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オーラ・コミュニケーション  作者: 友城にい
第一章 黄色と青は紙一重
3/55

1-2

 フラれると男の子は何事もなかったかのように、走り去っていった。


 結局、オーラは黒いままで終わってしまった。


 新樹は「最近の子はマセてるねぇ」と、告白されるのに慣れているように呑気に振る舞う。実際、俺が近くにいるにも関わらず、新樹が誰かに告白されるのもこれが初めてではない。一日一人以上には告白されているんじゃないだろうか。さすがのモテっぷりである。


 男の子の姿が見えなくなると、ようやく俺と新樹は学校に向かって二列に歩きだした。


「そういや、なんで寝坊したんだ。新樹にしては珍しい」

「んとね。私、またおかしな夢を見たんだー。でも不思議なんだよね。私、アフロで金髪の女の子とお話ししてた。まあ内容自体は憶えてないんだけどね」

「アフロ? なんでアフロ」

「私に訊かれても困るよ。逆に訊きたいくらいだし」


 たまに新樹が不思議な夢を語る。この前は「ホームランを打った夢を見たんだー」と。その前が、ごちそうを食べる夢を見たらしい。そして、それは不思議なことにすべて「正夢」に繋がる。今回もなるのだろうか、と期待を持ちながら「そりゃそうか」と返す。

 俺と新樹は、そんな他愛のない話を交わしつつ、ふと時間が押しているのに気づいた。早歩きで学校に着き、教室に二人同時に入る。


「まだ余裕か」と俺は教室内を見渡す。今日はまだ問題は起きていない、よかった。


 だらしなく熱を少しでも遮断するため、カーテンを閉め切った教室。生徒全員が一様に英気を養おうと、ノートやらで扇いでいた。

 そんな中でも新樹は「おはよ」と元気のない挨拶をされても、「おっはよー」と元気よく返した。釣られて相手も笑顔になる。これが最高の英気かもしれない。


「ああ、あっつい……」と隔離されているような窓際一番後ろの席に着く。カバンを横のフックにかけ、時間まで耽ろうとすると机に影とは違う色が混入してくる。

「よっ。おはよう、州」


 俺は顔を動かさず、目だけを声の主に移した。


「おはよ、コウ」


 彼は岡港おかみなと。だから「コウ」と、愛称で呼んでいる。新樹の少しあとにできた、俺の唯一の男友達。いわゆる腐れ縁だ。

 甘いマスクで、心身ともにデキた男だ。髪も染めず、柔らかい印象をつけるために伊達メガネをかけている。器のデカさなら学校、地域を入れても間違いなく一位だ。なんなら、一回二回殴っても笑顔を崩さないだろう(試したことがあるわけではない)。

 休みの日はボランティア。それ以外はファミレスでバイトもやっている。将来は、世界各国を飛び回りたいらしい。しかし、唯一身長にコンプレックスを持っているみたいだが。


「それにしても暑いね。教室にクーラーが欲しい、ってみんな言ってるよ」

「俺は慣れてるから、これくらいは平気だけどな」


 コウのオーラは心の『豊かさ』を表す大自然の緑を具現化する。いつもなら。


「さすがのコウでもこの暑さには勝てなかったか」

「参ったね。やっぱり、州には誤魔化しが利かないか。まあ、さすがにね」


 薄暗い教室に暑さにやられ、『脱力』を表す黒さが入ったコンクリートみたいなオーラの色であふれる。新樹を含めて、二人以外は――。


「それより朝から暑い中、お疲れさま。熱いね、遅刻ギリギリでのカップル登校」

「誰がカップルだ。暑いのは天候だけにしてくれ。しょうがないだろ。これにはきちんとした理由があるんだよ」


 暑さを紛らわそうと俺を冷やかして、一人氷に当たるコウに、俺は朝の出来事を話した。


「――へぇー、相変わらずだね。新樹ちゃんは」

「私がどした?」

「うん? 新樹ちゃんは相変わらずだね。て話」


 目を丸くして、首を傾げる新樹。コウの説明に要領を得られなかったようだ。俺がつけ加えてやる。


「そのまんまでいいってことだよ。新樹は」


 さらに首を大きく傾げて、ますます混乱する新樹だった。


「それより今日、期末テストが戻ってくるけど、コウどうだったんだ?」

「うっ……できればその話題には触れないでほしいな。いつもどおり惨敗だよ……」


 コウのオーラが紫に変わる。『落ちこみ』が現れた。ブドウというよりナスに近い色合い。そんなコウに新樹が問いかける。


「コウまた悪いの? あんなに勉強教えたのに」


 コウは昔から勉強のほうは苦手だ。なので、中学からテスト前日に猛勉強会を開いている。今回ももちろん実施し、必死に教えたつもりなのだが。


「でもしょうがないよね。ボランティアとかアルバイトもやってるし」

「それは言いわけにはできないよ。新樹ちゃんもソフトをやってるでしょ? そうだとしたら、僕と条件はさほど変わらないと思うよ」

「なんだ? その理屈だと、とくになにもやっていない俺が二人より悪かったら、言いわけのしようがないような言い方にも聞こえるが」

「ははは……それは深読みしすぎだよ。そんな州は今回自信ある?」


 自分のテストの出来に触れられたくないのか、ひた隠すために俺に話が振られた。


「俺もいつもどおりだな。よくもないし悪くもない。平均点が一番」

「さすが州だね。新樹ちゃんはどうだった?」

「私? 私は……どうだったかな、そこそこだと思うよ。まあ、あとで返ってくるし、昼食にでも見せあいっこしよ」


 俺とコウの顔を交互に見つめる。

 いつもより自信があるのだろうか。オーラの『呑気』が一層、鮮やかになった。


「見せあいっこ? 俺はべつにかまわないけど。コウは?」

「……笑わないかい?」

「今さらコウの点数で笑えない。呆れてはいるが」

「ははは……それもそうだね。善処するよ」


 コウは、とにかく前向きな男だ。決して落ちこまずに行動に移す。失敗しても心を入れ替えて、心の豊かさにも磨きをかける。


「じゃあ決まりだね」


 ここでタイミングよく開始のチャイムが鳴り、担任の男性教諭が入ってきた。新樹はコウの隣の席へ急いで戻る。

 気づいたと思うが俺、コウ、新樹と席が後ろで並んでいる。偶然ではない、必然的に。

 コウは新学期の席替え時に言ってきた。


『新樹ちゃんの隣じゃなくていいのかい』て。俺はべつに固執しているわけでもないので、丁重に「わざわざいい」と断った。


 そして、今に至る。


 さて。教壇に立つ。この時期に暑苦しい長そでジャージを着こなす青年教師の連絡事項を聞き流しつつ、俺は横とその横の保養もして、教室内にあふれる気だるげな雰囲気を目にしばし肥やしもしながら、一日を過ごすことになる。


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