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オーラ・コミュニケーション  作者: 友城にい
第三章 すれ違い、恐怖、つないで
34/55

3-19

 石畳を騒がす、バラバラで一体感のない二人の四つの足音。少し速い。急いで走ってくれているのだろう。感謝すべきか。いや、まだ早いか。


 やばいな……。意識が朦朧としだした。久三野がかすんで見える。いくらなんでも殴られすぎた。そういや最近、俺、気絶しすぎじゃないか? オーラにしても、今回にしても。……まあ、自業自得といったらその通りだ。甘んじて受け入れるとしよう。


(なにバカなことを抜かしている、お前さんよ)


 うわぁ……びっくりした……。いつの間にかリラの幼い顔が、俺を仁王立ちで覗きこんでいた。身長的にしゃがみこまなくとも、充分に窺うことができている。


(愉悦に浸っている場合じゃないだろうが。それともなんだい? 殴られて、はい終わり。てことかい? そりゃ滑稽モノだよ。お前さん)


 酷い言われようだった。言いたい放題か。たしかに、ここで黙っているわけにもいかないが、なにせこの有り様だ。無闇に動けない。


(なんだい。負傷したり、骨が折れたぐらいで人間っていうのは、ダメになるのかい? しょうがないね。あたいがどうにかしてやるよ)


 そう言って、ちっちゃい手を俺の胸に当てた。そして、リラは瞳を閉じて、なにやら呪文を唱える。


(対象物に治癒を施したまえ――《ヒーリング》)


 すると、俺の身体が眩い光に包まれ、腕や顔、足、腹の痛みが和らいだ。光がなくなると、リラは体力を消耗するのか、ひと息吐いて俺に言った。


(全部治すと不自然に思われるだろうし、とりあえず骨の損傷と臓器の破裂だけは治しておいたよ。これでひとまずは、歩けるんじゃないかい?)


 ありがとう……。それにしても、やっぱりなんでも有りだな、リラって。俺、骨折れてたし、臓器もやられてたのか……。全然わからなかった。


(なんでもじゃないさ。でも、死者を蘇らせること以外なら意外とできるかもね。それより、来たみたいだよ。お二人さん。まあお前さんのリアクションでも見て、ほくそ笑んでいるよ。じゃあねぇ~)


 リラは不気味な微笑みを浮かべて、俺の後方に宙を舞いながら移動した。高みの見物ってやつか。

 俺は近くにあったベンチを借りて立ち上がった。久三野の背後を見通すと、二人の姿が見えた。ようやく俺と久三野のところにお出ましだ。それにいち早く反応し、声を上げたのは無論、久三野だった。


「いづみがどうしてここに……。それにその服…………」


 驚きを隠せない久三野。もっと詳しく表現すれば、わなわなと震えていた。顔は青ざめているようにも見える。絶望していた。オーラがそれを物語っている。それもそうだ。今まで暴力を振るっていて、それを目撃されたのだから。

 そんな久三野に上原さんが小さく頷く。白いシャツにネイビーのチュールスカート。じつに少女チックな格好をしている。

 久三野は、目をしょぼしょぼさせて、上原さんのいるほうに一歩踏みだす。


「あ、あのな、いづみ……これには列記とした理由があって……お、おれ、あんなになるまで殴るつもりなんて……。……………………」


 踏みだした足が戻る。必死に弁明を図っていたが、情けなくなったのか、途中でやめてしまった。

 そこに上原さんの隣にいる新樹が、なにか上原さんに言葉をかける。おそらくだが、発破でもかけたのだろう。それを証拠に上原さんの顔つきが少し変わった気がする。

 そして上原さんは、決心したような面持ちで久三野に近づいた。

 当の久三野は俯いていたため、気づくのが一瞬、遅れる。


「臨くん、あのね」

「…………!」


 顔を上げるが、返事はしなかった。代わりに、どういう反応をしていいか、迷って頬を引き攣らせて、苦笑いを浮かべる。


「は、はは……お、おれ……」

「あのね。わたしの話を――」

「いいんだ。わかってるから……」


 久三野は上原さんの言葉を遮り、顔を逸らすように踵を返した。


「いくらいづみのためとはいえ、本当に殴って、重傷を負わせて、おまけにそれを言いわけしようとする男なんだぜ、おれって……。失望……するだろ……。もういづみに合わせる顔なんか、おれに――」

「うそつき……なんにもわかってない」


 うなだれていく久三野の背中に、上原さんは抱きついた。身長が足りない分、上原さんは脇腹に腕を回している。


「放してくれ……なんのつもりだ。これじゃまるで……」


 そこまで言って、語尾を濁す。例の日を彷彿させたのか。


「イヤ。絶対放さない。わたし、ちっとも怒ってないから。一度だって、臨くんを憎んだことだってない」

「それこれ立派な嘘じゃないか。おれはずっと、いづみに負い目を感じている。今回の件に関しても、あの日のこともずっと。だから、いづみ。おれに嘘をつく必要はな――」

「――嘘なんかじゃない!」


 俺を含め、三人が同時に声の主のほうに振り返る。リラも感心したように、ほう、と目を向けた。それよりも気にものがあるが……。

 さらに声の主は、叫び続ける。


「私、知ってる。いづみちゃんも久三野くんと同じように後悔していることを。それを今日まで引きずっていることも。私聞いたよ。『今日こそ、臨くんと向かいあいたい』って。悩んで、悩み抜いて、やっと決心したんだよ。それが全部、嘘だって言うの……」

「新樹ちゃん……」


 それに対しての久三野の返答はなかった。たしかに上原さんは、嘘を言っていないし、久三野も正真正銘の本心を吐いていた。それは俺が保証する。

 だが、互いに壁があった。超えられる程度の些細な壁なのに、どこかにしこりがあって、それが互いに邪魔しあっているんだ。

 だから俺は、取り除くことはできなくても、覆い隠すことができるようなことを言った。今すぐに解決できない問題なら、最後に解けばいい。なんなら、いつの間にか、なくなっているかもしれないしな。


「好きな人の言葉くらい信用してやれ。それが今のお前にできる最低で最高の、唯一の妥協だろ。独りで盛り上がってる場合か。好きな人の変化くらい臨機応変に判断しろよな」

「なんだよ……善人ぶってんのか? 変人のクセに」


『変人』か。聞き慣れた呼び名だ。言い返すつもりも、否定するつもりも見せなかったが、そこに上原さんが制止するように、「やめて……」と入ってくる。

 だが、久三野は「でも――」そう呟き、力の抜けている上原さんの腕の中で反転し、上原さんを逆に抱きしめた。


「~~~~~~~~っ!?」


 わずかに見えた上原さんの耳は、瞬時に熟成したりんごのように染まっていた。いきなり受けた行動で、思考が追いついていない。

 しかし、その表情は久三野にも見えはしない。恥ずかしさと嬉しさが入り混じった最高の逸品、「はにかみ」を取りこぼしていることに、久三野は気づかない。

 そんな事態を露知らず、言葉を紡ぐ。


「――好きな人の言葉くらい信用してやれ――この言葉だけ信用してやる。これがおれのお前に対して授かる、罪滅ぼしになるのなら、な」


惹かれ合い、互いの愛を主張するのは難しい。でも自分はこういうシーンは好きです。


友城にい

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