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オーラ・コミュニケーション  作者: 友城にい
第三章 すれ違い、恐怖、つないで
18/55

3-3

「ここいいんじゃない? ドリンクバーも近いし」


 ちょうどよさげな席を確保して、向かいあわせで座った。新樹は、さっそくメニューを開き、食べるものを選びだす。俺もと二つあるメニューを手に持った瞬間、隣の空間に人の存在を感じた。


(おお、バレた? いたずらでご飯を摘まんでやろうと企んでいたんだけどね)


 なにやってんだか。まあいい、いいところにきた。あの角にいる少年、わかるか。

 新樹に見えないようにテーブルの下で、リラに指で教える。


(あの挙動不審な態度をしている――)


 ああ、あの藍色オーラの男だ。あれがなにを現したオーラか、わかるか。


(そうだね。『心配』とか、じゃないかねぇ。もしくは同色系統の『不安』とかもあり得るかもね。でも、あの感じじゃ。前者のほうが有力だろう)


 リラは、あれが『生きたオーラ』か、どうか判別できるのか?


(そこが悩みの種でね。『生きたオーラ』かどうか、見当がつかないのさ。気配を完全に同化させるもんだし、あたいの任務の最大で、一番厄介なところなんだよね)


 それそうか。もしわかるなら、俺にこんなこと頼まないよな。

 俺は、もう一度久三野を見てみる。菅野さんのときみたく、動きがあるわけじゃないし、そう易々といるものでもないか。


(――でも、独自にあたいからもいろいろ動いてみるよ。早く回収したいからね)


 俺は少し驚いた。てっきりリラは、やる気のない天使だと思っていたから。俺は、頼む。と返事をした。リラがいれば、この前よりは解決が早そうなので助かる。


「州なに頼むの?」と、新樹がメニューの上から目だけ出して、訊いてきた。

「この店、エビフライがあるみたいだし、試食してみようと思う」

「やっぱりエビフライマニアじゃん」にんまりと口角を上げて、ぷぷ、と小バカにされる。

「べつにいいだろ、好きなんだから。それより新樹は決めたのか?」

「私はチーズハンバーグのトマトソース添えのセットにしようかな。それとデザートにおっきいパフェも食べてもいい?」

「うっ……わかった。食べろ」


 将来、新樹の夫は尻に敷かれそうだな。可愛らしい笑顔で、夫に反撃の隙を与えない意味で。

 オーダーが決まったところで呼びだしボタンを押すと、近くにいた女性店員――つまり上原さんが、「はい。ただいま」と俺と新樹のあいだに立ち、「ご注文をどうぞ」とハンディターミナルという、端末の機械をピッと押す。

 見たかぎり、上原さんは女性客だけを接客していた。なので、俺がオーダーするとビビらせてしまう可能性もある。なので、前もって新樹にすべて言ってもらうように考慮した。


「えっと、エビフライの洋食セットと、チーズハンバーグのトマトソース添えの洋食セット。あ、ご飯大盛りで。それとドリンクバー二つ。あと単品でポテト、サラダ、からあげ、うどん、マルゲリータ。それから食後に特大チョコレートパフェもお願いします」


「鬼ですか……」俺がそう秘かに呟くと聞こえたようで、「多い? 減らそうか?」と少し残念そうに、上原さんに「あの……」と言いかけるが、「わかった。そのままでいい」と制止した。


 上原さんはオーダーを繰り返したあと、「少々おまちください」と承る。歩き、厨房に戻ろうとすると新樹が突然、「ちょっとまって!」と呼び止めたのだ。

 上原さんは足を止めて、「なんでしょうか?」と振り返り様に前髪が揺れ動く。


「私、色海新樹っていうんだ。新しいいつきで『あき』。珍しい名前でしょ? あなたの名前も聞かせて」

「それじゃあ、あなたが岡くんの言ってた、相談に乗ってくれるって人?」

「うん。私たちにまかせておいてよ。絶対、不安になんかさせないから」


 新樹の温かく、元気が出る言葉。それでいて――


「ふふ、面白い人ですね。わたしは、上原いづみって言います」


 ――思わず笑わせてくれるのだ。


「また、あとで来ますね」


 上原さんは軽く手を振って、厨房へと入っていく。それを新樹は気になるような眼差しでずっと見ていた。「ねぇ、州」


「なに?」数秒前とは打って変わって、弱々しい口を新樹は開く。


「あんまり、訊くのはよくないとは、わかってるけど…………上原さんのオーラ、どんな感じだった?」


 新樹が俺にオーラについて訊くのはホント珍しい。それだけ本気ってことか。俺はためらいを感じつつ、嘘偽りなく答えた。


「そうだな。常に黒く、青味のかかったオーラをしてる。おそらく、ずっと力を抜いていないんだと思う」


 そう伝えると新樹は、「そうだよね……」と。続けて、救いを求めるように、「私が笑わせたときはどうだった?」と、俺にすがるように目線をぶつけてきた。


「残念だけど、変わってなかった。きっとそれほどまでに上原さんは、精神的に追いこまれているんだ。――けど、新樹の好意には嬉しかったと思う。俺だったら嬉しいし」


 気の利いた言葉は八年間いても、そう言えない。

 俺はただ、新樹に難しく生きていてほしくなくて、そんなことを口走った。


「そうなのかな……」


 安心できないようで、しょんぼりした不安に満ちたオーラをさせている。

 同じ女性として見過ごせないし、なにかしら、どうにかしてやりたい気持ちが募っているのだろう。しかし、俺が考える新樹の像は違くて、直視できないようなことを言った。


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