表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オーラ・コミュニケーション  作者: 友城にい
第一章 黄色と青は紙一重
4/55

1-3

 この日は予定通り答案用紙が返ってきた。そのあとは通常授業をやって、約束の昼食の時間が訪れる。


「おーい。港、一緒に食おうぜ」

「ごめん。僕こっちで食べるからさ」

「新樹ちゃーん、一緒に庭で食べなーい」

「あ、私先約があるんだー」


 二人が俺の前と横にイスを持ってきて腰かける。んで前に座った新樹から会話が始まった。同時に持参している弁当箱を開けると、しつこそうな脂っこい匂いと焼き肉ソースの香ばしさがこっちにまで漂ってくる。


「テストの点数どう? 予想と違った?」


 俺も弁当。コウはバイト先でもらったらしい、菓子パンを開ける。


「いきなりそれか。食事中でいろいろあれだし、あとでよくないか?」

「うーん。そうしたいのは山々なんだけど。私このあとソフト部に呼ばれてるんだよね。ほら、朝練出れなかったから」


 新樹は箸でミートボールをぐるぐると回す。


「それならしゃあないか。俺はこんな感じだ」


 まずは俺から今日の授業で返ってきた答案用紙を四枚見せる。


「州ってこんなに頭よかった?」

「コウ、なんか失礼だぞ、それ」


 俺の回答欄を隅々まで見つめるコウ。たしかにコウには程遠い点数かもしれないが。オーラまでも『困惑』の花のアヤメみたいな青紫になるなよ。


「私はこんな感じだったよ、どう? 私にしては、かなりがんばったほうなんだよ!」


 弁当とほかにもう一個小さな容器を取りだし、蓋を開ける。入っていたのは細かく刻まれたサラダだ。お肉とのバランスを取るためだろう。付属していた青じそを均一にかける。

 俺もだが、夕飯の残り物を詰めた組みあわせ。白いご飯一面に、柔らかそうな牛肉が乗せられている。一枚箸で摘まんでパクッと口に放りこむ。運動部は大変だな。


「うわっ……全部、俺より点数高い」


 なるほど。こりゃ自信もあったわけだ。新樹のオーラも輝きを増している。もはや自信の塊だ。


「さすが新樹ちゃんだね」

「ごくっ……。いやあぁ、どうやらコウに教えているあいだに、自分のなかにすりこまれたみたいで。それのおかげかな。なんて!」


 きゃ! と可愛い声を上げて、サラダの頂点にプラスチックのフォークでひと刺し。大量のレタスを一気に口に持っていった。


「まあ、俺も毎回それが強いかな」


 それで肝心のコウはというと、


「僕かい? まことに残念ながら追試は……すでに決定しました……」


 膝の上から四枚の紙が出てきた。ピンだらけの赤い字。滅多にお目にかかれない点数。それをおもむろに見せる。


「やっぱり……」俺は呆れたふうに顔を手で覆った。


「何個あったの?」新樹が箸とフォークでカチカチ鳴らす。行儀悪いな。


 静かに指を三本立てる。俺は「まあ」と置いて、新樹に提案した。


「またするか? 勉強会」

「私は全然いいよ、いつする?」


 日程を決めようとする。そんなとき、教室の中心に集まるグループから大きく手を振って、こっちに声がかけられる。


「あっきー、ちょっと来てくれなーい?」

「なーにー」

「いいからー。見てほしいものがあるからさー」

「わかったー」


 声をかけたのは、あの中のリーダー。菅野愛すがのあいだ。


「ちょっと行ってくるね」


 俺が「おう」と返すと新樹は席を離れ、菅野さんのところに行った。

 あのグループは簡単に表すとギャルの集まり。机を四個くっつけて、ファッション雑誌を真ん中に何冊も広げて、食事中ずっと談笑で盛り上がっている。『楽しさ』があふれんばかりのひまわりのような黄色いオーラで蚊帳を作り、本当に楽しそうな雰囲気だ。

 今朝言った新樹ともう一人オーラが違った女子。菅野さんはずっと元気で、あの中でも異色のパワーを見せるのが菅野さんだ。彼女の黄色い幸せオーラは楽しい気持ちで、ほかの人よりも群を抜いている。

 もしあのグループの会話のネタが悪口や陰口やらなら、目も向けられない色になるし、非常に俺の目に優しいグループだ。騒がしいぐらい大目に見たくもなる。


 新樹が席をはずしている時間、とくにコウとも話さず、飯を頬張っていると新樹が戻ってきた。


「おまたせー。愛ちゃんひどいんだよ。私がファッションに疎いの知ってて訊くんだからー」

「新樹はソフト一筋だからな」

「まあねえ~」


 別段、気にせず呑気そうに箸を持ち直す。


「あとね。愛ちゃん昨日、読モやらない、ってスカウトされたんだってー、すごいねー」

「なんて雑誌? 僕はよく読むよ。話合わせにだけどね」

「たしか私たち向けのだったよ。名前は本屋にあるのを、見たことある程度だけど」

「なんだろう。チェックして、菅野さんが載ってたら教えてあげるよ」

「ありがと、コウ。あ、それとね。知ってた? 朝通る広場に木曜日にだけクレープ屋さんがくるの」


 俺は興味なさそうに「知らない。夕方?」と話を合わせる。


「そうみたいだよ。ねえ今度買いに行かない? 私クレープ好きなんだー」

「クレープか。あんまり甘い物は食べないからな」

「僕はよく食べるよ。頭の栄養にね」

「そのわりに得意分野にしか行き渡ってないみたいだが?」

「ひどいっ!?」


 コウを少しばかりからかう。朝の仕返しだ。というか痛い点を突く。そんなリアクションを見つつ、さっきの話の続きを持ちだす。


「そういや、いつ勉強会するんだ? 場所とかも決めとかないと」

「この前は私の家でしたもんね。なら次は州の家とか?」

「まあべつにいいけど。コウも異論はないよな」

「場所に文句はないよ。日程は僕、今日はバイトで遅いから明日でいいかな?」

「私も明日なら部活休みだし、ちょうどいいね」

「なら、母さんにそう伝えておく。それでいいか?」


 二人とも頷く。


「じゃあ、決まりでいい――」


 か、が出ず、妙な異変で身体に悪寒が迸った。

 見る前から存在感が壮絶に伝わってくる。

 俺は正面から菅野さんの頭上に目を移した。「な、なんだよ……あれ」視認して、背筋がゾッと凍った。口と頬がわなわな震える。風邪でも引いたのかと、勘違いするほどだ。

 そうならまだいい。俺は目の当たりにする。ありえない現実が、異変が、衝動が。俺をフリーズさせた。

 そう――



 小さなオーラから〈腕〉みたいなものが、伸びでていたのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