3-1
追試は二日間に渡って行われる。午前中に俺は下校できるのだが、帰ってもリラしかいないので暇だ。暇つぶしに新樹の部活風景を遠目に、サッカー見物することにした。
が。そうはいってもサッカーに興味などさらさらなく、ルールもほとんど把握していない。どっちにしても暇になったので仕方なく昨日、コウが話した内容を振り返ってみる。
「――くさの……? 知らん。新樹は?」
「知らないなぁ、何年生なの?」
視線を落としたまま話に加わった新樹。やっぱり心当たりがまったくない。
「一年生。同じ学校だけど、知らなくて当然だよ。僕も昨日、初めて知った名前だからね」
両肘をついて手の甲にあごを乗せる。その顔は少々楽しそうだ。
「で、その久三野ってやつがどうしたんだよ」
「うん。じつは昨日、バイト仲間の女の子に相談を受けたんだ」
コウは学校や俺にかぎらず、誰からも悩みを受けつけやすい。この調子じゃ、現在進行形で何件相談を受け持っているのか、計り知れない。
「その子、近所の私立に通っている子で、行き帰り徒歩らしいんだ。だけどここ最近、ずっと誰かにあとをつけられている気がするって言うんだけど」
「要約するとストーカー被害ってことか?」
頷くように、「そうみたいだね」とコウが眉をひそめる。そこに新樹が、採点途中にも関わらず、突然立ち上がって、
「許せない! ストーカーは人類をおびやかす『悪魔』だよ!」
同意を求めるように「そうだよね!」と、俺とコウに強く言う。なので、「あ、ああ……」コウも少したじろぎつつ、「さすが新樹ちゃんだね」と賛同した。
「相談したってことは捕まえるんでしょ! 私もいいよね!」
新樹がコウに強く志願する。
「もちろんだよ。そのためにここで話したんだから」
コウの承諾に「やった!」と喜びを表す新樹。遊びじゃないけどな、と思っているとコウが続ける。
「今回、新樹ちゃんに協力してもらうのには、ちゃんとした理由があってね。その女の子、ちょっとワケありで……」
どうにも歯切れを悪くするコウ。俺が、「ワケあり?」と問い返す。
「僕に相談するのも一週間考え抜いて、決意を固めて話してくれたらしいんだ」
それって……と思った。そこに、新樹が「男性恐怖症なの? その子」と、俺の代わりに口にする。
コウは一回小さく顔を縦に振り、「ある事情でね。だから今回は、新樹ちゃんにぜひとも協力してほしいんだ」
「なら尚更、私がいないわけにはいかないね!」
拳を作り、新樹は熱く燃える炎のように気合いが入っていた。
話を戻すようにコウに訊く。
「そこでなんで久三野臨って名前を出したんだ。まさかそいつが犯人ってわけじゃ……」
「決めつけているわけじゃないよ。ただの容疑者ってだけ。それだけの動機があるんだ」
「たとえば?」
「久三野くんは、その子が出勤していると毎回のようにファミレスに来て、その子が仕事を上がるタイミングで帰っていくんだ」
「なるほど。そうなると尾行は極めて可能なのか」
「でも久三野くんがやってるって証拠はないんでしょ?」
新樹がテーブルを赤ペンで軽く叩いて、俺とコウを交互に見やる。
「だから、それを今回調べるんだ。犯人特定のために」コウは落ち着いて、遂行する。「方法は?」と、俺が促す。
「州と新樹ちゃんには、その子の後ろをついて行ってもらう。そこで怪しいと思う人物をさがすんだ」
「それじゃコウが、久三野を尾行するってことか?」
「そう。これで万事OKじゃないかな」
「そんなにうまくいくかぁ……?」
不安になる俺を他所に新樹は、「そんじゃ、明日さっそくファミレスにレッツゴー」と、赤ペンと一緒に拳を天に突きだし、張り切っていた。
それを横目に俺は思う。
この先、どう転がるにしろ。個人的に久三野臨に伺う必要がありそうだ、と――。
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