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オーラ・コミュニケーション  作者: 友城にい
第三章 すれ違い、恐怖、つないで
24/55

3-9

「――そうっすか。犯人に目星もついてない。クソ……なんで気づいてやれなかったんだ……。あんだけ見ていながら……」


 久三野は悔しそうに自分の太ももを殴った。


「それはそうと、いつからファミレスに通ってるんだ」

「ファミレス……。そうっすね。いづみが働いているって、ダチから教えてもらってからですかね」

「なんでそこまでする? そんなに上原さんのことが心配なのか」


「なんで? 愚問すね。そりゃそうっすよ。あんなに可愛い人、世界中を隅々まで目を通しても絶対にいないですもん。心配にもなります。いつどこで悪い虫がつくかわかりませんから、わざわざ遠くの喫煙席から、眺めているんす。なんだか、おれ、本当にストーカーっぽいですかね?」


 ははは、渇いた笑いを出す。久三野のようなやり方は偏って、誤解を受けやすい。でも本人に悪気がなくて。ただ伝え方、接し方に戸惑っているだけなのだ。


「そんなに――好きなのか。上原さんのこと、ずっと」

「なんであんたにそこまで。照れくさいっすよ、そういうのは……」


 久三野の言いかけた言葉が止まった。

 俺が茶化すために言っているわけじゃない、至って真剣に訊いているんだと。そう受け取ってくれたようだ。


「……もちろんっすよ。人生をかけてもいい。そう信じさせてくれる人ですから。だから、おれはあの日のことをこれからも――あ、いえ、なんでもないっす。最後のは忘れてください」


 口を滑らせてのことか、語尾を濁す。

 あの日――。このワードに、事のすべての真実が隠されているに間違いない。そう確信できる自信があった。

 ここからどうしようか、俺は悩んだ。ここで躓いている時間などあるはずないのに。人生において、この先にある未来に大きな変化を起こすしかないのだから。

 二人のまどろっこしさをほっといておくと、永遠に距離に変化が表れない気がした。俺の行動ひとつ取っても、変動が起きるのなら――俺は意を決し、口を開く。


「なあ、あの日って、いったいなにが――」


 そこまで口に出たとき、階段上から間延びした目立つような声が響いてきて、


「あ、州~、こんなところにいたんだぁ。もう、あっちこっちさがしたんだか……ら……」


 朝練が終わり、教室にいないことに不思議に感じた新樹が、俺をさがしにきたみたいだ。新樹も呼んだあとすぐ気づき、急いで口元を押さえる。でも時すでに遅し。まさに最悪のタイミングだった。

 俺の名前を知った久三野が、「お前……」とまた違ったドスの利いた声音で、俺を睨みつけてくる。ひ弱そうな顔に似合わず、そういう顔ができるのはやはり……。


「解森州だったのか……」


 言いわけもしない。したところで無駄だと知っているから。俺は面倒臭く、「ああ」だけ返す。「チッ」豹変した久三野は、舌を大きく打つ。そして、不愉快そうにふらりとした足取りで、場を離れていった。

 軽く詐欺師や友に裏切られた気分だったろう。そう思うと心苦しくなる。

 俺が階段を上がって新樹の前まで来ると、申しわけが立たなさそうにしていた。「ごめんね。あれ、久三野くんだよね」しょんぼりし、迷惑をかけたんじゃないか、と俺にもう一度、「本当にごめんね」と平謝りしてくる。


「いいんだ。どうせすぐにクラスの奴らやらにバレただろうし、遅かれ早かれ、俺は敬遠される運命にある。だから新樹は気にすんな」

「でも久三野くんに州だってバレちゃったから、変にいづみちゃんに近づけなくなっちゃうんじゃ……」

「たしかに新樹の言うとおり、上原さんに接近するのは難しくなるだろうな。だから――明日までに勝負をつけるつもりでいる」


 俺の宣言に新樹はさぞかし驚いたようで、しょんぼりしていた顔が一気に吹っ飛んでった。俺に、「どうやって!?」と身体を寄せてくる。


「新樹は心配すんな。俺に策はある」


 不満げにする新樹が、「だからどうやってぇ~」と足踏みで猛抗議。俺は、「それは秘密だ。俺にしかできないことだしな」言ってしまったら、止められそうだし。

 それでも新樹は、けちぃ~、と、ぶぅぶぅ、口を尖らせる。


「新樹。俺の能力チカラ、どう思ってる? あくまで今は、だ」


 藪から棒な俺の問いに「どうして?」と、新樹の当然の疑問。「いいから」で俺は押し通す。すると、腕を背中で組んで足を交差させた。


「――変わらないよ。州の力は、絶対みんなを幸せにできる、そう信じてる」


 いつ訊いても、数ミリの差異のズレさえない。俺は何度でも同じ問いをする、不安だから。


「それを踏まえて、訊きたい。そのオーラがもし――生きていたら、どう思う?」

「幽霊みたいなってこと?」

「うーん、近いけどまったく違う。そうだな、たとえるなら――代弁者ってところだ」


 新樹は少し頭を捻らせて考える。だが、ピンとこなかったらしい。仕草でわかる。


「私には難しい話だね。そこらへんは全部、州に押しつけちゃお」

「はは、おかしな質問して悪かったな」

「そうだ。いま思いだしたんだけど、私その質問されたの二回目な気がするんだよね」


 新樹は、自分のもみあげを撫でながら、壁に寄りかかる。


「ほら、前に言ったじゃん。アフロで金髪の女の子のこと」

「ああ、憶える」


 特徴が酷似した人物(?)に俺は心当たりがある。


「ほかにもいろんなこと訊かれて、そのときも私、同じ答えを言った気がする。これがいわゆる、デジャヴってやつ?」

「不思議な夢だな」

「でしょ? ずっと考えてるんだけど、ほかに思いだせなくて。なにかの弾みででそうなんだけど……思いだしたら教えてあげる」

「ああ、楽しみにしてる」


 新樹の夢の話――俺は徐々にだが、単なる夢な気がしなくなっていた。



     ☆


PV2000突破! ありがとうございます。


友城にい

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