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オーラ・コミュニケーション  作者: 友城にい
第三章 すれ違い、恐怖、つないで
25/55

3-10

 本日は追試のため、昼前に学校が終わった。そのまま十三時過ぎにリラと二人でファミレスに入った。店内を見渡すとピーク時は避けたので、お客さんは散漫としている。

 店員に案内され、禁煙席に足を進ませると、偶然にも昨日と同じ席が空いていた。観察もしやすいし、ここでいいか、と座ったところでリラが呟く。


「本当に姿を見せていても怪しまれないかい?」

「姿を消してたらパフェ食えねぇぞ。直に味わいたいだろ?」


 普通に腰かけては座高が足りていない。これじゃ食べるのに不便なので、店員に補助イスを持ってきてもらい、その上にリラは乗っている。そこでようやくリラは、テーブルから上半身がでてきた。


「それに問題ないだろ。天使を連想するような頭の上に輪っかもないし、格好もコスプレみたいで今の時代じゃ、不思議に感じる人も少ない」

「そんなものなのかい。いいのか、悪いのか、区別のつかない時代なんだねぇ」


 リラが哀愁を漂わせる物言いで、半目を更に薄目になったころ。イスと一緒にオーダーしていた、特大チョコレートパフェが運ばれてきた。

 満点の笑顔を振りまいて、「ごゆっくりどうぞ」と、伝票を裏向きに置いて離れていく。それを見てリラがスプーンを持ち、生クリームをすくいながら、


「それはそうと、なんで急いでここに来たんだい?」


 ふわふわな生クリームを口に含むと、リラは頬を緩ませる。


「まあ、いろいろ理由はあるけど、やっぱり――」


 頬杖をついて、リラを親のような目線で眺める。新樹にしろ、リラにしろ、女子はやはりスイーツが好きなのだろうか。そう思考を巡らせながら、俺は今日コウと話したことを振り返った。

 遡ること、十五分休憩の時間――。

 朝、新樹と戻ってきたときも、そして今のちょっと時間の合間にも、コウは真剣に追試の勉強をやっていた。邪魔するのは悪い、申しわけないと思いつつ、俺は尋ねた。


「今日、上原さんは何時に出勤するのか、教えてくれないか?」


 まるで好意があるような質問だが、俺は至って真面目に訊いているつもりだ。コウは机に広げたノートに、ひたすら目を落としていた顔を俺に向ける。

 そして、こう言った。


「なにか掴めたのかい?」

「まあ言うほどじゃない。けど――突破口にはなりそうなんだ」


 菅野さんの件みたく、今回もコウに話しておこうと思ったが、コウは現在追試の最中だ。昨晩だって、勉強をしないといけなかったはずなのに、尾行をやってのけた。どれだけ器が広いのやら、感服するばかりだ。


「今日はスタッフが不足してるみたいで、上原さんは十四時にシフトが入ってたよ」

「そっか。ありがとう」


 緊急によるシフト変更か。それなら、久三野がちょうどに来る可能性は低い。


「僕も行けたらよかったんだけどね。頼りにしてるよ、州」

「なあコウ。それと――もうひとつ質問してもいいか?」

「なに。改まって」

「俺の能力チカラについて。もしもだ。オーラが生きながらにして、己の信念を持って憑依者の意思を尊重し、無理難題もやぶさかではなくて、そんでもって、その憑依者の想いの糧をすべて代弁してくれるんだ。そんなオーラがいたら、どう思う。コウなら」


 俺の仮定であって、少し本当の想定。

 コウは勉強中にも関わらず、聞き流さないでじっくり時間をかけ、真剣に悩む。ほんのわずかばかり俺の良心も締めつけられる。


「一見すると羨ましいかぎりにありそうだね。どんな願い事、なりたい将来、やりたい物事、実らせたい恋愛、負けたくない対決。なんでもうまくいってしまうんだろうね。聞くだけなら、十二分に羨ましい話だよ」


 そのあとに「でも――」と追加し、つけ足した。


「――自分の身なら崩壊しそうだ」


 コウのしんみり身に沁みるような言い分に、「どうしてそう思う?」俺は気にかけるように、


「絶望するよ、世の中と境遇に。人生は階段じゃないから。そうだね。どちらかというと、新品の画用紙だね」


 コウはおもむろにノートの空白に大きな丸を描いた。


「階段なら運んでもらえばいい。崖なら吊りあげてもらえばいい。違うかい?」


 小柄の自分が大柄で逞しそうな人に抱えてもらい、階段を悠々と上る絵。すでに頂上にたどりついた人たちに、ロープで吊りあげてもらっている絵。二枚のたとえをノートに走り書きで、俺に説明する。


「でも――画用紙にペンを持って、他人に書いてもらっても、それは他人の作品。決して自分の作品にはならない。そうでしょ?」


 俺にシャーペンを渡す。長年愛用しているのか、デザインが擦れている。


「自分の手で考えながら、走らせなければ自分の作品にならない。人生もそうであって、お膳立てしてもらっても、最後の決定権は自分で判断しなればならない」


 俺の掌の上に乗っているシャーペンを取り、消しゴムで書いた絵を消去。


「だから州も、迷ってもいいから自分の今したいことを優先的にしたらいいよ。ためらって踏みだせないときは僕が思いっきり押してやるからさ」


 ニカッと笑って、コウはノートに視線を戻した。

 自分のやりたいことだけ……か。俺の今やりたい――やるべきことは――。

 それが、コウと話したことだ。そして時間は戻り、


「――また生きたオーラがいる――かもしれないから」


人は誰しもが先の見えない道を歩くのは怖い。だけど、歩かなきゃなにも変わらないし誰かの真似事じゃいつか自分を見失ってしまう。

だからこそ、まず一歩踏みだす勇気、だと僕は思っています。


友城にい

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