3-5
「おまたせしました」
かなりデラックスなパフェを新樹の前に置いて、上原さんは新樹の隣に、コウが俺の横に腰かけた。その反動でリラが真ん中に窮屈そうに挟まれる。
(き、キツい……助けろ、お前さん)
とりあえず引っこ抜き、今度また来たときパフェ同じの食わせてやるから、我慢しろ。と、俺の説得にリラは、(まあ、よかろう)とテーブルの下に移動した。
パフェの大きさに応じた専用スプーンでクリームをすくい、パクッと放りこむ。「ん~、ほっぺたが落ちそうだよぉ」と恍惚そうに味わい、顔をとろけさせていた。
新樹がパフェを堪能しているのはともかく、休憩時間はかぎられている。コウが早々に舵を取って進行を始めた。
「予め二人には、上原さんから相談されたことは話してあるよ」
「それで、もっと詳しく教えてくれないか。とくに――久三野臨のことだ」
俺が直球に久三野について問うと上原さんは、俯かせたまま頭が縦に動く。
「わたしと臨くんは、幼稚園から中学卒業までずっとクラスが一緒でした」
「私たちより長いねぇ」新樹は呑気に言って、トッピングのフルーツを摘まむ。そんな反応に上原さんが、目の色を変えて、「そうなんですか!?」と話に食いつく。
「うん。私たちは小三からだからねぇ」マイペースにチョコ菓子をポリポリかじる。
「ということは、そういうことですよね! それで色海さんはどっちが好きなんですか?」
顔を至近距離まで近づけて、興味津々に尋ねる上原さん。さすがに新樹もちょっと押され気味だったが、先にコウが注意した。「上原さん。話が逸れているみたいだけど?」
「あ、ご、ごめんなさい……同じ境遇だったもので」
どうやら上原さんは恋バナとかが、好きみたいだ。
「じゃ、続けて」と軌道修正をし、コウも座り直す。
「すみません。それで、わたしと臨くんは特別、そんなに仲がよかったわけじゃなかったんです。けど中学三年生に上がってすぐ、わたしがなにげなく臨くんとは違う高校を選択した趣旨を伝えると、さりげなく告白されたんです」
「つきあったの?」新樹が若干、頬を赤く染めて訊くと、上原さんは首を縦に振った。
「臨くんは、やさしくて照れ屋で、わたしの持っていないものをいっぱい持っている――そんな人でした」
「なのにどうして別れたの?」不思議そうにスプーンを咥える新樹。
「ちょっとしたいざこざがあって……それから」
痴話ゲンカみたいなものだろうか。そういう経験がないから、親身になれるのは難しそうだ。そこらへんの点を考慮すると、新樹がいてよかった。
「だから、もし臨くんがストーカーだっていうのなら、腹いせなのかな、って。そのときは受け入れようと思っています」
「両親や、警察に相談とかは?」念のために俺は訊いておく。
「それだけはダメ! ダメなんです……」
今までの控えめが嘘のように、俺の顔に訴えた。だが、すぐに冷静になって俯かせる。
「ごめんなさい。わたし、信じてるんです。ストーカーは臨くんじゃない、って。だって――」消え入りそうな声で語尾を濁す。
そこに新樹が、半分以上食べ終わったパフェを一旦置いて、上原さんに身体を向かせる。
「話を聞くに、まだ好きなんでしょ。久三野くんのこと」
「え、どうして?」
「わかるよ。だって、相手のことをよく知っているし、実感もしてる。じゃないと受け入れたり、信じたりできないと思うんだよね。なにより、上原さんの顔にクッキリ書いてあるもん」
「ふぇぇ!? わ、わたしそんなに顔に出ていました!?」慌てて、自分の顔を触る。
「恥ずかしがることないよ。誰かを想い続けるのって、とても素敵なことだもん」
太ももに鎮座していた上原さんの手を両方取って、「ね?」と笑顔を見せる。
男性恐怖症といっても、誰かを好きだという気持ちに変わりはない。
「あの、新樹ちゃんって呼んでもいいですか?」
「もちろん。じゃあ私も、いづみちゃんって呼ぶね」
女性同士の友情が生まれたところで、俺が進行させるために横槍を入れる。
「話を変えるようで悪いが、とりあえずは俺たちに、ストーカーの犯人を明かしてほしい――ってことでいいんだよな?」
「はい。そうです」
俺が話すと再び目線をかなり逸らされる。当然か。
「チーム分けは、事前にコウから伺っている。上原さんには、俺と新樹でつかせてもらう。いいね?」
「わかりました。えっと……お願いします」
俯いたまま、顔をさらに深く下げてお辞儀をした。同時にツーサイドアップの髪も垂れ下がる。それからしばらくし、二人は仕事に戻った。
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