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オーラ・コミュニケーション  作者: 友城にい
第三章 すれ違い、恐怖、つないで
21/55

3-6

 窓の外を眺めると、街灯や車のランプだけがチカチカ照らしているだけ。時計に目をやると、二十二時を回る手前だ。そろそろ上原さんとコウが上がる時間になる。


 することもなくなり、ただ空になったコップの容器に差したストローで氷をつついていると、コウがここに立ち寄り、「僕はそのまま久三野くんをつけるよ」と小声で言って拳を作り、気合いを入れていた。

 上原さんがキッチンの奥に消える。同タイミングで久三野が席を立ち、レジでさっさと会計を済ませて、外に出ていった。

 俺と新樹も席を立つ。そして暇すぎるあまり、シートで寝ていたリラも起こした。


(ん? な、なんだ……?)


「いくぞ」急いでカバンを脇に挟んで、会計し店を出る。わかっていたが、辺りはもう真っ暗だ。空を見上げると、月が出ている。


「どう?」店前付近を見回している新樹が、唐突に言う。


「なにが?」

「怪しい人影がいないかってことだよ」真剣に取り組む新樹の注意深さに脱帽しつつ、「さすがにここで待機してるってことはないんじゃないか」と、暗がりなどを見やる。

「それは偏見だよ。ストーカーっていうのは、そういう心の油断からつけこまれて、後戻りができなくなるんだから!」


 細長い指を鼻に突きつけられて、認識のたがいを改めざるを得ない。ストーカーを甘く見ていた。端からイメージができていたわけではないけど。


 そうこうしているうちに、黄土色のブレザーの制服を着た上原さんが出てきた。俺たちに目で合図を送り、三十メートルほど後方を歩くことになる。


 オーラに変化はまったく見えない。青かかった黒っぽいオーラが上原さんを丸呑みし、表情もよく見えない。わかるのは、俯いているってことだけ。


 店からしばらくは、自動車などが走る公道の横を通っているため、視界が良好で通行人もいる。が、問題はそのあとで、帰宅ルートで唯一ひと気が少ないのが、住宅街に入ってからだそうだ。

 上原さんが言うに、ここの途中で背後から冷たい視線を感じるらしい。

 閑静な住宅街。塀のような仕切りがない家がほとんどで、いわゆるオープン外構と言うのか。治安のよさそうなキレイな軒先が建ち並んでいる。

 とはいえ二十二時過ぎとあって、電気がついている家がすごく少ない。みんな寝るのが早いのか。街路灯だけじゃ心許ない。


 そそくさと身を潜めるために、電柱や街路樹の陰に移動する。


「少し怖いね、ここ」俺が屈んだ上で、新樹はバッグをガサゴソ漁って、なにかを取りだした。見ると、あんぱんにかじりつき、紙牛乳をすすっている。学食で買ったのか?


「張りこみ中の刑事か?」

「いいんや。小腹が空いただけ」

「さいですか……」


 さっき山ほど食べただろ、どれだけ食べればいいのやら。新樹の食欲に唖然とするが、顔を覗くと少し楽しそうで、真剣さを入り混じった目線で上原さんをきちんと見守る。

 そこだけはしっかりしているんだよな。切にそう思う。

 目線を戻して、上原さんと適度に距離を取り、見張りながら場所を変える。背後や前方に怪しい人がいないか、確認もしなければならない。

 もう一度辺りを見渡す。家のほかには公園や工事現場などがある。あんなちょっとした茂みや、仕切りに潜んだりできるだろう。


 俺が模索していると頭上から、「ねえ、州。なんで二人は別れたんだろうね」と訊いてきた。


「上原さんは、いざこざと言っていたがな。といっても深く訊くのは失礼だし」

「それはそうなんだけど、引っかかるんだよね。好き同士なのに距離ができた理由。それと――いづみちゃんの男性恐怖症の発症原因も」


 新樹はときに鋭い視察をする。女の勘ってやつか。


「上原さんの恐怖症に関しては、久三野がなにかしらの発端を握っているだろうな」

「うん。そして、一年経って発生したストーカー。ねえ、もしホントに久三野くんがストーカーの犯人だとしたら、動機はなんだと思う? 州だったら」


 答える前に新樹の顔を見上げる。神妙な面持ちと相応の『不安』の色。


「俺だったら……。俺がもし久三野の立場だとしたら、心配で変な男がつかないか見守っていないと――という責任感が出るかもしれないな」


 久三野はオーラを視るに前者だろうが、あくまでも仮定の話をしたまで。俺は、「でも――」を前置きに、新樹に持論を語る。


「これは、お父さんみたいな保護欲を持っていることが前提だ。本当にがむしゃらで独占欲で相手を好いているのなら、おそらく――自分を意識してほしいんだ」

「それって、記憶や心に刻みたい……ってこと?」


 背後に立つ新樹の声がわずかながら、震えていたのが聞き取れた。


「そうなる。自分を憶えていてほしい。あなたの世界に自分がいたい。そうやって利己的な満足感を得るんだ。過剰で歯止めの効かないやつだけかもしれんが」

「なんで、ストーカーをする人は告白をしないのかな」

「よくわからないが、好きが増していくうちにいつの間にか、自分にとって高嶺の花になっていて、見るだけに留めるんじゃないか。ほら、アイドルとか女優のような感じに」


 新樹は納得するように俺の肩に手を乗せて、隠し味で少しの怒りが入っていそうな声音で、「高嶺の花なんて、気にしないでいいのに……」と、気持ちを抑えるように手に力が入る。


「新樹……?」


 肩にある新樹の手を横目で見ると、そんなに力が入っていないようにも思えた。俺に気を遣っているのか。

 肩から振り返るように新樹を見やる。


「な、なんでもないよ! ほら、いづみちゃん見失っちゃうよ、早く移動しよ」


 手首で目を覆い、先陣を切って俺の背中から走り抜けていく。泣いているわけではなさそうだったが、どうしたんだ?


(あたいにはよくわかるよ。おなごの気持ちが)


 頭上を飛ぶリラが知ったように物を語る。


 自己陶酔するリラをスルーする感じに、置いてけぼりにし、さっきよりも狭そうな場所に行く新樹を追いかける。


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