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オーラ・コミュニケーション  作者: 友城にい
第二章 幸運、下暗し
14/55

2-5

「州、おまたせー」


 相変わらずの癒される声と一緒に、ホクホクの艶やかな肌をさせた新樹が入ってくる。

 しかし、目を向けるとその格好に驚きを隠せず、目のやり場に困った。

 下に黒のインナータンクトップを着ているとはいえ、真っ白なオフショルダーがかなり大胆不敵だった。

オシャレに疎いと言いつつ、きちんとそれっぽい格好はする新樹。やっぱり女の子である。でも変わらずクローバーの髪留めはしていた。


「ちょっと新樹。異様に過激的な服を持ってたんだな」


 想像してしまった。新樹が白のローライズをその下に着用している姿を――ダメだ、邪念を振り払え、俺……。


「そう? 大体の子はこんな格好するって言ってたよ?」


 タンクトップの襟元をひらひらさせて、風を送りこむ。無意識だとはいえ、エロい……。そんな俺の向かいにおかまいなしに座り、隣にあった扇風機を見つける。


「州、つけるねぇ」


 返事せず頷くと電源をつけて、あぐらをかいた。さらにタンクトップをスカートのようにひらひらさせる。「湯上りはこれにかぎるねぇ」なんて、人の気も知らずに呑気で自由気ままで……。

 新樹の大胆な格好での仕草は、完全にチラリズムの域を超越していた。見え隠れする切れ長のへそ。まくりすぎて、たまに見える下乳。あぐらをかいて、動くものだから、ピンクのハーフパンツがずれて股間節が……。くっ、これはもう単なるエッチなイベントのような気がする。

 思考回路が故障した、この事態を「無邪気」と言えば状況は緩和されるのか?

 払拭するため、黙りこんでいると、ぱたぱたしながら、「あ、州照れてる? いいよ、私は気にしてないから」と、口元に手をあてて、にやにやする新樹。


「見てしまったら、いくら俺でも、いやだろ……?」


「うーん、いいよ。見えたらラッキーということで」新樹は扇風機に顔を寄せて、にひひ、と小バカにするように笑う。嫁入り前の女の子のセリフじゃないだろ。


「ったく……知らないからな」


 呆れてこれ以上なにも言えない。新樹らしいと言えば新樹らしいが、それとも俺が男として認識されていないのか?

 あ、となにかを思いだしたように新樹が、「そういえばお母さんとお父さんが帰って来てたよ。よかったね」と、満面の笑みで俺に報告。


「そっか。父さんも仕事上がれたんだな」


 素っ気ない反応をした自分。もっと嬉しがればいいのに、と苦笑混じりになったものが底に貼りついた。今の俺のオーラは何色なのだろうか、とても気になる。

 下に行ったときに、「おかえり」と言おう、と思っていると階段を駆け上がる音がし、ノックもなしにドアが開く。


「二人ともごめんね。家で汗流してきたから、少し出遅れたんだ」

「やっときたか、コウ」


 オーラと色が被る緑のリュックを背負ったコウが入ってくる。伊達メガネをオシャレにかけて、夕方とはいえこの暑さ。自転車を漕いで来たことだろうにオーラは、平常運転のままだ。さすがコウ。

ペコリと笑いを交えてコウが、「おや、新樹ちゃん格好がエロいね」と感想を述べた。


「もう、コウまでおおげさだよー」


 新樹は風に当たり、あぐらをかいたままコウに顔を向ける。


「まで、てことは州も?」と、当然の疑問をぶつけてくる。それに対し、「そりゃな。誰が見てもそう言うだろ」と言ってやる。ここでやっと思考回路が直った。

「ごちそうさま。新樹ちゃん」


 手を合わせて、ありがたやーとご利益を祈るお婆さんみたいにするコウ。


「なにも食べさせないよ! ほら、ふざけてないで勉強会始めよ!」


 小動物チックに怒る新樹。あの反応じゃ、コウの言った意味を理解していないようだ。さておき、扇風機を占領する新樹は、バッグからノートと筆記用具を取りだした。

 そうだ。和んでいる場合じゃない。このままコウに追試を受けさせても、再追試になるのが目に見えている。ここは平均点キープが精いっぱいの俺と新樹の腕の見せ所なのだ。

 急いで小さなテーブルを三人で囲み、勉強会を開講する。


「最初どれからやる?」


 新樹が明日、行われる追試の「現代文」「英語」「数学」のノートを並べる。ちなみにこのほかにコウは、「世界史」「化学」「物理」と追試がある。


「こりゃ大変そうだな……」やる前から俺は呆れて、ぐうの音も出ない。全部で九教科だったはず。三分の二が追試かよ……。


 新樹がコウの答案用紙を見ながら、「この中で点数よかったのは保健だけだね」と呟く。

 溜め息を吐きつつ、コウに「人体訓練は完璧だもんな」と視線を送る。


「将来、世界を周りたいからね。そこはかかせないよ」


 腕を捲くし立てて、未来を語るコウは輝いている。夢はいいな、って思う。

少しでもやる気を出してもらおうと、「それなら英語もかかせないだろ。世界共通の語学だし」と、向上心を促す。

 ペンを握って、「そうだね。なら役に立ちそうな英語から突破しようか」と俺と新樹の顔を交互に見やり、号礼の「よーし、やるよー」の新樹の合図で勉強会は始まった。


 すぐに「はい、まずはこれ」と英語以外の教科書を一旦、床に退避させて、新樹が徹夜で手間暇かけて作ってきた英単語帳と問題集を渡す。

 今日だけで三教科もあるわけで、どんどん暗記法を酷使するしか対処の施しようがない。なので、問題集と復習で乗り切るのが恒例の対策法。


「どっち作る?」

「現代文にしよ。数学は時間かかるから」


 俺と新樹がやることは、これの繰り返しを迅速にやり進めるために、他二教科のペーパーテストの作成に励む。もし英語以外を選んだ場合は、俺とワンツーマン指導だった。コウはそれを知ってのことで英語を選んだのだろう。

 コウは英単語帳をぺらぺらめくり、ごにょごにょ口ずさむ中、黙々と問題集にシャーペン、青ペンを交互に走らせる。

 時計の秒針以外、静まり返った部屋。その均衡を破ったのは、ひとつのノックとドアが開く軋む音。顔を覗かせたのは母さんだった。


「がんばっているわね。はい、麦茶をどうぞ」

「ありがとう、深砂さん」

「ありがとうございます」


 嬉しそうに手を合わす新樹と丁寧にお礼をするコウ。

 ここにも二人の性格が直に表れている。つきあいの長さは一緒なのに、新樹とコウの母さんへの接し方が、こうも違いが出るものなのか。推測するに、性別や距離感が関係しているのだろう。


「あと一時間ぐらいで夕食ができるから、下りてらっしゃい」


 母さんは御盆に乗せた麦茶を三つ置くと、長居は無用といった感じに部屋から出ていく。

 新樹の「はーい」と、コウの「ごちそうになります」そして、俺の「わかった」を聞いて、ドアを閉めた。そのタイミングで、出来上がったテストをコウの前に置く。


「とりあえず、急いで現代文のペーパーテストをしよう」

「わかった。でも現代文はそんなに悪くなかったからね。ぱぱっと終わらせられるよ」


 やけに自信ありそうだが、さっき見た答案用紙は二十六点だった。コウの中では高いほうなのか、果たして結果はというと――。


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