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オーラ・コミュニケーション  作者: 友城にい
第三章 すれ違い、恐怖、つないで
22/55

3-7

「なぁ、新樹。なんで目を――」

「そんなことより早く隠れて。私たちが見つかったら、元も子もないんだから」

「お、おう……」


 催促するタイミングを打ち消された。そのまま新樹に促されるがまま、しゃがみこむ。

 切り替えよう。そろそろ上原さんの住むマンションが近いことだ。が、いまだにこれといった怪しい人物もいない。出ないことに越したことはないが、動きがないのは非常に対応に困る。

 ひたすら上原さんの周りを観察していると、後頭部が柔らかくて、弾力性のある物体に数ミリ埋まった。


「新樹、当たってるぞ」さりげなく伝える。しかし、「ん?」と一切、気にしている様子がない。


 わざととは考えにくいが、このままでは集中力が欠けてしまいかねない。なので、強めに注意しておく必要がありそうだ。


「あのなぁ……」


 俺が言おうとする前に「ならこう?」と、ついにはその物体を俺の頭に乗せてきた。新樹の体温が直に伝わってくる。でっかい肉まんでも乗せている気分だ。

 新樹は新樹で重さが逃げて、休憩するように「ふう」と休息を取る。

 世の男なら羨む状況だろう。たしかにドキドキしないと言ったら嘘になる。けど、今の俺にしてみれば、状況が状況なだけに邪魔なだけだった。


「場所代わるぞ」と言うと、「はーい」と陽気に答え、俺と入れ代わろうとする――その前に上原さんが突然立ち止まり、振り返って手招きをした。


「どうしたの?」と、新樹が急いで駆け寄る。


 俺も異変がないか左右に目を配りつつ、上原さんの話を聞く。


「住宅街に入ってからずっと、背後に視線を感じるんです。それも、いつもより一段と強いものが……わたし、背筋が凍りそうで……」


 上原さんは自分の身体を抱きしめる。身体は恐怖で、視認できるほど震えていた。


(あたいもさっきからだが、あたいらの近くに狂気に似た視線を感じている。とても――人間とは思えないものを)


 なんで早く言わない。リラの感知に、俺は上原さんのオーラを改めて確認してみた。しかし、たいした変化は見られない。それが逆に不自然で……。


「お二方はわかりませんか? ほら……二人がいた電柱から、く、黒いものが……」


 目の焦点が合わなくなってきている上原さんの、指差すほうを新樹が先にたどる。


「……いないよ。誰もいない。ねぇ、州」


 新樹の問いに返す前に、リラの忠告が飛んできた。


(気をつけたほうがいい。あの娘のオーラ。尋常じゃないものがある)


 わかってる……。俺だって、目の当たりにしてるんだ。


「ああ、そこに人はいない」


 人外ならいる――。俺たちのいた電柱にひっそりと、こっちを覗くようにした黒い影が。しかし、すぐに水蒸気のように消えていった。

 これは人だけの仕業じゃない――かもだ。


「信じてください!」


 恐怖心に支配されそうな上原さんを、新樹が気にかけるように触れようとする。肩に手がかかると、反発で恐怖心を堪えようと口を押さえて、「やめてください! わ、わたし……」そうするように、新樹から離れていくが、肩の震えが止まらない。


「うそじゃないんです! 本当に、本当にそこの物陰に、黒い服を着た人いたんですから!」

「わかってるよ。いづみちゃんを信じてる。だから――」


 新樹が戸惑いながらも、再び手を伸ばそうとする。


「わたし……わたし…………ごめんなさい――」上原さんは、新樹の手を取ろうと悩んで、後ずさって、自宅のあるマンションのほうへ走っていく。

「まって!」


 新樹が上原さんを追いかけようとするのを、俺は無言で手首を掴んで止めた。


「なんで止めるの!」俺の手を振り払おうと暴れる。目に涙を浮かばせていたまでに。

「今の状態の上原さんになにを言っても届かない。ここは一旦、時間を置いて、後日また話せばいい、違うか?」

「でも……それじゃ……」新樹は諦められないようで渋る。


 俺がどうして、菅野さんのときに新樹にだけ黙っていたのか、その理由は――。

新樹は――関わってきた人なら誰でも身体を張って無茶をする。自分を投げだしてでも、その人を守りにきてしまう。そんな度の過ぎた仲間想いで、人情味の溢れる奴なのだ。

 だから極力、新樹の意思を尊重し、考慮しているのである。

 こうなってしまっては仕方ない。そこで俺はある行動を取った。


「新樹」名前を呼んで、俯いている新樹のエラを両方持ち上げた。そして、面を向かう。新樹は、突然のことに言葉を失っている。


「元気じゃない新樹は禁止って言っただろ。だから、笑顔でいれ。これはお願いじゃない、俺からの唯一の命令だ。わかったか?」


 鳩が豆鉄砲を食ったように俺の目をジッと見つめている。少々強引すぎる気もするが、こうでも言っておかないと、後々無茶をしかねないからな。

 新樹は口をぱくぱく金魚みたいにさせたあと、ようやく冷静を取り戻し、喋りだした。


「州のほうが鬼だなぁ」っと、呟いて、俺の目を見る。「ありがとう。慰めてくれて」それを聞いて、なぜか俺が照れくさくなった。


「次、暗くなったらおごらないからな。もう遅いし、早く帰るぞ」


 顔が赤くなっていないだろうか。それを気にしながら新樹の前を歩きつつ、五歩分ぐらい後ろから聞こえた新樹の、「うん……」が、なにもない虚空に消えていった。



     ☆


おっぱいを頭に乗せられるのは、僕の夢じゃないぞ!


友城にい

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