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オーラ・コミュニケーション  作者: 友城にい
第二章 幸運、下暗し
13/55

2-4

「えっ!?」


 反射的に上半身を起こす。反動で眠気が途方の彼方に飛んでいった。『覗かないか?』と言われたとき以上の、驚愕の声が出る。


(シャワーよりまず気になるもの。それはその人が身に着けていた「下着」。興味ありますよね?)


 ちょっと待て、リラ。どういうつもり――


(はい。脱衣所に着きました。おやおや、どうやら脱いだ下着や着替えは、カバンに入れているようですな。さてさて、物色物色……)


 脳内で、最後まで話を聞け! と叫ぶが、聞く耳を持たないリラ。

 そこで気づく。今ならまだ止めにいける気がすると。脱衣所なら突入は可能だ。捕まえに行こうと腰を上げる。


(あ、無駄だよ。お前さんが入ってきた瞬間、テレポか風呂場のドアを開けるからね。そこでじっくり終わるまで聞いていな。へたれくん)


 へたれ言うな。うなだれるように浮かした腰の力が抜ける。普通の人間の俺に、打つ手なんてなしか……。あと、やっぱり最後の言葉むかつくな。


(あ、見つけました。奥にきちんと畳んでおります。几帳面な性格なようですね。満点)


 ベッドに座っているだけの俺では、リラの能力により、抑止するなどできるはずもなく。かといって、この実況はラジオじゃない。テレパシーで直接、頭に入ってくる。耳を塞ごうが無意味。俺になす術なしだった。


(ええっと、これが脱いだ下着のようです、まだ体温が残っていますよ。ホクホクで匂いもたまりません)


 感想は訊いてない。リラの鼻息だけが入ってくる。なに興奮しながら、嗅いでんだ! それとなんで、口調まで変わってんだ!


(上下純白ですが、パンツは使い捨てでしょうか。生地が薄くすごく軽い。そしてシンプルなデザイン。でも、家にきちんと持ち帰るようです。欲しいですか? 嗅ぎますか?)


 俺は末期の変態か! 心でツッコミは虚しいが、リラはかまうことなく次の行動に移す。


(続いて用意された下着は、おおっと、これはこれは。少しきわどいですね。勝負でしょうか)


 俺は感想や言葉を述べず、無言で通す。と、嬉々とした声でコメントしだす。


(これはローライズというパンツのようです。いやー、これにはあたいも驚きが隠せません。ちなみに色は白です)


 ローライズはたしかパンツなどのボトムスにおいて股上が浅く、つまり股間からウエストまでの丈が短いデザインのことだったはず。コウや新樹のファッションの話で知った。


(では、新樹さんが上がる前にさっさと実況しちゃいましょうか。びゅん)


 口で効果音を言うリラ。なにそのかけ声。と思うつつ、あまり知ってしまうのがダメな領域を頭で踏みこむ。


(とうとう新樹さんの前までやってきました。ただいま髪を洗っているようです)


 シャンプー中だろう。しかし、想像するのはダメだ。必死で無心を貫こうと念じる。

が。リラがそれを許すはずもなく、(少年にも耳をシンクロさせてあげる。あたいからの早めのプレゼントさ。受け取れーっ!)え、や、やめ……。とかの否応なしに、耳に違和感を抱く。瞬間――


(まず目につきますのは、鍛えられた腹筋とキュートなおへそ。引き締まったくびれ)


 リラのグルメリポートみたいな説明の脇に、水が弾く音が混ざる。

 時折、新樹の色っぽい吐息も俺の耳に入ってきて、リラどころじゃない。


(上はとっておきまして、後ろに回ってみましょうか)


 悠々自適にしているリラに、おい、これ今すぐ止めろ、と要請するが、(ム~リ~。うーん、お尻は意外にもプルンプルンでハリがありそうですね。触れられないのが残念でなりませーん)即答で拒否され、実況を続行。

 身体を洗っているのか、掌で撫でる音。それに合わせてリズムに乗った鼻歌が、俺の心をくすぐる。いかん……それどころじゃない。


(スラっと伸びる二本の脚も贅肉でなく、ソフトボールで蓄積されたムッチリと引き締まった太ももでさえ、彼女が身につければ自然と美へと変貌できる、不思議!)


