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オーラ・コミュニケーション  作者: 友城にい
第三章 すれ違い、恐怖、つないで
28/55

3-13

『ここまで話したら、隠す理由もないわね。私が憑いたのは、この娘――いづみちゃんが高校に入学してから。いづみちゃんは、気を抜くと、次々アプローチを受けやすい娘だった。理由は簡単よ。おしとやかで、いるだけですべてが上品になる、それでいてギャップっていうのか、とてもそそっかしい娘。放っておけない。そこが男子たちの虜になるポイントのようなの』


 オーラは、肩をすくめて瞳を閉じる。伸ばした腕は、両方とも胸元で重ねた。


『だから、両親も悪い虫がつかないうちに身を収めておこうと、親交があった臨くんを許婚にしたそうよ』


「別れた理由。あなたは知ってるのか」


『そこまでは知らない。けど、別れたあとすぐ皆の耳に入り、ラブレターや告白が相次いだ。周りの男子もやたら優しくしてきたらしいわ』


「そんなとき思いついた対処法が、恐怖症のフリってわけか」


『いづみちゃんも、臨くん以外の相手を考えたくなかったから。すると忽然とアプローチなどの類は途絶えたそうよ』


「素朴な疑問だが、なんであなたがそんなことまで知っている? 憑いたのは高校入学後なんだろ。それもチカラの一種なのか」


『――泣いてるのよ。毎日、いづみちゃんは泣いてるからよ。独り言――呪文のように毎晩、過去の出来事を虚空に語りかけている。まるで――私が視えているようにね』


 オーラは、『そんなことあるわけないのにね』そう続けた。けど、上原さんは電柱に身を潜めていたオーラが視えていた。あれはどういうわけなのだろうか。


『ここからが、本題。よーく聞いていて欲しい。助けられるヒントがあるのなら、導いてほしい』


「ああ」


『虚言じゃない――そう信じてる』


 期待されるのは、慣れるものじゃない。でも、無下にするつもりはない。

 俺は、長く語られるオーラの言葉を一言一句しっかり耳にした。


『過去の自分を知らない、高校に入学してまたアプローチが再開した。今度は逃げない。変わりたい。

自分に好意を寄せてくれることを拒んではダメ。全力で応える必要がある。

 私は、そんな日々をただ背後から眺めていた。取り憑いて数週間。いづみちゃんは社会勉強のためにと、バイトを始めた。それから数日が経ったころ。偶然、臨くんが来店してきた。

 いづみちゃんは嬉しがった。それと同時に複雑な心境にもなり、話しかけることができなかった。あのころと変わらないまま。その日から臨くんは、話しかけにこないがいづみちゃんが出勤しているときは、毎日来るようになった。

 時は流れ、バイトや学校にだいぶ慣れたころ。恒例みたいにラブレターが入っていて、いづみちゃんは放課後校舎裏にやってきた。常套句のように「ごめんなさい」と断り、立ち去ろうとしたとき、突然腕を掴まれた。

 そして、「キミに魅せられて諦めきれないんだ。一回だけ。一回でいいから、せめて――抱かせて?」

 ダメだと頭でわかってはいた。

 けど、胸中で日々、憤りを抱えていた私にとって、その言葉は怒りの引き金以外のなんにでもなかった。私は身勝手にチカラを解放し、事なきを得たのだが、それから私のチカラは自分でも制御ができなくなった。

 近づいてくる男全員が、いづみちゃんが一言かければ、やってはいけないことをやってしまったような顔で立ち去っていく。いづみちゃんは、逆らえない運命さだめのように、なるべくして男性恐怖症のレッテルが貼られた。

 タイミングが悪いと思った。直後、臨くんのほうから意を決したみたいで話しかけてきたのだが、私のチカラでいづみちゃんから離れて、むしろ溝が深まってしまった。

 アプローチは中学時代のときみたく途絶えたが、いづみちゃんは毎日泣き。眠れば、うなされるような日々を送っている。男性恐怖症は勘違い。ホントは違う。そこに拍車をかけたのが、私になってしまった。

 そうストーカー。つらいなら外にでなければいい。歪んでしまった私の、浅はかな考えで生みだしてしまったストーカー。休み続ければ、自然と向こうから来訪してくれるはず。そう考えていた。

 しかし、いづみちゃんは思った以上に強い子だった。それでも毎日、一目だけでもと、臨くんが来店するファミレスにバイトに行った。

 この娘は不憫な子だ。変わろうとすればするほど、悪循環に陥っていくんだから。

 私は一秒でも早く自由にしてあげたい。けど、離れてしまえば二度と憑くことはできない。そうなれば、またアプローチの日々が始まるかもしれない。

 そうしたアプローチの中で、魔の手が忍び寄ってくると思うと怖かった。いづみちゃんが本当に男性恐怖症になるじゃないかって。

 不幸中の幸いかもしれない

 膝をかかえた私のチカラが唯一誇れたのが、解森州くん、あなたに出会えたこと。まさに不幸中の幸いかもしれない、ストーカーを生みだしたことで、あなたみたいな救いの手に巡り会えたのだから――』


 聞き終えた俺が出した返答は、「そんなことはない……」言うなれば、「新樹になら、その言葉を送れるはずだ。俺が代わりに伝えておいてやる」そう目線を合わせず、会話を切った。


『では、幻界から祈っております――』


 直後、リラが十字架を掲げて、召喚呪文とは違うものを唱え始めた。


(幻影なる魂よ。ここに収めたまえ――)


 オーラが上原さんから根こそぎ引き抜かれ、十字架に勢いよく吸いこまれた。


「おい。俺はどうやって――」


 戻ればいい、そう言いかけた瞬間、俺のうつ伏せに眠った身体に近づいてくる者が現れた。


素気ない感じのオーラ・コミュニケーションになりましたが、苦しんでいるのがわかっていて執着する。というのは、あまりにも下種な気がしてオーラ自身も助けを求めていた、という結果にしました。


友城にい

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