3-2
「お疲れさまでしたー」
グラウンドの奥から大きな声が聞こえてきたのは、俺が観戦しだして五時間以上経ったころだった。
日没が遅い季節とはいえ、それなりに太陽も待ってくれたほうだろう。もう半分はさよならを言わせてくれない。それでも残り半分に、さよなら、の労りの言葉をかけた。お疲れさん。
「がんばってるな、みんな」と手前のサッカー部と奥のソフト部の片づけを見送って、グラウンドから少し離れる。
コウは追試が終わると携帯のメールで、『新樹ちゃんとご一緒に』とからかっているのか、わからない本文が送られてきた。返事で『わかった』と至って冷静に送信。すぐに『釣れないね。州は』とやはりからかっていたようだったが、そこでやり取りをやめた。
時間を気にして、携帯で確認していると「おまたせー」とデート現場のような雰囲気で、新樹がこっちに走ってやってきた。「急いでいこ」と俺の手を掴む。「またか」と抵抗する気はないが、手を繋いでいるのは妙に、人目に晒されて恥ずかしい心境になる。
「ちょっと待て」新樹に力負けせず、一旦止める。「うん? どした?」
「いやなわけじゃないんだが、手を繋ぐのをやめてくれ。新樹のスピードについていくからさ」
「えーなんで。私は気にしないよ」「俺が気にする」「どうして?」新樹は、不思議そうに顔を覗きこんでくる。「こ、恋人っぽいから……。違うのに」
俺の理由に「あー」と、納得する。ふう、これでやめてくれるかな、と安堵したのも束の間、新樹は再び俺の手を握った。
え? 俺は驚いて新樹を見る。白い前歯を見せて、子供っぽく笑う新樹。
「そういうのは勘違いさせておけばいいんだよ。逆に私のボディーガードみたいでカッコいいじゃん」走りだした足取りのまま、俺のほうに振り返る。
「ボディーガードって……このままじゃ、彼氏できないぞ」
少したじろいで、諦めさせる言いわけをした。
「ふーんだ、いーもん」
新樹が空気の入った風船のように膨れっ面になる。怒らせるつもりはなかったんだが。とにかく、どうであれ効果があったのか、「なら、袖を持たせてよ」とレベルが下がった。のか?
そのまま数十分歩いて、ファミレスに着いた。
ここは、二十四時間営業の大手飲食店だ。でも来るのは初めてで、「ほら、入るよ」と新樹の先導で店に入店。
店内は明々としていて、それでいて落ち着いた雰囲気がある。十八時過ぎとあってか、時間的にピーク時だ。いろんな人たちが食事やら会話を楽しんでいる。
「いらっしゃいませ。あ、ようやく来たね」
対応に出てきたのは、ディーラーのような格好をしたコウだった。新樹が開口一番に感想を述べる。「コウ、似合ってるよ」ウインクをして、親指を立てグッドする。
さて、俺は「久三野は来てるのか」と、コウにさっそく本題を持ちかける。「彼はあっこだよ」と指を差さないが、目線の先を辿ると俺と同じ制服を着た男子生徒が、店の角の席に腰かけていた。
「いつもあそこの席なのか」「まあね。あっこからが一番、禁煙席を一望できるから」たしかに店の作りからして、奥行きまでしっかり見通せそうな席だった。
割って入るように新樹が、「例の女の子はどの子?」と店の中をぐるりと首を回す。
「名前言ってなかったね。上原さんは、久三野くんとの接近を避けるために禁煙席を担当してる。ほら、ツーサイドアップの子。あの子が上原さん」
コウに言われるように禁煙席を一瞥。すぐに上原さんは見つかった。
制服は、男女共通の蝶ネクタイのついた上着に、簡素な黒いフレアスカートのようだ。容姿は、身長は平均くらいだろうか。いかにもいいとのお嬢さまのような風貌がする。
目につくブラウンの混じった黒髪に、目線の高さでカットされた前髪。そこから恐怖心に負けない一生懸命さが伝わる瞳が目についた。
でも決まり手は、俺にしかわからない青かかった黒のオーラ――『恐怖』。ストーキングされているんだ。怖いのは当然か。それに合わせての男性恐怖症。あれじゃ、気の休まる時間がないはずだ。
ふと、視線を感じ、隣を見ると新樹が不機嫌そうにしている。「どうした?」
「州、ジッと見てる……」口の中をぷうーと膨らませて、くちびるをはみださせていた。
「え、あ、ちょっと気になることがあってな。決してイヤらしい目的とかでなく……」
言いわけにも聞こえるが、事実違うわけで……。
そんな雰囲気を感知したコウが、「休憩に入ったら上原さんを向かわせるよ。それまでご飯でも食べてて」と笑顔で言う。それから、「じゃ、そろそろ戻るよ。禁煙席側に座って、それからオーダーは呼びだしボタンを押したら来るよ」急ぎ口調で注文のやり方を言い終わると、喫煙席側の仕事に戻っていった。
俺が「ん、じゃ」ここで突っ立っているわけにもいかないので、「どこか座ろうか」と禁煙席に足を運ぼうとする。「私、ソフトでお腹ぺこぺこなんだよねぇ」と新樹がなにか求めているような顔をしている。
「なんだよ……」半分察知できるが、一応。
「おごって?」反則級に可愛らしくおねだりしてくるが、反射的に「なんで」と尋ねる。
「むー、さっき上原さんを凝視してたの、本人に言うから!」
ぷすー、とよく浮上する気球のように膨らませて、拗ねている新樹。バーナーを焚いたら、本当に空を飛べるんじゃないか?
俺は、潔く降参し、「あー、あー、わかった、わかったから、ったく」
「きゃは、ありがと、州」
百八十度打って変わった純真無垢を思わせる笑顔。コウの笑顔とはまた違って、非常に表情が柔らかい。
その後、空席があるか見渡し、移動した。
キャラ描写もっと練習しないとなぁ…
友城にい




