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オーラ・コミュニケーション  作者: 友城にい
第三章 すれ違い、恐怖、つないで
27/55

3-12

(そういえば、初お披露目だね。それじゃ、いくよ)


 リラは瞳を閉じて、左手で十字架を天に掲げ、右手を突きだす。そして呪文を唱えた。


(厳正なる召喚――《オーラ・コミュニケーション》を解森州に発動を許可する)


 俺は全身を強張らせた。刹那、あのときのように意識が朦朧とし、闇に堕ちて数秒。身体が軽くなり、対極的な重い瞼を開けると、俺は天井の高さまで視界が浮上していた。


(うまくいったな。それじゃ頼むぞ、お前さん)


 頷き、まだ形になっていないオーラを見やる。そして、問いかけた。


「少しでいい。俺と、話をしないか」


 だが、返事をしたのはリラのほうだった。


(今のままではオーラを説得することはできないよ。喋る意思がないからね)


「じゃあ、どうすればいいんだ」


(あたいがあの娘のオーラを召喚しないと、会話はできない。あのコギャルのときも、あたいが召喚したんだからね。ちなみに一度召喚すると、本人がそこにいなくても、オーラと会話は継続されるから。安心安全でしょ?)


 そうだったのか。本当、なんでも有りなんだな、リラって。


(なんでもじゃないけど、あたいは万能だよ。では、召喚しようかね)


 リラが呪文を唱える。名前を「上原いづみ」に変えて召喚。すると間を空けて、雲のようなオーラは、正面がどこかわからないが、俺のほうを見るように方向転換を行う。


『――名を』若い女性の声だ。


「……解森州」


『なら、解森くん。お願い。こののことを――あなたにまかせたいの』


 漠然とした動揺を俺は憶えた。てっきり前みたく、言い争いになると思っていたから。そこに、加わるようにリラが割りこんできた。


(抵抗する気はないみたいだね)リラは宙で、俺とオーラのあいだに中立する。


『あなたはまさか……天使ですか』オーラの問いに、リラはなにも言わない。暗黙の了解ってやつだ。それを察したみたいにオーラも、『わかりました』そう呟いた。


『では、この娘をお願いします』


 オーラは、雲を小さくしていく。リラに連行されるつもりだろう。だけどそれは困る。


「待ってくれ」俺は収縮を止める。大声で呼び止めたかったが、腹からうまく声がでない。


『…………』オーラから返事はない。けど収縮は止まった。俺の次の言葉を待っているのだろう。リラもわかっているようで口を挟んでこない。


「上原さんの話を聞かせてくれ。それが一番の目的なんだ」


 目の位置が不明瞭だ。俺はただオーラをジッと凝らす。

 青かかった黒いオーラは、少し間を置いて再び膨張した。そして、あのときみたいに人型に造形されていく。顔から入り、腕、胸部、骨盤、脚、と。どんどん人の形へと模していく。

 その姿は、声の通り若い女性だった。

 着慣れていない感じのスーツ。仕事の邪魔にならないミニポニー。心配で夜も眠れていないような目つき。女性のオーラからは、まるで覇気が感じられない。そんな印象を受けた。オーラなのに、覇気がない。という表現はおかしい、ってのは置いといて。


「さっそく訊きたい。なぜ上原さんに取り憑いているのかを」


『私が別段、この娘に拘っているわけじゃないわ。私自身、なんでこんなにも執着しているかわからない。けど、放っておけないの』


「特別な理由が……?」


『この世界に降り立ったとき、この娘を見つけてすぐ心配になった。自分じゃどうしようもなくなったこの娘を、ただ単純に救ってやりたかった。それだけ。私はただ代わりを務めただけ。それも今は失敗したんだけどね』


「代わり? いったいなんの」


『男性恐怖症――』オーラは強調するように言う。そのまま続けた。『この娘はある原因で、男性恐怖症の――フリをしている。私はそれの手助けをしている』


 淡々と暴かれる真実。俺は、目を細めた。「なんでそんなことを……」


『そうしなければならない理由があるから』


「手助けというのは、さっき男性にやったのがそうなのか。見たかぎり、感染させたように捉えたが」


『少し違う。私のチカラは、どうやらこの娘の都合に合ったようにオーラを変換するみたい。この娘が「恐怖」のだからって、感染した者が恐怖になるとはかぎらないみたいだけど。そこらへんは、人によりけりみたいで』


「たとえば?」


『男性は勘違いするみたいで、「鈍感」「罪悪感」になり、自己嫌悪に陥る場合が多いみたい』


 オーラは、続けて女性を説明した。


『「保護」「守護」「愛情」と、男性と真逆にプラス思考が多いわ。けど、稀に「恐怖」になる者もいるみたいだけど、ね』


 浮かない表情で歯切れ悪くして、俺を見やった。


『昨日、だったかな。共存してもらうために、「新樹」という少女にも感染してもらったんだけどね』


「ん? いつだ?」


『初めて会話を交わしたとき、だったと思う』


「でも、さっきの男性みたく大きくなったのを見てない」


『それはこの娘の精神が平常ならば、一言会話を交わらせる、それだけで感染できる。でも不安定なときは、自らでてやるしかないのよ』


 たしかに菅野さんもあのとき、不安がいっぱいで通常の精神ではなかった。


『しかし、新樹という少女にかぎって、「恐怖」の感情を抱いてしまった。彼女ほど親身になってくれそうな少女は、そうはいないのに私はいつも肝心なときに失敗して』


 ――少し怖いね、ここ。

 聞けば思い当たる節がいくつか浮かんでくる。なぜ疑わなかったのか、それは考える間もなく、簡単なことで。それが喜怒哀楽を常日頃からきちんと表現する新樹だからこそ、疑問なく受け入れていたんだ。


『それを踏まえて、あなたに頼んでいるの。お願い――この娘を導いて、臨くんとよりを戻してほしいの』


「二人を引きあわすのは、難しいことじゃない。けど、二人のよりが戻るかを決めるのは、決して俺じゃないことだけは知っていてほしい。決めるのはほかの誰でもない、双方なのだからな」


『そうよね。それでお願い』オーラは、少し安堵した表情に変わった。


「しかし、なぜ上原さんが男性恐怖症のフリをしていて、それをあなたがカバーしているのか、教えてくれないか」


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