 歓喜に躍るリラの嬌声。俺はもう一度、いいかげんにしろ、と懇願を強める。


(耳だけじゃ足りない? 視覚や触覚もシンクロしてあげようか?)


 しない。頑固拒否する。そうじゃなくて――


(再び前に回りまして、少年おまちかねの、おっぱいのコーナー)


 俺の言うことに一切耳を貸さず、独りよがりに新樹の入浴に夢中になっている。


(汗だくの髪を洗い、身体のあちこちを隅々まで細かく、丁寧にスポンジと掌を使い分け、汚れをごしごしと落とすたびに豊満に育った、たわわな二つの白桃がたぷんたぷんと――)


 もう耐えらない、と頭を抱えた。罪悪感しかこみ上げてこない。俺に新樹を穢すなどできるはずがないんだ、と。

 だから、もうやめてくれ……、とリラに胸が張り裂けるように訴えかけた。


 届いたか、わからない。けど、(――わかった。お前さんには心底負けたよ)と、実況を中断。


 それを最後に脳内から、リラの声とシャワーの放出音と新樹の声が途絶える。同時に、「ただいまー」とテーブルの上に、陽気で反省のない気だるそうな天使が帰ってくる。

 俺は、いつもよりお腹を膨らますぐらいの深呼吸をした。少し気分が落ち着く。スクッと、お尻を浮かし怒りに似た感情をぶつけるため、リラの額に腕を伸ばし発射。


「あたー」


 痛快な反応をし、手でさすりだす。精いっぱいの制裁のデコピンを食らわした。アフロでデコが丸裸でやりやすい。今回は、これで勘弁してやることにした。


「もう二度とやるなよ」


 するとリラは、ふんぞり返り、「善処はしてやろう」となぜか上から目線で物を言う。


「見えないからってなにやってもいいわけじゃないだろ」

「ダメか? お前さんもこうなったら、いろいろやってみたいと思ったことぐらいあるはずさ」


 自分のことを棚に上げるリラ。


「ねぇよ。俺はされていやなことは、たとえバレなくてもしないし、やめさせる」


 俺は真っ向から否定する。だが、リラは「ふーん」と一蹴。

 リラは、嘲いにも似た目つきで、「お前さんみたいな人は俗にいう、『偽善者』だと言うんだろうね」と俺になんのためらいもなく、言い放つ。


「ふん。それでいいよ。俺を理解できる人が逆に偽善者になってしまう」


 リラの表情は、ピクリとも変わらない。「両親や友二人はどうなんだい」と俺の逸らす視線を逃がすまいと、追ってくる。


「両親も新樹もコウも、俺の事情を深く訊いてきたことはない」


 俺は小声で、「両親は多少なり知ってると思うけどな」と継ぎ足した。


「気難しい奴だね。お前さんは」


 頭の中でスイッチを見つけた。手を差しだすと、見憶えのない二人の嘲笑する姿が頭に浮かび、肩が小刻みに痙攣しているのが、触ってわかった。力を加え、腕を押さえるが止まらない。俺は恐怖を憶えている。自分が憶えていなくとも、身体だけは鮮明にトラウマのスイッチの位置を把握していて、身勝手にオンに切り替えていた。


「そう……かもな」蚊の鳴くような声で返事するのが、精いっぱいだった。

「あたいは、お前さんを傷つけるつもりはこれっぽっちもない。しないよ、覗きなんて。飽きたからね」


 リラは気だるそうに、ベッドと壁のあいだに小さな身体を滑りこませて寝転び、黙ってしまった。しばらく上から見ていると、肩が上下にゆっくり揺れ始める。どうやら眠ってしまったようだ。


(――あたいは寝る。そろそろお邪魔だろうからね)


 声が聞こえて、ああ……、と了解の合図。数秒の間を空けて、ドアが開く。


リラの力は、いろいろ遊べて楽しい。

露骨なエロ回、申しわけない。


友城にい

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