――――え」


次回が気になるぞよ! (白々しい)


友城にい

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